「・・・・・・」


夜。ショウは妙な歌を聞いた気がして目を覚ました。
音は本当に遠くから、微かに聞こえてくる。
ソラリスを見やるが、すやすやと寝入っている。この不思議な声には気付いて居ないようだ。

ショウはそろりと干草のベットの中から抜け出して、サメハダ岩の住処を出た。

ショウはそのまま声の聞こえる場所を目指して歩き出していた。
吸い寄せられるような感覚に抗う必要は無く、足取りは軽い。
最も、“この身体では”疲れも早いし、昔ほどではないけれど。
浅い小道を通り、岩肌の短い山脈を抜け、やってきたのは見た事も無い、水晶のように輝く森の中だった。
しかしショウは疑問に思った。此処に来るまでに一度も野生化してしまったポケモン達に襲われなかったのは何故だ?
ぼんやりと闇の中で光を帯びるその場所へ向かいながら、ショウは身構えていた。
何時襲われても「ほうでん」を見舞えるように、である。


がさがさ・・・がさっ。
音を立てて抜けた先にあったのは、泉だった。
光っていたのは、コロボーシの群れと、泉自身だった。
ほんのりと光を放つ水面の中心には。・・・中心には。


「・・・・・・」
「・・・、誰・・・?」


柔らかな表情で振り返ったのは、ポケモンではなかった。
滑るような白い肌に、真っ白な髪を垂らした・・・。・・・“ヒト”だ。
ショウは瞬いて“それ”を見つめた。


「・・・ピカチュウ?・・・“違う”、・・・君、・・・そう、“あなた”は、ボクと同じだ」
「ほーぅ。その“目”、普通じゃないね。ポケモンじゃない。人間“でもない”」


語尾を強調すると、少年の顔が曇った。
寂しそうに、水で濡れた髪をかき上げながら、口を開く。


「アイン、って呼んでよ。君は?」
「アイン・・・『泉』ね。なるほど。俺はショウ」
「そう。ショウ、ショウはポケモンになれるの?」
「“望めば”、何にでも。アインはなれないわけ?」
「うん。“そういうのは”全然。いいなぁ」


気持ち良さそうに腕に収まっているコロボーシを撫でながら、アインと名乗った少年はショウに笑い掛けた。
気弱そうな、けれど恐ろしいほどの存在感を孕んでいる。


「さっきの歌は、アイン?」
「そうだよ。・・・聞こえてたんだね。確かに、ポケモンよりも人の耳によく響くから」
「・・・ふーん・・・」


曖昧に返事を返しながら。ショウは考えた。
“これ”は、なんだ。人間、ではない。そう言うには余りに人間“らしからぬ”少年だ。
けれど微笑みや口調からは人の心が感じられる。
ピカチュウの姿では酷く大きく見えるその少年は、おもむろにショウへ手を伸ばした。
ショウが怪訝そうに見上げる。


「・・・何?」
「触らせて。ピカチュウって、この辺に居ないんだ」
「やだね。俺ぬいぐるみじゃねーもん」
「少しだけ、少しだけだから」


ね?と手を合わせてお願いする少年を白い目で見つめてから、ショウは溜息をついた。
それから、ふわふわの毛を、泉からはみ出すほどに伸ばされた少年の両手に押し付ける。
程なくして抱き抱えられた。同時に、ショウは軽く手を動かした。・・・何も起きない。
今度は耳を動かした・・・何も起きない。
ショウは眉を潜めた(つもりだが、ピカチュウの身体では眉間に皺がよっただけだった)
かわりに、ふわふわの耳に目をつけた少年に弄くられて、機嫌が一気に降下する。


(・・・さて、“どうしたものか”ね)


尻尾も触っていいかと強請る少年を今度こそあしらいながら、ショウは気難しく腕を組んだのだった。


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相棒の秘密について。
ショウは、人間だけど、人間じゃないです。
ショウの正体明かしは、多分しません(笑
でも、少年はこれからちょっとずつ、出てきそうです。

普通じゃない子だって、思っていただけていれば!
最終更新:2008年02月06日 20:35