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第5章「後」 エルフの王と姫



カイルは戦っていた。
シュシュも大地も倒れ、戦えるのは自分しかいない。
しかし、自分の力が足りず、倒されてしまう―――。


―――カイルは目を開けた。
シュシュが言っていた「はしらどけい」がボーン、ボーンという
規則的な音を出している。
……夢か。
何と戦っていたかは覚えていない。
ただ、みんなを守り切れなかったことが、鮮明に記憶に残っている。
カイルはベット――昨晩、カイルと大地に一人ずつ寝室として部屋が
あてがわれたのだが、カイルにとってはかなり大きかった――から
起きあがる。
まだ、日が昇っていないにも関わらず、城内は騒がしかった。
カイルは昨晩シュシュに言われた通り昨日の部屋にむかう。


「カイルさん、明日この柱時計の針が6を指したら、
起きていただけませんか?」
シュシュはカイルが部屋に入る前にそう言った。
「?いいけど…なんで?」
カイルは思ったままの疑問を口にした。
が、しかし
「ホントですか!?ありがとうございます!じゃぁ、時計をセット
しておきますね♪」
といって、質問はなかった事にされた。


カイルはそんなことを思い出しながら、部屋に入った。
すると……

カイルが目を覚ます20分前

シュシュは目をぱっちりと開けた。
ベットから起きあがると、何故か後頭部がいつもより重い気がした。
シュシュがベットカーテンを開けた時、ちょうど部屋のドアがノックされた。
「どうぞ。」と言うと「失礼します。」という声がかかり、
シュシュが幼い時から世話をしてくれている顔なじみのメイドが入ってきた。
「お早うございます、シュシュさ……ま?」
シュシュは彼女の様子がおかしいことに気付き、彼女の方を見る。
すると、シュシュの方を見て口をパクパクさせていた。
「シュシュ様……、それどうされたんですか?」
さすがにシュシュも自身の異変に気が付いた。
「え?え?えっ…と…これはいったい…?」
後頭部の重さはこれが原因だったのだ。
前日は首の辺りまでだったシュシュの髪がなんと腰の辺りまでのびていたのだった。

髪が長くなったシュシュがいた。
「シュ……シュ?え!?な、なにソレ!?」
「あ!カイルさん…こ、これはですね…」
シュシュも困惑しているようだった。
「高次化です。」
聞き慣れない声が聞こえたのでカイルはそっちを向いた。
そこにはメイド姿の若い女性がいた。
「えっと…」
カイルがまどろんでいると、
「私が小さいころからお世話をしてくれているエイリーです。」
シュシュが助け船をだしてくれた。
「じゃぁ、エイリーさん高次化っていうのは…?」
初めて会った人に質問するのもどうかな…?と思ったのだが、
やはり気になったので聞いて見ることにした。
「今、紹介されたエイリーです。あ、お食事の用意はできているので、
あちらで食べながらでよいので、聞いてください。」
エイリーが指した方向を見ると、昨日はなかったテーブルに
食事が用意されていた。
エイリーはペコリと頭を下げるとにこりと笑い、続けた。
「エルフには、10年に一人位の割合でハイエルフという
エルフよりも高次な存在に昇華される者たちがいるのです。
どういった経過でそうなるかはまだ分かりませんが、
そうである者たちは必ず、銀髪で瞳が淡い澄んだ色をしている
といわれています。」
カイルはそう聞いてシュシュをちらりと見た。
たしかに、いわれてみるといつもは茶色の交ざった黒だった
シュシュの髪にかすかに銀髪が交ざっている気がした。
さらに、瞳も藍色だったのが淡い青色に変わっている。
「ハイエルフになる者は10代になると数回の高次化を経て、
完成されます。その高次化の間は感覚が鋭くなるとも言われています。」
どうやら、シュシュの髪がのびた理由はそれらしい。
シュシュを見るとかなり驚いている様子だった。
後半は話についていけなかったが、とりあえずはシュシュが成長するという、
事なのだろう。

エルフの世界の食べ物は肉気がない。が、かなりおいしいとカイルは思う。
カイルが食べ終わると、シュシュもちょうど食べ終わっていた。
それをエイリーが見ると彼女は手際よくお皿などを片付けていった。
カイルが立ち上がろうとするとシュシュが口を開いた。
「カイルさん、今日、実はカイルさんについてきてもらいたい
場所があって、早く起きてもらったんです。」
「?何処にいくの?」
カイルはそう質問したのだが、シュシュが
「お願い!とりあえず、私についてきてください!
ね?お願いします。」
と上目遣いで懇願されては断れない、仕方なくついてく事にした。
シュシュが席を立って、歩き出した。よく見るとシュシュの服装がいつもと
違っていた。いつもは故郷の伝説にでてくるような魔導士の格好をしているのだが、
今日は童話に出てくるお姫様――確かにシュシュはお姫様だが――
がきているようなフリルがたくさんついたワンピースをきている。
「そういえば、大地はどうしたの?」
先をいくシュシュに並び聞いてみる。
「大地さん?大地さんは今、寝ていると思いますけど。」
「え!?大地は呼ばなくていいの?」
シュシュが急に立ち止まる。
「だから、私はカイルさんについてきて欲しいっていったんです。」
そして、また先をいってしまう。
「あ、そうだ!カイルさん、このワンピースおかしくないですか?」
ふと、シュシュに尋ねられた。
「え!?えっと、いいと思うけど…。」
とカイルがいうと、シュシュは顔を赤くして、
だが顔をほころばせ、満面の笑みで、
「ホントですか!カイルさん!えへへ……うふふ…。」
と言った。そして、
「じゃ、じゃぁこれ似合っていると思いますか?」
「え?えっ…と……。」
カイルから見れば、かなり似合っていると思うのだが、
さすがにそれを口にだす勇気はない。
それにしたって、シュシュはなんでそんなこと聞くんだろう……?
「そっ、それよりさ!修行って何やるのかな!」
どうすればいいのか分からず、カイルは話題を変えようと試みた。
が、そうすると何故かシュシュのほっぺがぷぅ、ぷぅ、ぷぅと
三段階くらいかけて膨らんでいくのが分かった。
「もう!カイルさんのばか!!ひどいです!」
「え!?」
シュシュにいきなり怒られ困惑したカイルだが、すぐ近くにつめよってきたシュシュ
の顔をみてカイルは「なんで!?」という言葉を飲み込んでしまった。
なぜなら、心なしかシュシュの瞳にうっすらと涙がにじんでいた気がしたからだ。
シュシュは少しの間カイルを見つめていると、いきなり前を向いて先を行き始めた。
「シュ、シュシュ、待って!」
とカイルが止めたのだが、シュシュはどんどん先を行ってしまう。
取り残されたカイルが独り言ちてつぶやく。
「そんなつもりじゃなかったのに……。」


カイルさんのばか!
シュシュは心の中でそう叫んでいた。
「はーぁ」と歩きながらため息をつく。
せっかく、新しくて一番かわいく見える服を用意したのに。
ひょっとして、この服が似合ってなかったのかなぁ、という思いが頭をよぎる。
いやいや、そんなことはないはず。だって、エイリーも似合うとほめてくれたし。
顔だって……、そんなに悪くないと思うんだけどなぁ……。
しかし、そのうち急に怒っちゃたりして、カイルさんに嫌われてたら
どうしよう、とそのような考えが浮かんでくる。
そこまで、考えてからシュシュは急に足を止める。
目的地に着いたからだ。
後ろからカイルが呼ぶ声と走ってくる音が聞こえる。
「シュシュ~、ちょっと待って!」
ハァハァと息を切らせている。
やっぱり、謝った方がいいのだろうか……?
でも、言葉がのどに引っかかってでてこない――。
「ゴメン!!さっきはシュシュの事考えずに言っちゃって、
本当にゴメン!」
先に謝られてしまった。のどの引っかかりが消える。その代わり、
シュシュに少しの罪悪感が生まれる。
「いっいえ、いいんです。私こそ急に怒ったりしてスミマセンでした。」
シュシュは先の反省を述べた。のだが、
「でもでも!シュシュ、そのワンピースすごく似合ってると思うよ。」
というカイルの言葉を聞いて、シュシュは顔を真っ赤っかにしてしまった。
「?シュシュ、どうしたの?顔、真っ赤だけど……。」
「~~~。なっ、何でもないです!カカカカイルさん、速く行きましょう!!」
シュシュはまたまた先を歩き出した。


やっぱり、シュシュがこの世界にきてから、様子がおかしい気がする。
怒って先いったかと思えば、いきなり顔を赤くしてまた先いっちゃうし……。
そう思いながらも、カイルはシュシュについていった。
シュシュに連れられきた所は、無数の十字架が並んでいた。
「こ…こは?」
カイルがシュシュに聞くと、
「王家の墓所です。」
シュシュが短く答えた。
ということは、シュシュの家系の人達の墓である。
「これは私の曾おじいさまのお墓、そっちがおばあさまの。」
シュシュが歩きながら説明しをている。
そんな中、カイルは並んでいる墓のうちに一つ、真新しいものを見つけた。
シュシュがそのお墓の前で足を止め、十字架の前にあった丸太に座って、
静かな口調で言った。
「これが…、このお墓が…、私の父、
マエスト・グランデ・ファイリーの物です。」
それを聞いた瞬間、カイルはショック、
否なんとも形容しがたい感情に襲われた。
「お父様は…、一年前の今日XYZから私を庇って死んだんです。」
「!」
ボキャブラリーが少ないカイルにとっては「驚愕」としかいいようがなかった。
「私はよく覚えていないんですけど、エイリーの話しでは
その時に私のユグラが発動したそうです……。」
ふと、鼻をすする音がカイルの耳に入ってきた。
シュシュの方を見ると目に涙を溜めて、鼻をすすっている。
「だから、今日が一周忌なんです…。」
シュシュの目から涙がこぼれ始める。
「私が…自分も守れないような…存在だから!
お父様が…死んじゃって……。」
カイルはシュシュの手を静かに握った。
それがどういう思いだったのかは分からない。
だが、カイルはシュシュの手をしっかりと握っていた。
カイルに手を握られ、シュシュの目から堰を切ったように
大粒の涙が流れてきた。そして、声を上げて泣き始める。
時々、嗚咽も聞こえてくる。
カイルはシュシュの手を握りながら、もっと強くなろう、
という意志を固くしていた。


「カイルさん、ありがとうございました。」
シュシュは落ち着くとそう言った。
「うん…。」
カイルはそう答えた。
泣いているシュシュにかける言葉がない自分を悔やんでいた。
しかし、シュシュは逆に明るく、
「そういえば、カイルさん!これから、カイルさんのことを
あの一回呼んだ時みたいに[カイル]って呼んでイイですか!?」
こう聞いてきた。
「べっ、別にいいけど……。」
あのとき、というのはカイルの家を発ったときの事を指しているのだろう。
でも、何故急にそんなこと言い出すのだろう……?
やはり、シュシュは此処に来てから少々様子がおかしい気がする。
「じゃぁ、一緒に帰りましょう?カイル!!」
シュシュは腰までのびてしまった髪を手で払い、言った。


そして、2人は帰っていった。