06

学校の帰り道。ハンバーガーを食いながら荻谷が言う。
「今日の"ミーティング"、坂上ん家だっけ?」
「ちげーよ、今日は能登山んとこだろ」
「うちかよ、チッ、めんどくせー」
能登山の家はすぐ近く、もう1分も歩けば着く。
「つーかおめぇ妹居たよな?」
「あぁ?」
「俺たちが入り浸ってたらアクエーキョーなんじゃねーの?」
「は、どうでもいいべ」
「社会ベンキョーになるだろ」
「なんねーよ」
「はは」
「つーかお前アレだろ、能登山の妹狙いだろ」
「うっわ、それまじひくわー」
「ありえねー、きめー」
「きめーって、妹いくつだっけ?中三?中三ならありだべ」
「ちょ、やめれって。うちの妹と荻谷つきあったらまじ俺死ぬわー」
能登山の家に着いた。まぁ、やることなんて特に無いので音楽かけながらカタログとか見てるだけなんだが。

07

「では、明朝のHRで各クラスに通達を出すという方針で宜しいですか?」
「異議なし」 「異議なし」
「川上先輩」
「了解しました。このトピックスをクローズし、ログを保存します」
これで半分。次の話題はうちの学年のことであってほしくない。
「サブジェクト・ナンバ・2。今週末に開催される織々谷神宮大祭典における飲酒等非行について、またその防止策」
よりにもよって、まさに私が最も考えたくない話題。
「またあいつらか。ずいぶんと暴れまわっているみたいじゃないか。若いねぇ」
「またあいつら、と言いますと、この件も2年生が絡んでいるのですか?そういえば、酒の流通ルートが2年生に関係している、と以前耳にしました」
「そうなんですよ。ほんっとにあいつらときたら……。高瀬ってやつが、酒屋の息子なのよ。それで、そいつが、つるんでる他の仲間とか、他の学年・他の学校の悪ガキ共に、酒を売りさばいているのよ。飲酒問題の元凶と言っても過言じゃないと思うわ」
「そうだったんですか………。ちょっと放っておけませんね、それは」
「でしょう?会長、今年こそは、高瀬酒店に、正式に抗議すべきだと思われませんか?」
「ええ、去年はまだ1年目だということで様子を見たけれど……確かに、もう看過できないレベルに達しているとも言えるわね。でも………」
「…………」
「会長さん、さては何か隠していますね?…………実は会長こそが黒幕だとか」
川上先輩が斜向かいの水元先輩の足を蹴る。
先輩の指摘は、当たらずとも遠からず。確かに私は、みんなに隠していることがある。
だから、本当は祭典での酒の話にはあまり触れてほしくない。
でも、今の私は生徒会長。会長として、生徒会役員の一員として、私には義務を果たす必要がある。
「まず、ええと………、高瀬君が酒を密売していると言うのは本当に事実なの?」
「まず間違いありません。ですよね、川上先輩?」
「私の調査によれば、祭典中、未成年者、特に我が校の生徒およびそれと関係の深い者の間に流通している酒類の半分以上がその出所に於いて高瀬酒店と大いに関わっている、ということはほぼ確定事項と言える。信頼度97%」
「やっぱり、高瀬をつぶせば酒の流れは止まるんですよ。会長、何かお考えが?」
さて、どうしたらいいだろう………………

08

能登山家の都合で、あまり夜遅くまで居られないということで、俺たちは早々に引き上げてきた。
薄暗い帰り道、俺は能登山たちとの会話を思い出していた。

「高瀬さ、おまえ、女作らねーの?」
「は?」
「女だよ、オンナ。彼女欲しくないのかっつってんだ」
「ダメだ、こいつ、荒々しさがねーもん」
「でも、好みのタイプとかいんだろ?」
「能登山の妹とかか?」
「その話題やめれって……」
「うちのクラス……は、ねーな。ブスばっかだもんな」
坂上はそう言ったが、俺は彼がうちのクラスの女子複数と交際経験があるのを知っている。
いや、だからこそ、今はもう別れた「元カノ」達のことを「ブス」と表現しているのか。
「あ、でも嶺がいるか」
「嶺はねーべ」
「ありえねー」
「それウケるわ。つーか、ああいう堅物そうなのが逆に………」
「逆に何よ」
「ありえねーって、あんなウゼーのと一緒にいるだけで死ぬから」
「でも顔はかわいいべ?」
「馬鹿、やっぱ、女は顔じゃねー、性格だ。どんなかわいくても性格ブスだとだめだ、ほんっと」
「よねー」

お前達に女性を語る資格は無い。とは口が裂けても言えなかった。
全く、好き勝手言ってくれたものだ。

家に着いた。さて。
「(ガラガラ)ただいまー…………」
「………………………、おかえりっ」
そう言って俺を迎えたのは、嶺。
色々あって、俺達は同居している。
いや同居と言っても一緒に住んでいるだけだって何言ってんだ俺は。
………ああ、嶺がウチに居候しているという表現が適切か。

09

馬鹿高瀬がやっと帰ってきた。
彼は私のはとこに当たる。
私が、この町の高校を受けると決めたとき、なんか結局こいつの家のお世話になることになったのだ。
おばさん(正確には大叔母さん)には感謝しているが、でもやっぱり高瀬と同居と言うのは嫌だ。
もちろん、高瀬を除いて、クラスの誰もこのことは知らない。絶対の秘密だ。
まったく………、この馬鹿と家で毎日顔を合わせているなんて事が知れたら、どうなることか……
でも、考えてみると、それはこいつも同じ。
そういう意味での連帯感のようなものは確かに無くもない。ちょっとある。
あとは「はとことして」の情のような何かもある気がする。
でも、それ以上はない。絶対にない。同居して心が動いたとかありえない。絶対にありえないよねそういうの。
「何ジロジロ見てんだよ?そこに立たれると邪魔なんだけど」
「べ、べつに見てなんかいないわよ!あんたこそ、何そんなに見てんの!?」
「お前が見てくっからだろ?わけわかんねーっ」
そういって、彼は奥の部屋に行こうとする。
「ちょっとまって!」
「なんだよ」
「なんだっけ」
「知らねーよ」
「あ、あとで、お話があるので部屋に行きます」
「はぁ?何の話?」
「た、高瀬の……生活たいどについて」
「なんだそれ?馬鹿じゃねーの?」
「いいから!!」
「ったく、しょーがねーなー」

10

慣れない。
学校ではお互い無視を決め込んで、それどころか状況に流され敵対関係のようになっている生徒会長様が、
毎日帰ると家に居て、しかも微妙に学校と人格が違うというのがなんとも違和感。
思えば一年前、あいつがウチにやって来たとき、お互いこっ恥ずかしくて殆ど口も利けなかった。
母さんは、「昔は一緒によく遊んでたじゃない」などと全く呑気なことばかり言うが、そんな記憶は微かにしかない。
だいたい昔は一緒に遊んだ親戚の女の子でも今となっては見も知らぬ高校生同士、仲睦まじくしろと言うのが無理がある。

そうは言ってもさすがに1年も一緒に暮らしていると、家では少しくらいの会話程度はする。
誤解が無いように言っておくが女として意識するようなそんなことは無い。断じてない。
まぁ少しくらいかわいいかなと思うことも無きにしもあらず。いやいやあんなお堅い生徒会長様のどこがいいのやら。

コンコン……
「あぁ?」
「いい?高瀬」
「まだ着替えてんだよ」
「……………………………、もういい?」
「ったく… どうぞ!!」
ドアが開き私服の嶺が現れる。
この私服もすっかり見慣れたからいまさらクラスメイトの私服にうろたえたりはしない。可愛いとかも全く思わない。
「なに?そんなに見て」
「別に見てねーよ!ていうか部屋に入ってきた奴を見るのは当たり前だろ!見ちゃいけねーのかよ!」
「どっちよ…」
「で、話って何だよ!眠みーんだからさっさと帰れ」
「さっき言ったでしょ!生活態度についてよ!」
「はぁ?あのな、俺は家に着いてまでおまえにそんな事言われたかねーんだよ!」
「あっそう!じゃあいい!高瀬くんの事なんか知らない!」
バタンとドアを閉じ、ドタドタと去っていく嶺。
意味分かんねー…
急に高瀬くんとか呼びやがって、意味分かんねー………
くそっ。
最終更新:2008年01月23日 01:40