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「んっ……もう、零時かぁ」
蒼井みかはそう呟くと、モップをバックヤードに片付けに行った。
小雨の夜。いつも静かなこの店は、さらに静かになる。

金持ちの店長が道楽で始めた店なので、別に客足は心配ないらしい。資金はいくらでもある。店自体が赤字になっても、店長がその都度補充していくので、たいして経営に難はない。
給料もいいし、それに……。みかは店長の顔を思い出し、頬を染めた。
あの深く刻まれた皺。今にも消え入りそうなかすれ声。強く叩くと折れてしまうんじゃないか、と心配になるくらいに細い手足。すべてがみかの理想の「おじいちゃん」だった。
小さいときからおじいちゃん子だったみかにとって、店長は最高の人だった。

そんな店長も、おとといから風邪気味で、ついには昨日寝込んでしまった。
看病すると言ったのだが「この店はどうするの」と店長の……いや、会長の秘書に怒られた。店長も「わしゃあ心配ないよ」と言うので、みかは店にやってきた。
遅番のバイトから引継ぎ、みかは深夜番の仕事を開始した──。

「いらっしゃいませぇー」
お客さんだ。サングラスに、黒のスーツ。キャリアウーマンだろうか。みかは観察をしながら、出迎えの挨拶をした。
女性はカゴに雑貨を入れて、レジに持ってきた。荷造り用のロープと、ハンカチ、ガムテープ。それぞれ二つずつ。
何か梱包するのか、引っ越すのか……。みかはそう思った。
「いらっしゃいませ。こちらでよろしいですか?」みかが言う。
「はい。あの、いつもいるお爺さんは……?」
このお客さん、よく考えたら最近よくくる女性だと気づく。スーツやサングラスに見覚えがあった。
「店長は昨日から体調を崩しちゃって、お休みなんです」
「そう。それはそれは……」
心配してくれている。店長を、心配して……
「好都合」
「はいー。……え?」
みかはハッと顔を上げた。女性は目の前にはいない。
側面から回りこまれ、そして、背後を取られた。