リシュナはゆっくりと目を開けた。
森の木の大きな葉っぱで作ったふかふかのベットの寝心地は、森に住むポケモン達のお墨付きだ。
水飲み口から漏れる木の朝露を少し飲んでから、リシュナは外に出た。
大きく高く、伸び上がった木々の間から、朝日が差し込んでいる。
小さい頃、先代の森番様がまだ生きていた頃は、自分は本当に小さかった。
家は高い場所にあって、梯子を上るたびに怖くて降りられなくなり、先代様に負ぶって貰ったものだ。
リシュナはと言えば、高さが怖くて目も開けられなかった。


『リシュナ、大丈夫。もし落ちてしまっても、森がお前を守ってくれるよ。下には柔らかな木の葉が何枚も敷かれてるんだ。
それはお前を守る為に、お前が落ちても力いっぱい葉を膨らませて、かすり傷だって作らせるもんかって、頑張ってくれるんだよ』
『でも、・・・でも、シャルム様』


リシュナが泣き出すと、師のバクフーン、シャルムは、優しく彼女の頭を撫でたものだ。
その手は優しかった。とても、優しかった。
リシュナはその手があったから、母に森で置き去りにされても、独りきりになってしまっても、
彼に出会えたから、だから良かったのだと。そう思う事が出来たのだ。
寂しくは、無かったのだ。

しかし彼は若くして、死んだ。いなくなってしまった。ずっとずっと昔に、
この森へ破壊者が現れて。
彼は森を守る為にせいなるほのおを使った。破壊者はそれ以上森へ踏み込むことは出来なかったが、
怒りと悔しさで、森の外で戦うシャルムを道連れに「じばく」した。

幼かったリシュナは、せいなるほのおによって創られた森の防御壁の向こうから、
師の命の灯火が消えるのをただ見ているしかなかった。
けれど、森はそんなリシュナを彼の後継者に選んだ。彼女は師の力と魂を受け継いで、技を記憶した。


でも。
だからといって。
受け継いだところで、もう。
師は、彼女に語りかけてはくれないのだ。
眠れない夜、子守唄を唄ってくれる事は無い。
我が子のように愛してくれた師に、何も返す事が出来なかった。

自分が師に何をしてやれただろう?
若くして森を継ぎ、ずっと孤独だったあの師に。

リシュナには判っていた。自分がいたところで、結局師は独りだった。
目に宿った孤独は、子供一人がどうこう出来るような物ではないことくらい、子供の自分にだって、わかっていた。
それは幼い頃から、ずっとリシュナの心に根付く暗い感情だったからだ。
母に捨てられ、師と出会って尚、潜み続けたものだから。
リシュナはやっと理解した。
森番の条件のその一つ。わたしのような、者のこと・・・。
シャルムは気づいていたのだ。リシュナが、自分と同じだと。だから拾って育てたのだ。
後継者として。


リシュナは座り込んだ。
森の、「じばく」の焼け跡に崩れて、音も無く泣いた。
幼くとも、それが「どういうことか」、判らないはずは無かった。
独りになってしまった。また。


木の声が聞こえない。川の囁きも聞こえない。
リシュナは耳を塞いで、泣き続けた。
森の木々は寂しそうに、風の声で揺れていた。


「・・・、シャルム様」


何時までそうしていただろうか。
リシュナははっと我に帰ると、きのみを取りに行く為、梯子を降りた。
もう恐いなどとは思わない。あれから、もう何年が経っただろう。
その気になれば、今は飛び降りる事だって出来る。


「私は、森番。森を、護る、者」


何度も言い聞かせた。これは償いでもあるのだ。
私は此処に居ます。ずっと此処に居ます。
孤独が癒えずとも。この身朽ちるまで。


光の岬で 詩を詠う

旅人の男が 笛を吹く

続け 続け 孤独な者よ

私の笛を 聴くがいい

癒えぬ孤独に 泣きながら


rey rey さぁ 光の底で

rey rey tollelomant

私に続け


その身朽ちるまで 共に

何を隠そう 私も孤独

貴方と同じ 私も同じ


rey rey synz

私たちの旅は いつ終わる?


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単語の意味
rey rey =題名記事参照。(偶に『光』と同義の意味も持つ)
tollelomant =嘆きの海
synz =始まり(終点からの出発)

+オマケ+
シャルム=償いの意