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11

「まったく、私があんなに心配してやってんのに、高瀬のバカ高瀬のバカ……」
そう呟きながら、私はキッチンに行く。
「映子さん、手伝いますよ」
「あら、ありがとう。じゃあ、お皿を出してご飯をよそって」
「はい」
「それが終わったら、リュウを呼んできてね」
「……はい」
お皿を出しご飯をよそおいお箸を並べ、そして私はまた高瀬の部屋へ戻る。
「高瀬!たーかーせ!ごはんだよ!」
「うっるせーな、聞こえてるよ!」
「はやくしてね!」
「今行くっつの!!」
まったく、なんで私がこんなことを……
食事のたびに高瀬を呼びに行くのは、同居人だということを嫌でも意識させる、できればしたくない仕事だ。
姉や妹じゃあるまいし……
でも、映子おばさんにそんなことは言えない。
映子おばさんにお世話になっている身だからそんなわがまま言えない、というのもある。
でもそれ以上に、私が高瀬くんのことを意識している、なんて知られたら大変なことになるのは目に見えているからだ。いやいやいや意識なんてしてないから、正しくは「意識していると勘違いされたら」かな。
映子おばさんって年の割にお茶目なところがあるかなぁ……
居間に戻るとすぐ諸悪の根源である高瀬が来た。
まったく、どこにいてもこいつに迷惑をかけられっぱなしだ。

12

家庭での食事ほど嫌なものはない。
中坊の時ほどじゃないにしても、やはり未だに肉親と囲む食卓っつーのには馴染めない。我ながらガキくさいとは思うのだが仕方がない。
いやしかし食事が嫌な最大の理由は他にある。
俺の隣に陣取るこの女だ。
「高瀬、しょうゆとって」
「…………」
無言でしょうゆをパス。
「(ありがと)」
小声で言うな!!
しっかし母さんも、こいつが家に来てからと言うものの事あるごとにニヤニヤニヤニヤしやがって、
このクソババアが!ちくしょう!!
俺は無言で飯をかき込む。一刻も早く立ち去りたい。この気持ちは中坊のとき以上に強い気がする。
俺はおかずを自分の皿に取ろうとしたら隣の馬鹿女が同じタイミングで手を出しやがって、手はぶつかるわあわててひっこめるわクソババアはまたニヤニヤし始めるわで、
ちくしょう!!!

13

だってしょうがないでしょ私も食べたかったんだもん!
と、高瀬君の睨みに心の中で応える。
「ごちそうさま!」
高瀬くんは乱暴に席を立ち、部屋に戻ってしまう。
たまにはお皿くらい下げていって欲しいな。代わりに私がいっつも下げてるんだから。
「ごちそうさま」
「あら、もういいの?遠慮しなくていいのよ。龍瞬のことなんて気にしないでどんどん食べて頂戴」
「いえ、ほんとに結構です」
「そう。じゃあお風呂沸いてるから先に入ってね」
「はーい」
私は着替えを持ってお風呂へゴー。その前に2人分のお皿を下げるのも忘れない。

私は湯船につかって大きな溜め息をつく。
高瀬君のことを考えた。
もし一緒に暮らしていなかったなら、あんなバカで不真面目でダメなやつ、絶対見向きもしなかっただろう。
今日の生徒会でだって、高瀬君たちのグループにもっと厳しいことを言っていたはずだ。
私はああいう頭悪そうな集団が一番嫌いだから。
でも、私はもうひとつの高瀬君を知っている。
家での高瀬君は、私に対して優しいし、親切だし、それに賢いし、紳士的だ。
ちょっと言葉は乱暴だけど、むしろそれは照れ隠しにさえ思える。
素直………ではないけど、……それは私も一緒だし。
だから、どうしてあんなグループにいるのかが分からない。
どっちが本当の高瀬君なんだろう。
なにか下心があって家では私に優しく見せているんだろうか。
それとも二重人格?
家での高瀬君は生徒会にいてもおかしくないくらいの立派な人だと思うなぁ。
……………いて欲しいわけじゃないけど。

14

俺が数学の宿題を片付けていると、ノックが聞こえた。
俺は慌ててノートを仕舞い、マンガを出す。
「あー?」
「あの…高瀬君……、ちょっと、いい?ごめんね?」
ったく……またあの馬鹿女か……
「なんだよ!?」
「さっきは……ごめん。入っても………いい?」
「あー、どうぞ!」
俺の部屋に入ってきた嶺はパジャマ姿で、頬が少し赤く上気している。
風呂上りの色気のようなものが…………いやなんでもない。
「なんだよ、しつけーな」
「…………なんで机に向かってマンガ読んでんの?」
「るせーな、そんなの俺の勝手だろ。何の用事だよ」
「いや……えっと………さっきは、ごめんなさい」
「あぁ、それで?」
「でも、どうしても聞きたくて」
「何を」
「いや、さっきは、生活態度とか、偉そうなこと、言っちゃったけど、あの……ほんとは」
そこで彼女は一度言葉を切る。
「高瀬くんのこと、もっと知りたいの!」
「はあぁ!?」
「いや、違くて、えっと、その」
「大体さ、さっきも思ったんだけど、『高瀬くん』って何よ?何たくらんでんのよ、気持ちわりいなぁ」
もともとほのかに赤かった嶺の顔がさらに紅潮する。
「知らないわよ!そんなこと言ってない!高瀬の馬鹿!!」
また嶺が出て行こうとする。
全く、しょーがねーな。このままでは埒があかない。
俺はドアに手を掛け出て行こうとする嶺の、もう一方の手を掴む。
俺が手を触れた瞬間、嶺は一瞬体を硬直させ、すばやくこちらを振り返る。
「おい、嶺!さっきから誤魔化しやがって、何が言いてーんだよ。はっきり言ってけよ」
嶺は頷いた。

15

私はたんすに寄りかかって三回深呼吸をした。
ペースを乱され、訳わかんないことを口走っている自分がわかる。
そもそもどうして緊張するのかが分からない。高瀬の奴め………!
よし……落ち着いた。
私はしっかりと高瀬君を見つめ、口を開く。
「高瀬く……じゃない……高瀬は、ほんとうは、親切で優しいのに、どうして家以外では、変なことばっかりするの?」
「変なことって?」
高瀬君は憮然とした表情で、でも一応話を聞いてくれる。
「学校では、ちょっとワルっぽい人たちと一緒にいて、私とか他の人のこととかもからかうし。先生にも乱暴な言葉づかいだし、下級生にちょっかい出したり、今日もタバコ吸ってた人がいたって」
「俺は吸ってねーぞ、あんなもん」
「でも!ああいう仲間とつきあってると、高瀬君まで一緒に見られるんだよ!?」
「知らねーよ、そんなの見る奴の勝手だろ。いちいち気にしてられっかよ、そんなの」
「それに、高瀬くん、お祭りの時にお酒を売ってるって、生徒会でも問題になってるんだからね!」
「………」
不満そうに話を聞いていた高瀬君の表情が、少しだけ変わった。
でもそれが何を意味するのか、私はわからなかった。
「今日も、お父さんのお酒屋さんに直接抗議するとかいう話になって、大変だったんだよ!?」
「ふん、何?生徒会からうちの親父に何か言うってか?」
「いや、それは私が頑張ってとめたから、保留になったけど」
「……あっそう、つまんねーな。何で止めたんだよ?そんな必死な思いしてまで」
「そっ…それは……」
「俺が酒を売ろうと売るまいと、俺の勝手だ。お前にとやかく言われたくない」
「………で、でも…。じゃあ、これだけきかせて。どうしてそんなことするの?」
「うるせーな。俺にもいろいろあんだよ」
「私は、本当は優しい高瀬君が…」
「うっせ。学校の俺のほうが素なんだよ。これでいいだろ?もうそろそろ出てってくれねーか」
「たかせ……」
「じゃあな、また明日学校で」
私は半ば強制的に締め出されてしまう。

高瀬君の言う通り、学校での高瀬君のほうが本当の高瀬君なのかな。
私のしていることは、ただの迷惑なのかな………
私は、高瀬君に真面目になってもらいたいだけなのに。
でもそれだって…私の勝手で個人的な理由に過ぎないんだろうなぁ……