GBA版逆転裁判公式サイトコラム

GBA版逆転裁判公式サイトコラム/1


Web archive/2001年
消えつつあるネット上の貴重な資料を公開。


第1回

「ごあいさつ」

こんにちは。
逆転裁判チームの巧 舟(たくみしゅう)です。あやしげな名前ですが、断じて日本人です。このゲームでは、企画とシナリオ、ディレクターを担当しています。

"いつか、誰も経験したことがないような、新しい探偵ゲームを作りたい"‥‥、
それが入社以来、6年間の夢でした。
チャンスが巡ってきたのは、1年前。2000年8月のこと。
6年も待って、ヘボいモノを作るわけにはいきません。推理モノのおもしろさとは何か? また、それを"ゲーム"として表現するには、どういう方法を採るべきか? ‥‥トコトン考え尽くしました。

最初は、ウソを見抜くのが得意な私立探偵の物語でした。
ところが、ある日ふと、"探偵ゲーム"だからといって、何も"探偵"にこだわることはないんじゃないか‥‥? そんなことを思ったのです。
その瞬間、いきなりあるイメージがアタマに浮かびました。

舞台は法廷。ウソを見破られまいとオドオドしている証人。
その気の毒な男に指をつきつけて、
「異議あり! あなたは大ウソつきだ!」
と、大声でキメつける弁護士。追いつめられた証人は、苦しまぎれに、さらにトンでもないウソを繰り出し、事態は予想もつかなかった方向へ展開してゆく‥‥。

推理小説の世界では、1つのジャンルにまでなっている《裁判》。
あんなスリリングな世界が、なぜゲームにはないんだろう‥‥?
‥‥すべてはこの日の、一瞬のヒラメキから始まりました。

さて。この思いつきが、いかにして『逆転裁判』になっていったのか‥‥?
これから、お話ししていきたいと思います。どうぞ、よろしくおつきあいください。

第2回

「会議は踊る」

最初の企画書は、1週間ほどで仕上がりました。
2000年、9月1日。
チームのみんなを集めて、初めてのミーティング。とても小さなチームで、ぼくを含めて7人しかいません。みんな初顔合わせということで、ちょっと緊張気味です。
企画書には自信があったのですが、このときの反響をヒトコトで表現するならば‥‥"悲惨"。

「えー? 探偵ゲームじゃなかったんですかぁ?」
「これならいっそ、弁護士事務所の経営シミュレーションにしたほうが‥‥」
「自分は、弁護士より裁判官になりたいッス」
「主人公をハムスターにしたらイイと思います!」
‥‥それはもう、圧倒的に大混乱でした。

やはり、"裁判"という聞き慣れない題材がマズかったか‥‥?
7人しかいないチームが、初日にしていきなり破綻!
思わずアタマをかかえてしまいました。
‥‥このピンチを乗り切って、1つにならなければ‥‥!

ふと窓から外を見ると、裁判所が見えました。実は、カプコンから自転車で10分のところに、地方裁判所があるのです。‥‥これはホントの話ですよ。

「そうだ! 親ぼくを深めるために、みんなで裁判を傍聴しに行こう!」

この計画は、さっそく実行に移されました。おやつを持っていくヤツ、
スケッチブックを小わきにかかえているヤツ。‥‥ちょっと、不謹慎でした。

裁判所。結論から言って、そこはぼくたちの想像を超えたワンダーランドでした。
それについては‥‥次回のコラムで報告しましょう。

第3回

「裁判傍聴 (1)」

大きな裁判所なので、法廷の数は、実に50室以上。入り口の受付に1冊のノートが広げてあり、
今日の法廷スケジュールがビッシリ書き込まれています。
窃盗から殺人まで、あらゆる犯罪が並んでいるさまは、まさに"壮観"のヒトコト。
「いきなり殺人事件はヘビーだから、軽いヤツ、行きましょう」
我々は、なんとなく「ワイセツ物陳列罪・判決」の法廷に入りました。
‥‥一番、罪がなさそうだったからですよ。

20人も座ればいっぱいになってしまうような、小さな法廷でした。
係官に連れそわれて、被告が登場。よれよれのTシャツを着た、17才ぐらいのヒョロリとしたメガネの少年です。
腰縄に、サビた手錠。‥‥いきなりナマナマしい光景。ちなみに、手錠と腰縄は、法廷内では外されます。
やがて裁判長が入ってきました。
「それでは、始めましょうか」
「起立」
「礼」

裁判長、おもむろにノートを広げて、そのメガネの少年がやったことを読み上げます。
‥‥事務的に、しかし克明かつ鮮明に。淡々と、しかし明瞭かつ容赦なく。

「○月×日。○○ビルで、被告は××歳の女性をエレベータに連れこみ、背後から抱きしめ、
ブラウスの下から左手を差し入れ、左の×××を×××××ました。また同月×日、○○町の路上にて、
公衆が見ているのを前提の上で、自らの××××を××××し、さらに同月×日‥‥」

あのメガネの少年が、そんなコトを! ‥‥思わず目が点に。
ふと隣を見ると、さっきまで裁判長のスケッチをしていたデザイナーの手も止まっています。
しかし、これはフィクションではなく、実際に起こった事件です。
そう思うと、自然に笑いも引っこみます。

「あなたは初犯だから、執行猶予がつきます。わかりますか? 執行猶予」
「いいえ」
「じゃあ、弁護士さんに聞きなさいね」
「ハイ」
‥‥アットホームなフンイキも、妙に印象的でした。

第4回
「裁判傍聴 (2)」

被告の有罪判決を見届けた我々は、その後、いくつかの法廷をハシゴしました。
覚醒剤不法所持、業務上過失致死とランクを上げて、最終的には、殺人罪。血まみれの包丁がぬっと出てきたり、実になまなましい犯行動機を聞かされたり。‥‥やっぱり、殺人はコワい。

裁判の傍聴は、とても有意義な体験でした。なにより、犯罪というものが、実は我々の日常生活と紙一重のところにあるんだ、という現実を思い知らされました。
そして‥‥実際の裁判は、イメージしていたものと、若干ズレがあることも。

●裁判長は木槌を叩かない
裁判といえば当然、木槌でカン。そして「静粛に」。
‥‥これはハズせないだろうと思っていたら、現実の裁判長はミゴトに手ぶら。そんなもの、叩きゃしません。「静粛に」もありませんでした。

●プロは「異議あり!」がキライ
「あなた、被告の住んでいる町に、恨みでもあるんでしょう」
検察側の偏見に満ちた尋問に対して、弁護士がゆっくり立ち上がります。
(そうだ! そこで“異議あり!”だ)
本場の“異議あり!”が聞けると思って、身を乗り出したのですが‥‥。
弁護士センセイ、なぜか半笑いです。そしてアタマをかきながら、
「あ。今のソレ、ちょっと。‥‥ねえ?」
すると、検事も心得たもので、照れくさそうに笑って、
「‥‥そうですね。‥‥質問は取りさげます」

ちがうだろう! なんだよ“今のソレ”って! そこはビシッと人差し指をつきつけて「異議あり!」じゃないか!
どうやら裁判の現場では、“異議あり!”なんて、はやらないみたいです。


‥‥ちなみに、これらの現実は、いっさい『逆転裁判』には反映されていません。裁判長は、ほとんど“ハンマー”とも呼べる巨大な木槌をガンガンたたきまくり、弁護士たちは、何かにとりつかれたかのように“異議あり”と叫びたおしています。
「お前ら、裁判所にナニしに行ったんだよ!」
と、思われるかもしれませんね。
でも、そもそも裁判の傍聴は、チームの親ぼくを深めるのが目的だったわけですから‥‥。

第5回
「タイトル」

裁判の傍聴という修羅場をともにくぐり抜けた我々は、"大切なナニか"を取りもどすことができました。
これで、ゲーム制作に入る準備はカンペキです。
デザイナーはキャラクターの試行錯誤、プログラマーは基本的なシステム作り。
ぼくが最初にやったのは"タイトル案出し"でした。
これがバシッと決まれば、"○○チームの巧です"と自己紹介も可能になり、よりチームの結束が固まるはず。
当時、主人公の名前が"爽果(そうか)なるほど"だったので、
とりあえず「なるほどくんの~」シリーズをいくつか考えました。

『なるほどくんの 絶叫裁判』
『なるほどくんの 弁護道断!』
『なるほどくんの 出るトコ出ようか!』
『よかったね なるほどくん』‥‥など。

‥‥このシリーズの中に"逆転法廷"というのもありましたが、
当時はあまり注目されませんでした。
これではあまりにフツーなので、次はちょっと、文学的なアプローチです。

『美しき判決』
『琥珀色の証言』
『君の瞳に異議あり』
『ハムスターを育てよう』‥‥など。

‥‥アキラカに社交辞令のタイトルが1ケ、見受けられますね。
文学的なアプローチは、なんか全体的に微妙なイヤらしさが漂っていて、
あまりウケがよろしくなかった。そこで最後に、インパクト一発勝負のタイトルを考えてみました。

『サバイバン(SURVIBAN)』
『べんご3兄弟』
『潔白ブギ』
『BINGO BENGO』‥‥など。

『サバイバン』
これが、このゲームの最初のタイトルです。
‥‥チームで発表したとき、一番ウケがよかったので決めました。
それから半年ぐらいは「サバイバンチームでーす」と名乗っていたのですが‥‥。
いつごろからか、
「なんか、変身しそう」
「宇宙刑事みたいッス」
などの声が聞かれるようになり、ついにプロデューサーから、
「意味がわからん」
と、至極もっともな意見が出されて、立ち消えてしまいました。

‥‥でも、半年間の呪縛はなかなかのモノで、このゲームはある種、ぼくの中では今でも『サバイバン』だったりします。

第6回
「法律談義」

2000年、11月。キャラクターも固まって、ぼくは最初のシナリオ
(現在の"逆転姉妹")を必死になって書いていました。
そんなある日。
「巧さん。このゲーム、法律の考証はどうするんですか?」
‥‥いちばん触れられたくないポイントにツッコミを入れられてしまいました。

ぼくの法律に関する知識といえば、『日本には、六法全書という本がある』ぐらいのものです。
「いいんだよ、法律なんて。これは探偵ゲームなんだから」
たいていは、このヒトコトで切り抜けていたのですが‥‥、

「探偵ゲームじゃなくて、弁護士ゲームじゃないんですか!」
「現実と違うんなら、わざわざ法廷モノにすること、ないと思います!」
「遊んでくれる人たちに、間違った知識を与えちゃうカモ!」
「弁護士会から訴えられませんか!」
「苦情がくるッス!」

‥‥チーム内外でいろいろ言われるうちに、自信が大きくグラつきました。
冷や汗が滝のように流れ出して、気分はさながら、末期の亜内検事。
そしてついに、
「ホンモノの弁護士さんに、監修してもらったほうが‥‥」
という意見が出るにいたって、チームを緊急招集。
「だれか、知り合いに弁護士がいるひとー」
「‥‥‥‥」
「じゃあ、弁護士のタマゴだったひとー」
「‥‥‥‥」
「せめて、霊媒師のタマゴだったひとは‥‥?」
「‥‥‥‥」
しかし、そう都合よく、タマゴなど転がっているものではありません。
そこで、冷静になって、もう一度コンセプトを確認。

‥‥『逆転裁判』は、あくまで"推理ゲーム"です。
重要なのは、"現実"に近づけることではなく、法廷の持つ、
独特の"雰囲気""緊張感"を強調・再現すること。
だからこそ、裁判長は架空の木槌をたたき、成歩堂は架空の『異議あり!』を叫んでいるのです。
"現実そのまんまの法廷"なんて、このゲームには必要ない!

真犯人を極限まで追いつめて、法廷中の大喝采を受ける‥‥そのスリルと興奮。
それがゲームでイメージどおりに実現できたのは、翌年の2月でした。
‥‥これからの数ヶ月間、我々は "ゲームとしての裁判とは?"という命題の答えを模索して、
迷い、悩みつづけることになります。
秋も深まり、寒い冬は、すぐそこまで来ていました。

第7回
「年末崩壊」

最初にゲームが遊べるようになったのは、11月末日。プロデューサーや部長など、いろいろな人にお披露目したのですが、その結果は・・。

完全敗訴。
“ふんだりけったり”とはまさに、この日の我々を形容するために生まれたコトバでした。
だれ1人、ムジュンの指摘はおろか、ツッコミさえ入れることなく即刻ゲームオーバー。呆然指数100%。大不評、大酷評の大嵐。

ちなみに、このときのゲームシステムは、現在とはずいぶん違っていました。
“一瞬のスキも許されない緊張感を!”というコンセプトのもとに、

●完全リアルタイム制。開廷から閉廷まで一気に流れる。ツッコミどころに気づかなかったら、それはもう有罪。
●証人の発言が、すべて法廷記録にファイルされる。ムジュンをつきつける際は、過去の全証言の中から探す。

“一瞬のスキも許されない緊張感”どころか、“どこで緊張すればいいのかわからない”というありさまでした。

ダメだ。やっぱり、裁判はムリだったのか・・!チームのみんなの顔も、曇るばかり。この日のために、いろいろ素材を作って準備してきたのに。
「おもしろくない」
    • 想像以上のダメージで、頭がくらくらします。“1から考え直そう”ということになりましたが、“でも、そもそも1ってナニ?”という状態。もう、どうしていいかわかりません。
そしてさらに、頭の痛い問題がもう1つ、目前に迫っていました。

それは、第四開発部の忘年会。
100人規模の酔漢たちを前に、なぜかぼくは、手品ショーをやる約束をしていたのです。なんでそんな事態になったのかは省略しますが、やる以上は、せめて“へえ”と言わせなければイカンというプライドがあります。
“こんなときに、ナニやってんだオレ”と悲しく思いながら、銀の球をふわふわ浮かせたり、美女を切断したり、カプコンのビルを消したり(一部誇張アリ)。
    • こうして、20世紀はまさに、終わろうとしていました。

しかし。仕事納めを目前に、さらに事件が勃発。この大混乱に最後の追い討ちをかけてきました。
7人しかいないチームのメンバーが1人、“一身上のツゴウ”で会社をやめてしまったのです。
    • ここに、逆転裁判チーム最大の危機が訪れました。

第8回
「逆境裁判」

“チームのメンバーが、1人が抜ける”‥‥こう書いても、その圧倒的パワーは伝わらないかもしれません。“なんだ、あと6人もいるじゃん”と思われる方もいるでしょう。
しかし!‥‥これは、まさに致命的な大災害なのです。

ゲームは、いろんなパーツで構成されています。
「シナリオ」
「キャラクターのアニメーション」
「背景グラフィック」
「システム用グラフィック」
「音楽」
「効果音」
「プログラム」
‥‥これだけで、7つあります。1人やめるということは、これらのパーツが1つ、ゴッソリなくなるということなのです。これはもう、ゲッソリという他ありません。

1月不吉日。
ついに我々は小部屋に呼び出され、サイアクの宣告を受けました。
「開発中止」

‥‥当時、というか今も、第四開発部にヒマな人材はいません。
メンバーがいなければ当然、チームは続かない‥‥。
規模の小さいチームでなければ、なかなか気づくことのない大きな落とし穴。
それはもう、目もくらむようなチャブ台がえしでした。

ゲームの方向性も見えないまま空中分解。その、救いようのない脱力感。
‥‥どん底にあったチームに、なんとか救済の道を見つけてくれたのは、プロデューサーと部長でした。
あろうことか、“biohazard”チームの人間が“かけもち”という形でネジ込まれたのです。彼がどんな因果を含まれたのかは‥‥コワくて聞けません。

‥‥1月。これが『逆転裁判』のターニングポイントでした。
メンバー1人ひとりの“重さ”を思い知らされたこの事件をキッカケに、みんなの意識は1点に集中したのです。
「‥‥ゼッタイ、完成させる!」
ここからゲームは、一気に再構築への道を突き進むことになります。

第9回
「リストラ」

リストラクチャリング=再構築。
“裁判”には、それ自体“ムズカシイ”というイメージがあります。
まず何よりも、そのイメージをひっくり返すような、わかりやすいゲームシステムを確立しなければなりません。
前回の失敗を見なおして、法廷を全面的に再構築しました。

●《証言開始》《尋問開始》を入れて、“今が考えどきだよ”と教える
●矛盾点に気づかないかぎり、先に進めないようにする
●画面にコマンドを表示して、何ができるかを示す
●矛盾の根拠となる情報を、証拠品(1個につき30文字)に凝縮する

シナリオを書く人間としては、最後のポイントはまさに一大決心でした。そんな少ない情報量で、全法廷をまかなう大量の“ムジュン”を作れるのか?
その答えは‥‥ゲームを遊んでくれたみなさんに判断してもらいましょう。

次に、チームのみんなが感じた問題点をそのまま列挙して、片っ端から答えを探していく作業。
朝メシ前のものから晩メシ後のものまで、おなかいっぱいの意見がブチまけられました。

「‥‥事件が起こるまでが長いですねー」
「じゃあ、前半をバッサリ、カットしようか」
「‥‥ていうか、裁判から始まったほうが」
「う。じゃあ、いっそ別のシナリオを用意しようか」
「‥‥なんか最初に、グッとくるシーンが欲しいなあ」
「じゃあ、最初に犯行シーンのデモを入れようか」
「‥‥このゲームならでは! の特徴も欲しいッス」
「じゃあ、そのデモで犯人のカオを見せちゃおうか」
「‥‥キャラクターにミリョクがないなあ」
「じゃあ、依頼人を親友にして、ムチャクチャなヤツにしようか」

‥‥《逆転姉妹》を2話目にまわして、大急ぎで新しいエピソードを作ることに。
裁判シーンから始まる、チュートリアルも兼ねた物語。
すでに《逆転姉妹》のプロットはできていたので、それに向けた伏線も何本か、埋め込んでおきます。

みんなが何か言うたびに、ゲームのクオリティが確実に上がっていくのをヒシヒシと実感。‥‥それは本当に、とても感動的な経験でした。

ただし。このやり方は、ちょっと歯車が狂うと、
「‥‥みんなの意見は聞くのに、なんであたしのだけ‥‥」
「いやいや。だって、ハムスターはマズいだろ!」
「もう、いいです。あたしなんて‥‥」
‥‥果てしなく噛み合わないという事態になりかねないので、注意が必要です。

こうして、2月末。ついにプロローグは完成しました。

第10回
「全力疾走」

完成形が見えてしまえば、あとはもう、ひたすら作るだけです。
2月末に、プロローグが完成。
作業を並行させて“逆転姉妹”のシナリオも書いていたので、ぼくの作業は、残る2話ぶん。

それぞれの締め切りは、3話が4月10日、最終話が5月10日でした。
シナリオに合わせてキャラクターやプログラムを作るので、遅れることはできません。
1話、約1ヶ月。
これが、一般的に速いのか遅いのかはわかりませんが、ぼくにとってはまさに、シャレにならないペースです。

しかもこの頃、ぼくの頭の中では、登場人物たちが互いにうち解けてきて、勝手におしゃべりを始めていました。というか、しゃべりすぎ。
ちょっと自動販売機を調べただけなのに、なんでこいつら、10行も20行も雑談しなきゃならんのだ!
書いてるこっちは、限界まで追いつめられてパニック寸前なのに、カンジンのなるほどくんと真宵ちゃんは、ノンキに運動会の話なんかで盛り上がっている‥‥。おまえら、早く証拠さがしにいけよ!

‥‥あまりに話が進まないので、何かを調べたときの会話は最後に回すことに。
時間の許すかぎり、好きなだけしゃべらせています。

また、1話ごとに、その規模も内容もすべてが前話よりレベルアップしていなければダメだという強迫観念もあって、これにも相当、苦しみました。
当然、物語は後半どんどんふくれあがって、必要なトリックの数もウナギのぼり。最終話なんて、永遠に終わらないのではないかとホンキで冷や汗をかきました。

幸か不幸か、ロムカートリッジの容量とスケジュールの関係から、今回は4話で打ち止め。しかし、あと1話あったら! ‥‥少しウスくなりかけているというウワサの(あくまでウワサの)ぼくの頭髪は、キレイに抜け落ちていたことでしょう。

でも、死にもの狂いで書いたシナリオに、みんなも精いっぱい、こたえてくれました。登場人物たちは表情豊かに動き、音楽や効果音は想像以上に物語を盛り上げています。プログラマーも、細かいシナリオの修正・調整を最後までくり返して、ベストを尽くしています。

3ヶ月間の、全力疾走。
‥‥5月15日、『逆転裁判』はついに、スケジュールどおりに完成しました。
あとは、1ヶ月かけて、プログラムやシナリオのミスを修正・調整するだけ。

ブラックホールのように超高密度で、そして漆黒の3ヶ月でした。

第11回
「一期一会 (1)」

2001年6月29日。
大阪梅田の某所にて、打ち上げがおこなわれました。
プロデューサーと部長を含めて、参加者は9名。

『逆転裁判』がこういう形に仕上がったのは、このチームだったからです。
ゲームの要素すべてに彼らの意見が宿っていて、その言葉の数々は今でも耳に残っています(もちろん、ツゴウの悪いヤツは別ですが)。
メンバーが違っていたら、そこにはまた別の『逆転裁判』があったでしょう。

このゲームはぼくにとって、ほぼ理想の形で完成しました。
こんなことは、初めてです。もしかしたら、もうないかもしれません。
というわけで‥‥、みんなには、とても感謝しています。
本当にほんとうに、どうもありがとう。

‥‥この日の打ち上げを最後に、逆転裁判チームは解散したのです。

さて。せっかくですから、このステキな連中を、みなさんに紹介したいと思います。人数も少ないことだし。
スタッフロールでもながめながら、読んでみてください。

まずは、キャラクターデザインとグラフィック担当から始めましょう。
逆転チーム紅一点のスエカネさんと、辰郎くん。
このゲームの映像素材は、すべてこの2人が描いています。

特に登場人物の設定面で、スエカネさんには言葉に尽くせないほど助けられました。
その中でも最大の功績は、御剣怜侍。
ぼくが設定した御剣検事は、40代のオヤジ。つかれ果てたドラキュラみたいなオトコでした。
彼を若返らせて、なるほどくんのライバルに仕立て上げたのは、彼女です。
これだけでも、3本の指に入る殊勲賞モノと言えるでしょう。
‥‥あぶなかったね、御剣検事。

「かわいい霊媒師と、その姉さん」
「トノサマンって名前のヒーロー」

‥‥ぼくの素っ気ない注文をもとに、あそこまで人のハートをワシづかみにするキャラクターを次々に生み出す彼女がいなければ、『逆転裁判』はあり得なかったでしょう。

辰郎くんは新人で、このゲームで堂々のデビューをかざりました。
特に、オヤジ系のキャラを描かせたら右に出るものはいません。
カツラを飛ばしたりユビワを光らせたり汁を飛ばしたり指を鳴らしたり‥‥と、そのあふれる才能を遺憾なく発揮しています。
特にカツラのネタは、いつのまにかこのゲームを象徴する地位にまで昇格してしまい、ちょっと悔しい。
これだけでも、やはり3本の指に入る殊勲賞モノと言えるでしょう。

ぼくは根本的に“キャラを立てる”というのがニガテです。
2人はその点に関して、徹底的にこだわってくれました。
スエカネさんにたしなめられ、辰郎くんにマユをひそめられながら、かなりの苦戦を強いられたのですが‥‥。
結果は、彼らが全面的に正しかったことが証明されました。

第12回
「一期一会 (2)」

さて。前回のつづきです。
プログラマーから紹介していきましょう。
グラフィックやテキスト、サウンドなどの素材を、ゲームの形に仕上げる男たち。
大谷くんとエンドーくんの2人が担当しています。

まずは、大谷くん。このゲームのメインシステムを組み上げた男です。
ゲームの“サクサク感”を追求する、とても彼らしい仕上がりになっています。

また、彼は、ぼくの精神安定剤でもありました。
シナリオを書いていて、自分でも『いいのかコレ』とクビをかしげるようなアイデアを思いつくことがあります。そんなときは、すかさず彼に相談。
「ワシはアリやと思うで」
よっぽどのことがないかぎり、大谷くんは力強くこう言います。
ぼくはそれを信じて、心の安らぎを取りもどすのです。
これだけで、3本の指に入る殊勲賞モノと言えるでしょう。

「ワシはアリやと思うで」
と言う大谷くんの横で薄笑いを浮かべているのが、エンドーくんです。
その笑顔は、
「ボクはナシだと思いますけどね」
と、雄弁に物語っています。
シナリオの穴をうれしそうに報告するのは、彼の専売特許。
彼の笑顔に“異議あり!”‥‥そんな感じです。
もちろん、彼の指摘によってシナリオの完成度が上がったのは、言うまでもありません。探偵パートの攻略も、ずいぶん引きしまりました。
エンドーくん自身の仕事でも、そのコダワリはキラリと光を放っています。
第三話・オープニングで、BGMにピタリと合った小気味よいアクションは、彼の傑作です。
やっぱり、3本の指に入る殊勲賞モノと言えるでしょう。

次はサウンドパート。BGMのスギモリくんと、効果音の森くん。
まずは、スギモリくん。
なにか意見を聞くと、2cmぐらいズレたことを言う、ちょっと歯がゆい男です。
ただ、彼については、忘れられない思い出が1つ、あります。
制作の終盤、最終話のプロット作りで死にそうになっていたぼくのところにきて、
「トノサマン、最高でした」
と言ってくれたこと。
シナリオ執筆期間中、チーム内でほめられたのは、これが初めてだったのです。
個人的には、これだけで3本の指に入る殊勲賞モノと確実に言えます。
ただし、彼はその後、執筆中の最終話を読んで
「トノサマンの方がおもしろいです」
と言ってしまったため、地に落ちました。

そして、森くん。
いそがしい中、“biohazard”チームから助っ人として参加してくれた、ナイスガイ。
銃声をリクエストしたら、瞬時に30種類ぐらい引っぱり出してきました。

彼は、とてもやさしい目をしています。そして、なにを相談しても
「弁護士事務所の経営パートを入れたらええのんちゃうん」
「4つのエピソードにつながりを持たせたらええのんちゃうん」
の2つしか言わなかった、ニクいあんちくしょうです。
最初は、『両方とも必要ないや』と思って聞こえないフリをしていました。
しかし、いつしか彼のコトバは、しっかり脳髄にスリ込まれていたのです。

4つのエピソードが一貫した物語になったのは、完全に彼の功績です。
これだけで、3本の指に入る殊勲賞モノと言えるでしょう。

第13回
「一期一会 (3)」

チームの紹介も、いよいよ今回で最後です。
製作総指揮の三上部長と、プロデューサーの稲葉くん。
言うまでもなく、このゲーム誕生のキッカケを作ってくれた人たちです。
「好きに作っていいよ」
メンバーを集めて、1年近い時間をもらいました。

三上さんには、ゲームシステムの形が見えるまで、毎度のことながら相当お世話になっています。
最初の法廷パート、その改定案、そのまた改定案‥‥と、最終的に《証拠品をつきつける》という形に到達するまで、実にシンボウ強くつきあっていただきました。

ゲームの“つかみ”という部分に関しては最後までマユが八の字だった三上さんですが、“わかりやすさ”に関しては、なんとか要望にこたえられたと思っています。

そして最後に、稲葉くん。
彼のシゴトは、『逆転裁判』をより多くの人が楽しめるようにすること。
たとえばそれは、キャラクターであったり、物語であったり‥‥。
マニアックな方向に走りがちなシナリオ書きをなだめすかし、時にはナミダを飲んで鉄拳制裁を加えることもあったというウワサです。

彼の最大の功績は、なんといってもこの公式ホームページに体験版を作ったことでしょう。
タイトルが与える“どこかカタいイメージ”を打ち砕く、まさに最高のアイデアだったと思います。

『逆転裁判』は、とても小さなプロジェクトでした。それゆえ、プロデュースにもかなり制限が多かったようです。しかし、それを楽しむかのように、さまざまな広告・宣伝活動を展開するオトコ‥‥それが、稲葉くんです。

さて。チームの結成から解散まで、『逆転裁判』の物語はこれでおしまいです。
コラムの方は‥‥もう少し、つづけたいと思います。

製作中、ぼくのアタマをいつも悩ませつづけた“シナリオ”。
このやっかいなシロモノを中心に、お話ししていくつもりです。
もうしばらく、おつきあいください。