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次の日の夜。
海鳴温泉から帰ってきた高町家一行。
「キラ君、ただいま~」
「あ、おかえりなさい。皆さん」
「留守の間、何も無かったかい?」
「はい、特には」
一人、夜に来た少年のことがあるが、まああれは話さなくてもいいだろうと思い、
キラは昨日の出来事を胸の中にしまっておいた。
「……」
そして高町家の次女、なのはの顔色はなんだか落ち込んでいた。
「……なのはちゃん?」
「あ、た、ただいま、キラ君」
「おかえり、なのはちゃん」
ずっと何かを考えている様子のなのははそのまま早足で階段を上がっていく。
(ユーノ、何があったの?)
なのはには聞こえないように念話でユーノに語りかけるキラ。
(はい、それが……)
旅行の夜、出現したジュエルシード。
それをこの間の少女に先に封印された上に、お互いのジュエルシードを掛けて勝負した結果、
敗北し、一つジュエルシードを奪われてしまったという。
(そんな……どうして僕を呼ばなかったの!)
(それが……昨日はあの人……アスランさんがいなかったんです。だから僕達だけでも何とかなると思って……)
(アスランが……)
(すみません……僕の判断ミスです……)
しゅん、と首をうなだらせ落ち込むユーノ。
(いや、過ぎたことを言ってもしょうがないよ。次を頑張ろう、ね?)
ポンとユーノの頭を撫でるキラ。
(それより気になるのは……)
チラと視線を階段へと向ける。
(なのはの様子……ですね)
(ずっとあの様子なの?)
(はい……負けたことがよっぽど悔しかったんでしょうか……)
(……)
だが、キラは感じていた。
あの表情は何かを考えている表情で、悔しいとかそういうのじゃない。
(わからないけど……今はそっとしておいてあげよう)
(はい……)

「ただいま~」
「ただいま」
フェイトとアルフが帰ってきた。
「ああ、おかえり」
リビングにいたアスランは二人を出迎える。
「何か変わった事とか無かったか?」
「それがさ~温泉先であのフェイトの邪魔してるっていう女の子に会ったんだよ」
アルフの言葉で脳裏に浮かぶ白い服の少女。
「じゃ……キラもいたのか?」
確かキラはあの子と一緒にいる筈。
「いえ、あの人はいませんでした」
「いない?」
「はい」
淡々と答えるフェイト。
「……そうか」
なぜキラはいなかったのか?その疑問を考え始めていたが、
「それからのフェイトはすごかったんだよ!」
空気を読まない使い魔は興奮気味に話し出す。
その夜出現したジュエルシードを封印しただけでなく、互いのもっているジュエルシードを一つ掛けて勝負し、
見事フェイトは白い服の少女に勝ってまた一つジュエルシードを手に入れたという。
「そうか……君はすごいな」
「えっ?」
あっけに取られたような表情をするフェイト。
「いや、俺もまだまだ君には勝てそうに無いってことだ」
ひょいっと二人の鞄を持つアスラン。
「晩御飯、まだなんだろ?今から作るところだから、先に風呂にでも入っていてくれ」
そういって鞄を持ってフェイトの部屋へ行くアスラン。
「アスラン」
「ん?」
不意に呼び止めるフェイト。
「……何か留守の間ありましたか?」
「……いや、特に何もなかったが?」
「そうですか……」
「どうかしたか?」
「いえ、何でもありません」
「?そうか」
振り返り、アスランは歩いていく。
フェイトは感じていた。
温泉に行く前と帰ってきた後で、アスランの中で何かが変わったような、そんな感じがした。
だからといっていきなり何か変わったとは聞く事も出来ず、あの質問をしてみたが、何も無かったという。
ならば、一体何が彼を変えたのか。
その疑問を抱きながら、フェイトはバスルームへと向かう。

数日後。

カランカラン。と翠屋のドアが開く。
「いらっしゃいませ~!……って、あれ?」
ドアをくぐり入ってきたのは、
「いらっしゃい、アリサちゃん、すずかちゃん」
なのはのクラスメイトで友達のアリサ・バニングスと月村すずかであった。
「あれ?なのはちゃんは?」
いつもなら三人で入ってくるはずなのに、今日に限っては二人だけであった。
「なのはちゃんは、今日は掃除当番なので……」
キラの疑問に答えるすずか。
「そうなんだ」
だが、その返答では納得いかなかったキラ。
三人の仲の良さはよく知っていた。だから掃除で遅くなるのなら終わるまで待ってあげるだろうと考えていた。
そして今まで黙っていたアリサが口を開いた。
「あの……今日はキラさんに相談があってきました」
「相談?」
「はい」
その相談については何となく予想がついていた。

「はい、二人ともオレンジジュースでよかったかな?」
「あ、すみません」
「いいよ、お代は僕が」
コトと置かれる二つのオレンジジュース。
並んで座る二人の向かいに座るキラ。
「それで、僕に相談って?」
すずかが最初に口を開く。
「実は……なのはちゃんの事なんです」
やっぱり。
キラの中での予想は確信へと変わった。
「最近何話しても上の空で、何か悩んでるのって聞いてもなんでもないよとしか答えてくれなくて……」
「……」
なのはの考え事は学校にだけではなかった。
家にいる時も、同じ様にぼーっとしていることが多々ある。
「悩んでるが見え見えなのに……でもあの子は何も話してくれない……」
アリサが下を向きながら言葉を出している。
「少しは役に立ってあげたいのに、どんな事だっていい、何も出来ないかもしれない……
 でも、少なくとも一緒に悩んであげられるのに……!!」
悔しそうに、一言一言を吐き出すように話す。

その様子がたまらなくなって、キラは
ポン。
「え?」
突然のことに頭を上げるアリサ。
キラの出した右手はアリサの頭の上にあった。
「……アリサちゃんはなのはちゃんの事が大切なんだね」
「……はい」
「友達が困っているのを、ただ見てるしか出来ない自分が嫌で嫌でしょうがないって思ってない?」
思っていることを言い当てられたアリサは一瞬驚いた表情をする。
「……はい」
「でも、そんなに自分を責めちゃダメだよ。そんなアリサちゃんを誰も見たくないはずだよ。
 すずかちゃんも、なのはちゃんも……」
ね?と意味を込めたの視線をすずかへと送るキラ。
「は、はい!」
沈んだ顔が一気に笑顔へと変わるすずか。
「……なのはちゃんが何を悩んでいるのかは僕にもわからないけど、でも確かに最近は考え事をしているのが多くなったのは僕もなんとなく気付いていた」
キラはまた嘘をついてしまった事に心を痛める。
「何も出来ない事に怒るのもわかるけど……」
なのはが何を悩んでいるのかは、ある程度の予測がついていた。
だが、この子達には話すことは出来ない。
だから、今僕に出来ることは……
「でも、自分を責めないで」
こんな言葉を送ることしか出来ない。
「……はい」
アリサの顔を見て、さっきより大分いい顔をしたのを見て頭から手を離す。
「僕の方からもそれとなく聞いてみるよ。僕が言っても何も話してくれないかもしれないけど……」
「お願いします」

それからすぐに、二人は翠屋を後にした。
最初迎えに来てもらうはずだったのだが、両方とも都合が悪く仕方なくバスで帰ることに。
「バス亭まで送っていこうか?」とキラが申し出てきたが、これ以上仕事の邪魔を出来ないので、
「いえ、バス亭までですから」とお断りした。
バス亭まで歩く二人。道中、会話はやはりなのはの事に関してだった。
そうして話していると、
ドン。とすずかが誰かにぶつかった。
「キャッ、す、すみません」
とすずかは謝ったにも関わらず、相手の中学生と思われる男子の反応は、
「何処見て歩いてるんだよ、ガキ」
その言葉で、今まで募っていた怒りの導火線に火がついたアリサ。
「ちょっと!今のはアンタがすずかにぶつかってきたんじゃない!!」
ただでさえなのはとのことでイライラしていたのに。
「ああ?なんだこのガキ!」
「生意気なガキだな……」
「ちぃっと痛い目見ないと分からないかな~?」
ガラの悪そうな四人にあっという間に囲まれる二人。
「ア、アリサちゃん……」
すずかは今にも泣きそうな顔でいた。
「状況的にちょっと不味いかな……」
一人ならまだ何とか逃げる事も出来たけど、流石に四人もいたら逃げる事すらままならない。
段々落ち着いて冷静になった今はちょっと自分の言動に後悔しそうになったのだが、
悪いのは向こうである。という意思だけは失ってはいなかった。
アリサはすずかを庇う様に後ろへと回す。
そして後ずさりしながらあっという間に壁まで追い詰められる。
「生意気なガキにはお仕置きが必要だよなぁっ!!」
振り上げられる腕。
殴られる!そう思い目を瞑るアリサ。
だが、何も起きない。本来ならとっくに拳が飛んできてるはずなのに。
恐る恐る目を開けてみると、
振り上げた手が目を閉じる前と同じ位置にあり、よく見るとその手は誰かに掴まれているようだった。
「だ、誰だてめえ!?」
掴まれた手を振り払い、少年は振り返る。
すると少年の後ろにいたのは、
「やめないか」
藍色の髪をなびかせて、翠色の瞳を持った青年がそこにいた。

「んだと!」
「てめえも殴られたいのか!!」
そういい少年の一人がストレートに殴りかかってくるが、青年はいとも簡単に避ける。
「こ、この野郎……」
「全員でかかれ!!」
四人が一斉に動く。
だが、繰り出される攻撃を全て見切っているような動きで青年は回避する。
「こ、こいつ……!!」
誰の目にも分かること。目の前の青年は強い。それも半端なく。
「野郎っ!!」
背後から襲おうと画策した一人だったが、
スッと避けられ、足を引っ掛けられる。
「うわっ!!」
そして青年の目の前の一人にぶつかって倒れる。
同じ様にもう一人も足を引っ掛けられ、全員倒れる始末。
「痛ぇ……」「くそ……」
それぞれ苦痛の表情を浮かべる少年達
「……まだやるか?」
倒れた四人を下から見下ろすように睨む青年。
「ひっ!!」
その鋭い眼光に怯む少年達。
そして逃げる様に去っていった。
見えなくなるのを確認して、アリサとすずかはホッとした。
すると青年はこちらを振り返り、こちらに歩いてきて、目の前でしゃがむ。
「……怪我は無いか?」
いきなり発する言葉にすぐに返答できなかった二人。
「え?あ、はい」
「そうか、ならよかった」
二人の無事を確認した青年は立ち去ろうとしていた。
「あ、ま、待ってください!!」
「?」
すずかの言葉に立ち止まる青年。
「あの……助けて頂いて、ありがとうございました」
ペコと頭を下げるすずか。
「……ああいう奴らはどこにでもいるものだ。これからは気を付けた方がいい」
「待って」
「?」
次に呼び止めたのはアリサの方だった。
「その……助けてくれてありがと……あんたが助けてくれきゃ、今頃……」
自分もすずかもひどい目にあっていただろう。そう考えるだけで身震いがする。
だが、それは心の身震いだけでなく身体も小刻みに震えていた。
それを見た青年は、ポンとアリサの上に手を乗せる。
「……え」

「もう大丈夫だ、もう怖くない」

その言葉だけで、身体の震えは止まった。
たったそれだけの言葉だけど、不安は無くなった。
「じゃ、俺はこれで……」
「あ、あの!何かお礼を!」
「……俺に関わらない方がいい」
「え……?」
その言葉の意味が分からずキョトンとするアリサ。
でもこっちとしてもまだ引き下がれない。
「だ、だったら、せめて名前だけでも……」
ピタと立ち止まる青年。
そして数秒程無言の空気の後、
「…………アスラン」
「え?」
「アスラン・ザラだ」
自分の名前
そして今度こそ青年、アスランは去っていった。
「……」
「アリサちゃん?」
ぼーっとアスランが過ぎ去っていった方向を見つめるアリサ。
「……あのアスランって人」
「さっきの人?」
「……何となく何だけど……」
「?」

「…………キラさんに似てる気がした………………」

夕刻。

「う~ん♪こっちの世界の食事も……まぁ、なかなか悪くないよね…モグモグ」
「……」
「ん?どうしたんだいアスラン?そんなげんなりして」
「いや、気にしないでくれ……」
そりゃ目の前でドッグフードを口の中にかき込んでる姿を見ると誰だって食欲も失せるというものだ。
「……」
カタと席を立ちフェイトの部屋へと向かうアスラン。
彼には少し気になる事があった。

部屋に入ると、フェイトはベッドで横になっていた。
机の上に置かれた食事はほとんど手が付けられていない。
「……また食べてないのか?」
「少しだけど、食べたよ」
少しというよりは極小だろう。減っているのはせいぜいスプーン何杯分程度ぐらいのものだ。
「……ダメだぞ食べないと」
「大丈夫」
そういってベッドから立ち上がるフェイト。
「そろそろ行こう。次のジュエルシード探しの大まかな位置特定は済んでるし。
 それに……」
「?」
「母さんをあんまり待たせたくないし……」
「……そうだな」
この子は母親の為にこんなに頑張っている。
ああ、この子は本当にプレシアの事が好きなんだな。
「アルフが食べ終わったら、行こうか」
見るとまだリビングでドッグフードを食べているアルフ。
本当に食欲のなくなる光景だ……。
「……その前に」
「?」
カチャと食器を持ち立ち上がるアスラン。
「向こうで一緒に食べるとしよう」
「わ、私はもう」
「広域探索の魔法はかなり体力を消耗するんだろう?だったら少しでも食べておかないと、
 封印の時に何かあっては困るからな」
「……」
アスランの言っていることはもっともだった。
広域探索の魔法はかなりの体力が削られる。その上、フェイト自身ロクに食事も取ってないし休息も取っていない。
「ほら、行くぞ」
「……はい」
アスランの根気に負けたフェイトはしぶしぶリビングに赴き、食欲が失せる光景の中食事を取る羽目になった。

同刻。
翠屋はどこも席が一杯になっていた。
この時間帯は一番ピークになるので誰も彼もが世話しなく動いている。
その翠屋の厨房の洗い場にいる二人の男女。
一人は高町家の長男、高町恭也で、もう一人はすずかの姉の月村忍である。
二人揃って翠屋のエプロンを着けて臨時バイトをしていた。
「ねえ、恭也……なのはちゃんの事なんだけどさ……」
「?」
手を動かしながら忍が恭也に話しかける。
話というのはなのはについての事だった。
恭也自身も気付いていたが、最近のなのははよく考え事をしていることが多くなった。
それに比例して夕方や夜の外出も増えている。
その事に関して忍自身も気にしてくれているようだった。
「お節介かもしれないけど、ちょっとお話聞いてあげてもいいかな……?」
「それはありがたいことだが、多分何も話さないと思うんだ」
「……私じゃダメかな?」
「ああ、違う、そうじゃない。忍には話さないってことじゃなくて、多分誰にも話さない。
 あれは昔から、自分一人の悩み事や迷いがある時はいつもそうだったから……」
「そうなんだ……」
「まぁ、あんまり心配はいらないさ。きっと自分で答えに辿り着くから」
「……そっか」
「それに……」
チラと厨房から店内へと視線を移す恭也。
それにつられて同じ方向へと視線を向ける忍。
その視線の先には、いそいそ走るキラの姿が。
「その件に関しては、キラに任せてあるから」
あの日の朝、キラと交わした約束を恭也は覚えていた。
「だから……大丈夫」
自分でもわからないけれど、あの少年と出会って間もないというのに、なぜか信じてしまう自分がいる。
そんな自分をふっと笑う恭也だった。

夜。
夜の街を歩き続けるなのはとユーノ。
ふと時計を見上げてみると時刻はすでに7時を過ぎていた。
「うう……タイムアウトかも……そろそろ帰らないと」
もうすぐ高町家では夕食の時間となるので、なのはのタイムリミットが来てしまったようだ。
(大丈夫だよ、僕が残ってもう少し探してくるから)
(うん…ユーノ君一人で平気?)
(平気。だから晩御飯とっておいてね)
(うん)
ユーノはなのはの肩から降りて夜の町へと進んでいき、なのはは反対方向の自宅への帰路へと着く。
(アリサちゃんとすずかちゃん…そろそろお稽古が終わって帰る頃かな……?)
立ち止まり、携帯を出して確認をする。が、
『新着メールはありません。』
今日の事を思い出したのか悲しげな表情になるなのはだったが、携帯を閉じてしまい、また走り出す。

ビルの屋上に降り立つ三つの影。
「だいたいこの辺りだと思うんだけど、大まかな位置しか分からないんだ」
「はぁ……まぁ確かにこれだけゴミゴミしてると探すの一苦労だねぇ……」
カチャとバルディッシュを前に掲げるフェイト。
「どうするんだ?」
「ちょっと乱暴だけど、周辺に魔力流を打ち込んで強制発動させる」
「あー待った!」
「?」「?」
不意に上がった声に反応するフェイトとアスラン。
「それアタシがやる」
「大丈夫?結構疲れるよ」
「ふふん、このアタシを誰の使い魔だと?」
自信満々に答えるアルフ。
その言葉に笑みを浮かべる二人。
「……確かに、頼もしい限りだな」
「じゃあ、お願い」
「そんじゃぁっ……!!」
構えるアルフ。足元に発生する魔法陣。空へと上っていく魔力光。

「!!」
翠屋からの帰路に着いていたキラ。
突如感じた魔力反応。空を見れば雷雲が覆っている。
「これは……ジュエルシードが!?」
振り返り、魔力を感じた方向へと走り出す。
「ストライク!」
『Stand by ready setup.』

瞬間。

カッ!!と出現する一筋の光。
「見つけた!」
「けど……あっちも近くにいるみたいだね」
(キラ……)
結界に包まれていく街の光景。
「……早く片付けよう。バルディッシュ!!」
『Sealing form set up.』

「あ……」
見上げると一筋の青い光が夜の街に瞬く光る。
(なのは、発動したジュエルシードが見える?)
(うん、すぐ近くだよ)
(あの子達も近くにいるんだ、あの子達より先に封印して!)
(わかった!)
レイジングハートを前方へと掲げ、モードチャンジする。

「……!!」
バルディッシュより放たれる金色の魔力の光。

「……っ!!」
そして若干遅れて、レイジングハートより放たれた桜色の魔力の光。

そして、両方ともほぼ同時にジュエルシードへとぶつかる。
封印の光を浴びて、浮かび上がるジュエルシード。
その中心には『XIX』の文字が見えている。

「リリカル、マジカル!!」

「ジュエルシード!シリアル19!!」

「「封、印っ!!!」」

ゴォッ!!と放たれる二つの魔力。
だが、二つの封印の魔力は互いに相殺し消滅し、ジュエルシードのみがそこに残る。

『Device mode.』
排熱の空気を出し、通常形態へと戻るレイジングハート。
ジュエルシードへと一歩一歩近付くなのは。
そして不意に蘇る、昔の記憶。
それはまだなのはがアリサとすずかと友達になる前の記憶。
(アリサちゃんやすずかちゃんとも、初めて会った時は友達じゃなかった。話を出来なかったから、わかりあえなかったから……
 アリサちゃんを怒らせちゃったのも、私が本当の気持ちを、思っていることを言えなかったから……)
見上げると、そこには手の届くところにジュエルシードがある。
トテトテと歩いてくるユーノ。
「やった!なのは、早く確保を」
「そうはさせるかいっ!!」
「!!」
上空より強襲するアルフ。
タッとユーノはなのはの前に立ち防御魔法を貼り、それを防ぐ。
そして役目を果たした結界は割れ、そこに現れたのは、黒い服を見に纏った少女と紅い服を身に纏った少年。
交差する視線。訪れる沈黙。
だが、その沈黙を破ったのは、
「この間は、自己紹介できなかったけど、私なのは、高町なのは。私立聖祥大付属小学校三年生」
『Scythe form.』
「!!」
言葉を遮るようにデバイスを構えるフェイト、それに反応し同じく構えるなのは。
そして、向き合う両者。だが、なのはの思惑は違っていた。
(どうして、そんな寂しい目をしているのか……)
顔を振り、デバイスを振り上げなのはへと迫るフェイト。
「はぁっ!!」
二人の間に割り込むように飛んでくる魔力弾。
「!!」
間一髪反応したフェイトはバックステップして回避する。
「なのはちゃん!!」
「キラ君!」
後方の空より現れるキラ。その姿はエールジャケットを身に纏っている。
「……キラ」
「……アスラン」
そして向かい合う少年達。
「なのはちゃん、アスランは僕が。その間にあの子とジュエルシードを」
「キラ君。でも……」
「大丈夫。僕もあれからずっと練習して来たんだ、そう簡単には負けないよ」
「……わかった」

「……あいつは俺が相手をする」
「……大丈夫?」
「俺の実力は、君が一番よく知っているだろう?」
その言葉だけで、説得力は充分だった。
「……わかった」

向き合うキラとアスラン。
そして最初に動いたのは、
「!!」
ガシャッ、とライフルを構え、トリガーを引くアスラン。
放たれる魔力弾をギリギリで交わし、キラもライフルで反撃する。
だが、それも回避し、反転し一気に距離を縮めてくるアスラン。
「イージス!!」
『サーベルシフト、ライトアーム』
ブゥンと発生する魔力刃。
「くっ!」
同じ様に肩の筒を抜き、同じ様にサーベルを右手に持ち、迎え撃つ。
「はあああっ!!」
ガキィンッ!!
ぶつかる刃。刃と刃の重なる場所から魔力が溢れるように弾けている。
「キラ!お前はなぜあの子の味方をするっ!!」
「えっ!?」
突然目の前は発せられる質問。
「俺は、この世界に飛ばされた時にあの子に、フェイトに救ってもらった!
 そして、彼女の母親からフェイトを助けてやってくれと頼まれた!!」
似ている、自分と。キラはそう思った。
「だから、俺はあの子を、フェイトを護ると誓った!!」
ガキィンッ!!
「ぐぅっ!!」
一瞬力のバランスがアスランに傾いた為、弾かれるキラ。
瞑っていた目を開け、空中で姿勢を戻す。だが、
「!!!」
いない。目の前からアスランの姿が無くなっていた。
目線を左右に動かすが、どこにも姿は確認できない。
「くそっ、どこへ」

「イージス」
『スキュラ、バースト』

「!!!」
声のした方向、上空へ視線を向けると同時に放たれた魔力砲。
とっさにシールドで防ぐが、威力が大きい為、勢いに押されて後退していくキラ。
「ぐ……重、い……!!」
受け止めてはいるが、それもかなり限界に近くなっていく。
『シールド損傷率、50%超過』
やはり受け切る前にシールドがもたない。
このままじゃ……やられる!

「僕は……まだ……負けられないっ!!!」

瞬間。キラの頭の中のSEEDが弾けた。

「ストライク!!」
『エールジャケット、ブーストフルパワー』
「なっ!?」
アスランは目の前の光景に驚愕する。
押していたはずのスキュラを押し戻すようにこちらへと近付いてくる。
「うおおおおおおおっ!!!」
キラの咆哮と共に加速し、そして、二人の距離が段々狭まっていき、
『シールド損傷率、96、97、98、99……100%』
数メートルの所でストライクのシールドは爆発した。
至近距離の爆発はアスランにも影響を与え、一瞬の隙を生んだ。

爆煙の中から出てくる魔力弾。
「!!」
距離的に回避は不可能と判断したアスラン。左手のシールドを前に掲げ相殺する。
だが、
「アスランッ!!!」
「!!」
前方ではなく上空からの声。
ライフルを発射してすぐに上空へと舞い上がったキラは左手にライフルを、右手にサーベルを持ち、振り上げて降下してくる。
そして眼前のアスランへ向けて、縦一閃。
「ちぃっ!!」
すんでの所で左手のシールドで防ぐ。
「さっき言った事!」
「!?」
「どうして僕が、なのはちゃんの味方をするか、それはっ!!」
右手に込める力を上げて、シールドを持っていたアスランの左手を弾く。
それと同時に、左手は振り上げられ、その手にはすでにライフルからサーベルへと獲物が変わっていた。
縦一閃。それはアスランのバリアジャケットを大きく掠めた。
だが、それも掠めただけ。一瞬の反応が致命傷を避けたのだ。
「くぁっ……!!」
背後へのバックステップ。距離をとるアスラン。
背中に嫌な汗が出てくる。じんわりと感じるこの感覚。
恐怖。
久しく感じていなかった感情が全身を支配する。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
別段息切れを起こすほど動いたわけでもない、だが、心臓の動きは通常よりも早く動いていた。
正面を見据えると、そこには両手にサーベルを持ったキラが悠然と飛んでいた。
「…………君と同じなんだ」
「えっ?」
不意に発せられた言葉。
その言葉の意味を理解するまでに少々の時間がいった。
「……僕もこの世界に来て、なのはちゃんに助けられて、そして、その家族に救われた」
「……」
「だから、僕はあの子を護る」
サーベルを構え、姿勢を低くする。

「それが、僕の理由だ」

「……そう、か」
そして同じように構えを取るアスラン。
「だけど、俺も退くわけにはいかない」
なぜか、体からは先程まで感じていた恐怖はもうなくなっていた。
「俺も、負けるわけにはいかないんだっ!!」
ドンッ!と急加速をつけ距離を狭める。
振り下ろされる右手のサーベルを左手のサーベルで受け止めるキラ。
「ぐっ……!!」
加速のついた右手が重くのしかかる。
「イージス!!」
『サーベルシフト、ライトレッグ』
右足の先に発生する魔力刃。その右足を横一閃に薙ぐ。
「!!」
受け止めていた左手を弾いてその反動で回避する。
それにより二人の間に空間が出来る。
お互いが腰元のライフルに持ち替え、目の前の標的に銃口を向ける。
そして二人がトリガーを掛けた指を動かそうとした

その時。

「「!!!!」」
突如発生する爆発。
その発生源は……元いた場所。ジュエルシードの辺りから。
「なのはちゃん!!」
「フェイト!!」
二人は目の前の戦いを忘れ、爆発元へと全速力で飛んでいく。

大きな帯状の光が消え、なのはとフェイトはジュエルシードより大きく離れてしまっていた。
「なのはちゃん!!」
「フェイト!!」
二人がそれぞれの少女の元へと行く。

「大丈夫か!?」
「私は平気、だけど……」
カチャと右手にあるバルディシュへと視線が移るアスラン。
見ると全体的にヒビが入って、中心のコアの光も今にも消えそうな程小さく点灯していた。
「これは……」
あの爆発の影響でこうなったのは理解できた。が、ここまでバルディッシュが破損しているのに納得はいかなかった。
(ジュエルシード……あれは一体何なんだ……?)
アスランは今までジュエルシードの危険性をそんなに深く考えてはいなかったが、認識を改めたと同時に疑問が生まれた。
そしてフェイトはバルディッシュをモードリリースし、右手の甲へと戻す。

「なのはちゃん!!」
「キラ君……」
「怪我は無い!?」
「怪我はないけど……」
「!!それは……」
見ると、レイジングハートも所々破損していた。
練習でも傷すらほとんどつくことのなかったデバイスなのに、今はボロボロの状態であった。

そしてフェイトの見上げる視線の先に浮かぶジュエルシード。
どうにか確保をと思いフェイトは動いた。だが、
「ッ!!」
全身に痛みが走る。どうやら先程の爆発のダメージが今になってきたようだ。
その場に足を着け、膝をつけてしまう。
このままじゃ……。
そう考えていた矢先、自分の横を通り過ぎる一つの紅い影。
アスランがジュエルシードに向かって飛んでいった。
「!!!」
それに最初に気付いたキラも同じようにジュエルシードへと向かう。
そして最初にジュエルシードを手にしたのは、アスランだった。
「!!!!」
そこにいる皆が色々な表情を浮かべる。
だが、

「な……!!」
ジュエルシードを握っている手から零れ出る光。
片手では押さえられないっ……!!両手でどうにか押さえ込もうとするが、振動は大きくなるばかりだ。
「くそ……止まれ、止まれ、止まれ……!!」
力で抑え込もうとしても何も変わらない。
手の痛みが段々ひどくなってくる。
離してしまいたくなるほどの痛みが両手を襲う。
「アスランッ!!」
思わず叫ぶフェイト。
そしてその声で気付くアスラン。
「……そうだ……落ち着け……集中……」
目を瞑り、両手に魔力を集中させる。足元に展開する魔法陣。
ジュエルシードより発生している魔力とぶつけ、中和していく。
するとみるみるうちに光は弱くなり、ついに光は消えてしまった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
どうにか暴走を回避できたようだった。
安堵すると同時に力が抜けたように膝をつく。
「アスランッ!!」
獣形態から人間形態へと変化し、走り寄るアルフ。
「俺は大丈夫だ……それよりフェイトを連れてここから……」
「わかった……」
フェイトの元へ走り、今にも倒れそうなフェイトを抱え夜の空へと飛ぶアルフ。
そして、同じように後を追うアスラン。
「アスラン……」
不意に後ろから声を掛けられる。声の主は、振り返らずともわかっている。
だから、振り返る事なく空へと飛んでいく。

そして、その姿は夜の闇へと沈むように消えていった。
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