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ハッ、と気がつくと、そこは自室。
お気に入りの姿見の前にボーッっと立っているだけの自分。
榊原由貴子は首を傾げた。あの一瞬の立ちくらみはなんだったのだろう。そして、一瞬だけ見えたもうひとりの自分は……。

夢だったのだろうか、と思う。
最近の過密なスケジュールが見せた白昼夢だろうか。

ベッドに倒れるように飛び込む。うつぶせで、枕に顔を埋める。
息苦しい。しかし、それが心地いい。
でも、まだ足りない。由貴子は起き上がり、白色の洒落たキャビネットから、お気に入りのモノを取り出そうとした。
が、しかし。
「ない」
由貴子は自分が声を発したことに気づいていなかった。
普段からここに置いてあるモノがない。

部屋を見回す。
すると、普段あるはずのモノがない。ひとつやふたつではない。見慣れたモノがごっそりとなくなっていた。
まるで、間取りは同じなのにも関わらず、赤の他人──しかし、インテリア等の趣味は同じだ──の部屋に間違えて入っているようだ。

壁に貼ってあるポスター。その中でこちらに向けて微笑んでいるのは、確かに自分。
本棚の写真集。水着で健康的かつ少量のエロスを交えた女性は紛れもない自分。
部屋にあるモノは、全て自分のモノ。
家中のモノは、全て自分のモノ。
ドアを開けて表札を確認する。携帯電話のメモリをチェックする。部屋の間取りを思い浮かべ、どこに何があったかを確認する。
自分の記憶と違うモノは、その失われたモノだった。

部屋にあるモノで、おかしなモノは──自分の存在だった。

(私は、誰かに誘拐されたのだろうか?)
(いや、それではあっさりと開いた玄関はおかしい)
(私は、知らず知らずのうちにこんな仕事を請けたのだろうか?)
(記憶にない。水着の仕事はあったし、この写真集も覚えているけど──)

微笑む自分に対して、由貴子は問いかけた。

(どうして私は、縛られていないの?)