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第二十二章


「進軍開始!」
少佐の号令とともに、私たちは足を進めた。軍師である私は最後尾だ。
砦の医務室を見ると、窓からメディがこちらに手を振っていた。
ここからでは表情は分からないが、きっと悲壮な顔をしているだろう。
私はぺこり、として前に向き直り、用意された馬車に乗った。中には嫌味な大尉もいるが今日は何も言ってこなかった。
出立を知らせるため、大地にテレパスを送る。


「…こちらは進軍を開始したわ」
大地がテトラの家で朝食の片づけをしていると彼女からのテレパスが送られてきた。
協力するという約束を結んだときに大地が教えたものだ。シュシュの話ではエルフが仲介しないとできない、というようなものであったが、
やはり宝器が会話やテレパスを媒介している可能性は高そうだ。
「オーケー。おれっちもこれから指定の場所へ向かうんさ」
最後のお皿を洗い終えると大地はテトラの家を発つことにした。

テトラは大地とのテレパスを切断し、これからの行動をイメージする。
ここから敵陣に最寄りの駐留地に到着、翌日に控える戦闘のために準備を行う。
今日に関してはすることはそれだけだ。問題は翌日である。
軍の行動も含めたテトラと大地の当日の作戦は以下のようなものだ。
まずは軍がXYZ(大地は敵をそう言っていた)の溜まり場を襲撃する。これに関してはあちらが何かを察知して通常のような戦闘が始まる可能性もある。
その後、軍は伏兵のいる位置まで退却し、プルを行う。
その間、大地は敵陣の近くに潜むこととなっている。
「…敵の近くで敵についての観察や考察を私に教えてちょうだい。危険だけど、あなたが言い出したこと…やってもらうわ…」
この指令を出したときテトラはすごんでみせた。が、
「わかったさ!」
大地には通用せず快諾された。単に鈍感だっただけかもしれないが。
まあ、彼の目的についてはこの戦いが終わったら協力することにしよう。
だがまずは目の前の戦いを勝ち残ることが先だ。そう思い、テトラは戦術書を開き復習をすることにした。

最低限の食料と装備を整え、大地は街を出た。
街の出入り口で何か言われるかと心配になったが、テトラの用意してくれた紹介状のおかげですんなりと通行できた。
街の外は草原が広がっていて、ところどころに岩地や林が点々としている。
しかし、これからどうしたものか。テトラの抱える問題を解決するのが優先事項なのだが、そのあとはどうするのであろう。
テトラの協力が得られたとして、宝器所有者を見つけることができるだろうか。
見つけることができたとしても、その人物の協力を得られるだろうか。
そしてなにより、カイルたちと合流できるのだろうか。
テトラが宝器所有者ならいくつかのハードルが一気に解決されるのだが…。
カイルでもシュシュでもない大地にはそれができる自信がいまいちなかった。
大地はカイルのように意志や感情が先だってそれを貫き通すタイプでもなければ、シュシュのように目的を現実にする具体的な方法や交渉力をもっているわけではない。
そんなことを考えていると、視線の先に軍隊の行列が見えた。
おそらくあそこにテトラがいるのであろう。
彼らに見つかってしまうのはまずいため、身を隠しながら進むことにした。



テトラが戦術書を読み終えたのと、馬車が停まり駐留地に着いたのはちょうど同時であった。
大尉とともに馬車を降り、即席の陣営の中に入る。
必要な指示を済ませ、女性用の寝所に入ったところで、大地にテレパスを送った。
「…こちらは順調よ。そっちはどう……?」
「こっちも問題ないんさー。明日の朝移動すれば、やつらの近くに陣取れるくらいの場所には到着したんさ」
状況は悪くないようだ。
「そう……。そのあたりは獣は出ないけど、よく注意して…」
そこまで言ってテレパスを切ろうとしたが、大地に止められた。
「あ、ちょっと待つんさ!……明日は一緒にがんばろうなんさ!!」
わざわざそれを言いたかったのだろうか。もちろん士気は勝負の行方を決める要素足り得るが、それはほんの一部だ。
むしろ頑張ってもどうしようもないことの方が多い。だが、
「…ええ、がんばりましょう…」
そう返してしまったのは何故だろうか。彼の勢いに押されたと考えるのが妥当か。
「じゃあお休みなんさ!」
少し思考に沈んでいる間にテレパスを切られた。
「そうね…お休み…」
書類の処理もそこそこにテトラも休むことにした。



テトラとのテレパスを終え、大地はテトラから貸し与えられたローブを纏い直した。
顔を上げると、群青色の空に星々が瞬いている。
テトラの話ではXYZは200体程らしいが、これまでよりも大きい規模で出現していることとになる。
この世界ではなぜこれまでよりも大規模で出現しているのであろう。
逆にこれまでは、侵攻という言葉に対して規模が小さかったのではないか。
……疑問がどんどん増えてくさ。
とりあえずは目の前のことに集中しよう。
大地は深く眠り過ぎてしまわないように、岩に寄りかかり三角座りで目を閉じた。


差し込む朝日のまぶしさで大地は目を開けた。
寝心地の悪さによる節々のこりを、背伸びで解消する。
辺りを見回し、問題がないことを確認してからテトラから聞いていた敵の方向へ向かう。
敵が根城にしているのが森林地帯の中にある沼地である。
この森はなだらかな傾斜と沼地が特徴で、傾斜の頂上に当たる付近にテトラたちがいる軍の駐屯地がある。
一方、沼地は傾斜の底辺部に位置している。
テトラの作戦は、まず沼地に相対して正面から敵と引き気味に戦い、森に隠した伏兵がいる位置(伏兵を隠すのは、傾斜を利用して下からは見づらくした塹壕である)までおびき寄せ、
さらに別動隊を敵の後ろに回し挟み撃ちにする、というものであった。
沼地の近くで敵を観察せよ、というのがテトラから請け負った大地の任務だ。
音を立てないよう慎重に進む。が、隠密行動の訓練を受けていない大地のそれはおそらく拙いものであっただろう。
…XYZにばれないか心配になってきたんさ。
ともあれ大地の視力は悪くない。ある程度の距離を保ちながらも、沼地を目視できる地点に、今のところは何もなく辿り着くことができた。
湖のほとりには大地が住んでいた世界に襲来した首なしの騎士、骸骨の戦士、腐りかけの弓兵などが無数に存在した。
「(あの首なし騎士に他のでたらめなやつら……やっぱりXYZで間違いないんさ)」
そこで大地はテトラにテレパスを入れた。



「おはようなんさ、テトラ!」
本営で地図を広げて、各部隊の隊長と最後の確認をしていたときであった。
「おはよう……」
基本的に鈍く朝に弱い自分は、元気な「おはよう!」に気後れを感じるのであった。
「やつらを偵察できる場所に移動できたんさ」
彼の方は首尾よく移動できたようだ。
「今から1時間後に作戦が開始される…。あなたの位置から見えるだろうからわかると思うけど、私の方でもテレパスを入れるわ…」
隊長たちに気取られないよう彼に伝える。
「わかったさ!じゃあまた!」
テレパスを切断し、再び隊長たちとの確認を再開した。
みな私に対してよい印象は抱いていないであろうが、それでも私の作戦は信用しているらしく、いつも実行に移してくれる。
気合を入れ直すために、テトラはすーっと息を吸い込み、一気に吐き出した。

太陽が昇り、晴天の下、大地は繁みの中で息を殺していた。
テトラとのテレパスから何分が経ったのだろう。
慣れない隠密行動で大地は鼓動が早くなっていた。もうかなりの時間を待った気がしたが、いまだテトラからのテレパスはおろか、こちらに軍が近づく気配はない。
XYZを観察していると、彼らは武器の手入れや雑談をしていた。
……普通の兵隊たちとこういうとこは変わらないんさ?
それともXYZの中で彼らだけがこのような行動をとるのだろうか。
そういえば、やつらは結構な規模で攻めてきてるけど、今まではなんで少数だったんさ?
彼らを見ていて、ふとそのような疑問が浮かんだ。数で攻めたほうがいいに決まっているのだが、カイルやシュシュの話を聞く分では軍規模での侵攻はなかったはずだ。
ん~どうしてなんさ…?
大地が頭を抱えたそのとき、軍靴を鳴らす音が聞こえた。
沼地でXYZがざわつき出していた。
「……もう少しで戦闘が始まるはずよ」

テトラは大地にテレパスを入れると、駐屯地で戦場の方角へと向き直った。
作戦開始のタイミングは隊長たちに任せてあり、彼らの示し合わせたタイミングで弓矢が一斉射撃されるはずだ。
右手で額のサークレットを触った。作戦の決行前は必ず、母からもらったサークレットに触る癖があるのだ。
テトラが右手を離したちょうどそのとき、大量の矢が沼地に発射されるのが見えた。
これにより、戦いの火ぶたが切って落とされたのであった。