きーんこーんかーんこーん 「かーっ 終わった終わった」 「チーちゃん、一緒に帰ろ」  終業の鐘が鳴り、背伸びをして帰路に着くと会いも変わらず人を呼ばれたくもない子供っぽい呼び方する幼馴染。 「とりあえずその呼び方はヤメロと言っとるだろうが」 「いたいよ〜」  返答代わりにアイアンクローを軽く仕掛ける。 「とりあえずその呼び方をいい加減改めろ、あけび」 「う〜」  俺の手のひらに頭を鷲掴みにされながらも唸って抗議するのは神凪あけび。俺の年齢とほぼ同等の幼馴染暦を持つこいつはいい加減子供っぽいところを直そうとしない。 「うにゃあ〜!!」  いい加減立ち振る舞いから何まで子供っぽいのはどうにかならんものか。正直この年になって母乳のにおいも感じさせないのはどうだろう。 「開けぇ〜!!!」 「にゅ〜!!!」 「おりゃ〜〜!!!」  はぁ 「にゃ?」 「いいから帰るぞ」  何時もの通り根負けした俺が手を放して歩き出す。それを追いかけるようにぽてぽてとあけびも歩き出す。 「あ〜! 待ってよ〜チーちゃ〜ん」 「やめろ言ってるだろ…」  何時もと代わり映えしない何時もの放課後。 ------------------------------------------------------------  学校から十数分。適当に繁華街へやってきた俺たちは何処に入ろうかと 「マックの後はぬいぐるみやさんに〜」 「却下」  だからせめてアクセサリーショップとかこいつの発想にはないのか。もっとも俺はゲーセンに強行するのだ。 「あー、チーちゃんチーちゃん」 「チーちゃん呼ぶな。で、なんだ?」  報復処置に口の端を真横に引き伸ばしながら、あけびの指差す方向に目を向ける。 「あははん、あははん」  「ん? ああ、赤ちゃんか」  そこには赤子を抱いた母親が木陰で座っていた。 「かわいー」  いつの間に俺の手を脱け出していたのか、その母親の元に赴き赤子をまじまじと眺める。 「さわってみる?」 「え、いいんですか」  つーか早速打ち解けてるし。仕方無しにあけびの元へ行くとやわらか〜いとか感激してる。 「いいなー」 「ほら、あんまり迷惑かけるなよ」  とりあえず謝ろうとあけびを退かそうとした瞬間 ――ぁぁあ… 「「え?」」 ――おぎゃああああああ!!!  全力で赤子が泣き出しましやがった。 「ちょっ…チーちゃんが怖い声だすから!!」 「あけびがいじってるのが原因だろ!!」  などと俺たちがただ慌てている間に、女性は躊躇せず左胸を出して赤子に母乳を与える。 「あ、そっかぁ、ミルクの時間だあ」 「なんだ…慌てて損した」  女性が母乳を与えると赤子は途端に泣き止み一生懸命に吸い付いている。 「かわいー」   「私もお乳あげたいなぁ」 「アホか」  それは即座につっこみ。いくら普通に母乳が出るといっても通常の母乳と母親の母乳にはその成分に格段の差があるのだ。価格にして数十倍、栄養価でいえば数百倍くらい。 「と言うより全く似合わん」 「うわ、チーちゃんひどい」 「飲ませてみる?」  にも関わらず女性はそう優しく聞いてくる。何ていうか母親然してるというか。 「あ、じゃあ」  あけびも左胸を出すと赤子を受け取って乳首を咥えさせる。 「んにゃ…ん」  最悪泣き出すかと思ったが、意外にもあけびの母乳が気に入ったのか一生懸命に吸い出してる。 「よしよし…いいこいいこ」  そうして見るといつもは子供っぽいあけびが妙に大人びて見える。なんていうか… 「母親だな」 「んにゃ?ケーちゃん何かいった?」 「言ってない。つーかケーちゃん言うな」  どうやらあけびはそれで納得したのか一生懸命赤子をあやしている。 (ゲーセンはなしだな……)  その姿がちょっと眩しい、平日の午後だった。