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空が落ち、地が平らにならざれば、人の流れは定まらず、
乱れ、乱れて、乱は続く。

世間を離れた高山の麓に一翁あり。
沙羅双樹の下、大いに人間を語る。
傍らには常に童子一匹を従え、訪問者に湯と評を与えた。

或る時、世を憂える美麗痩身の男と精悍巨躯の男が翁を訪ねる。
翁は夫々の道を問う。

美麗痩身の男は言う。
民間に身を置き、生産を共にし、悲哀を慰め、歓喜を分かち合い、ついに桃源の地へと誘うことこそ我が道である。
弱者を喰らい幸福を妨げる虎が現れれば、進んで先に喰われる牛となろう。

精悍巨躯の男は言う。
我が道は虎である。他に言うことはない。

美麗痩身の男は色をなし、かつての同志の言を執拗に責め始めた。
しかし精悍巨躯の男は無言を貫く。
翁は関せず、湯をすすった。
童子は鼻糞を天に飛ばし欠伸をする。

疲弊した美麗痩身の男は立ち上がり、侮蔑の眼差しを残して去った。
続いて精悍巨躯の男も立ち上がり、翁に背を向け静かに去った。

翁は童子に問う。
汝なら何れを選ぶか。
童子は答える。

牛は人々に千年の幸福を与えましょう。しかし邪悪な虎に抗う術を持ちません。共に喰われるだけです。
一方、虎は牛や民を喰らう虎を喰らうことができる。しかしその虎は恐れられ幸福を得ることはできません。
幸福を与える才と苦難を排する才は共存できず、何れも性に合いません。

翁は言う。
ならば我が後を継ぐべし。

童子は立ち上がり、微笑して言う。
我が身には、夏椿こそ相応しい。
そして童子は小躍りして二人の後を追い、翁の下を去った。

呆然とする翁にひとしきり風が吹きつけ、翁の身体は崩れ去り、あとは何も残らなかった。