「甘え」というのは、ある対人関係において、ある一定の依存的な考え方を持つことだと思いますが、具体的には、下のような考え方をしてしまう場合「甘えている」といえるのではないでしょうか。

  • 周りの人に対して、自分から言わなくても、もっと気持ちを察して欲しいと思うことがある。
  • 自分が遠慮していることに相手が気づかないと、腹立たしく思うことがある。
  • 周りの人の気くばりが足りないので、不満に感じることがある。
  • 謙遜していても、私の優れた点を周りの人が見つけて、誉めて欲しいと思うことがある。
  • 周りの人に対して、何も言わなくても、自分のして欲しいと願っていることを汲みとってほしいと思うことがある。
  • 重要な場面で失敗しても、たいして責められることなく、許してもらえると思うことがある。
  • 決められた約束を破っても、どうにか許してもらえると思うことがある。
  • 相手に対して失礼なことをしても、そのうちに許してくれると思う。
  • 自分の不注意でどんなに迷惑をかけても、周りの人は結局許してくれると思うことがある。
  • 失敗しても、許してくれるだろうと思いながら、行動する。

これらの考え方は、幼児・学童期であれば普通のことだと思います。人は、こういった甘えの考え方を修正していくことで大人になるのだと思います。

もし、大人になってもこういった「甘え」の考え方がたくさん残っているとしたら、大人の対人関係を築こうとしたときにとても困難を感じるはずです。

一方で、このような「大人」は、実は日本においては、意外にも「ちょっと困ったことになる」ことも事実です。というのは、昔から日本は「和」を尊び、持ちつ持たれつの関係がとてもうまく機能していた国です。「持ちつ持たれつ」というのは、少なからず「甘え」の要素やそれに近い行動ととても親和性が高いと思われるのです。

たとえば、日本の親は、子供が親に甘えてくることで子供とのつながりを再確認して安心します。会社の上司は部下が頼ってくることで上司としての勤めが果たせると張り切ります。甘えベタな女性は男性にもてなかったりします。

つまり、日本においては、「甘え」が人間関係の潤滑油のような存在になることが多いのではないかと思います。つまり、大人になっても、社会の中では「甘え」の考え方が必要な場面が多い、ということだと思います。

翻って上記に述べた「大人」というのは、欧米の「個人主義」の考え方だと思います。
個人主義というのは、個人の権利を大切にする一方で、何かあったら全て自分のせいという「自己責任」の考え方を含んでいます。

日本の社会は、何かあっても集団の連帯責任だし、集団として個人を守る、というのが当たり前であり、一方で個人の権利は集団のためにはある程度犠牲にするのが当たり前、という社会です。これは個人は集団に依存し、集団のために身を捧げる、という、相互依存的=甘え的考え方をベースにしています。

グローバリゼーションが進み、社会の中に欧米の「個人主義」の考え方がどんどん入ってくると、「甘え」のカルチャーを持つ日本人は、とても混乱してしまいます。日本人が持つ「甘えのカルチャー」と「欧米的な個人主義カルチャー」が、日本人を引き裂いているともいえます。これは「個人が社会にどうかかわるか」という、社会的人格形成の根幹となる部分であるため、実はその引き裂かれ感というのは思っている以上に大きいものだと思います。

目に見えない心理的な問題というのは、それをハッキリと意識できるようになるまでにとても時間がかかるものだと思います。かつて日本人の代表者たちが欧米と付き合いを始めたときから、そのつらさを漠然とは感じていたと思いますが、日本の普通の庶民がその影響を肌で感じて、それをきちんと心理的に処理するには、50年や100年ではムリなのかもしれません。

そうすると、経済的な豊かさを手に入れた今の日本は、心理的にはとてもつらい立場にいるかもしれません。そんなつらい思いをしてまで「個人主義=アンチ甘えカルチャー」の導入を進める必要があるのかと思ってしまったりしますが、世界の流れの方向は変えられないのでしょう。

この「日本的甘え」の考え方を「欧米的個人主義的」な考え方に移行させていくとき、日本人にとって一番よいのは、移行はできるだけ痛みの少ない方法で、かつじっくり時間をかけるのが現実的なのでは無いでしょうか。つまり、個人主義的な考え方は、今の段階ではあまり急がないほうがよいのかもしれません。急ぎすぎると、自殺者も増えるでしょうし、なによりとても生きにくい国になってしまうでしょう。

そして、個人としては、「甘え」という考え方を必要以上に排除することなく、適当に甘えながら生きるのが楽なのでは?と思います。日本人は、まだ甘えられるところは甘えておかないと、心理的に追い詰められて必要以上に苦しむ結果になってしまうでしょう。「オレは甘えてるからダメなヤツなんだ」なんて自分を責めるのではなく、「甘えられることは甘えておこう」というのが、今の日本では一番正しいのではないかと思います。




最終更新:2009年07月18日 13:21