ぼーっと見ていた時代劇。
綺麗なお姫様が悪人に捕まる。
後ろ手に縛られて、猿轡を噛ませられて、薄暗い物置に連れ込まれる。
そして話は進んで、結局主人公に助けられて、めでたしめでたし。
江利子は、ふと思った。
本当に、猿轡を噛ませられると、声は出せないのだろうか?
試してみよう、と思った。
家中を探してみて、猿轡に使えそうな物を見つけると、すぐさま自室に持って行く。
町内のお祭りの時に貰った手拭い。
いつも洗顔等で使っているタオル。
そして物置に無造作に置いてあったガムテープ。
一応これらを持ち帰る。
「さて、と」
まずは手拭いから。
中心をしっかりくわえて、両端を後頭部で結ぶ。
「あーえーいーうーえーおーあーおー。……喋れるわね」
多少声はくぐもるかもしれないが、思った以上に普通に喋ることができた。
手拭いを噛んだまま、江利子は辞典を引いた。
【猿轡】さるぐつわ
声を出せないように、口に押し込んだり、かませて後頭部にくくりつけておくもの。布などを用いる。
「―をかませる」
「なるほど」
ベッドに腰掛け、そこでようやく手拭いを解いた。少量だが唾液が付着していた。
「長時間されていたら、苦しいわよね。次はタオルで試してみましょう」
タオルを手にすると、手拭いと同じように口に噛ませる。
「あ、これあひゃえりづあい」(あ、これは喋り辛い)
ようやく、江利子の想像通りの結果になった。しかし、まだ物足りない。
手鏡で、猿轡姿の自分を見る。意外と似合っていた。いっそこの姿で街を歩いてみたい、とまで思った。
そうだ、と思って今度は机に向かう。
パソコンを立ち上げて、ネットのイメージ検索をした。キーワードは当然「猿轡」だ。
最終更新:2006年06月07日 07:33