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「ただいま、アルフ」
「ただいま」
「二人ともお帰り~」
アルフがフェイトに抱きつく。
「大丈夫だったかい?」
「うん。ほらこの通り」
ポワッと宙に浮かぶジュエルシード。
「さっすがアタシのご主人様!で、アスランも大丈夫かい?」
首だけをアスランの方へ向ける。
「そんなとってつけたみたいに言われてもな・・・」
「ま、いいじゃないか。あんたも無傷みたいだし」
頭の先から足の先まで見て、これといった外傷のない事を指摘する。
「まあな」
「それに・・・昨日の子もいた」
「昨日のって・・・フェイトの邪魔をしたっていう子かい?」
「うん。後・・・」
チラッとアスランに視線を向けて
「アスランの知り合いの人もいた」
「・・・戦ったのかい?」
アルフがアスランを見据える。
「・・・ああ」
一息置いて答えるアスラン。
「・・・ま、何にせよ無事ならいいじゃないか」
「・・・そうだね」
アルフの言葉にフェイトも同意する。
「とりあえず俺は部屋で休むよ。あ、フェイト」
「はい」
「後でまた特訓に付き合ってくれないか?」
「わかった」
それだけ言葉を交わし、アスランは自室へと戻る。

部屋に戻ったアスランはベッドで横になり、天井を見上げながら先程の戦闘を思い出していた。
今日のキラの動きを見る限りではまだ魔法を使い始めて何日も経っていないようだった。
いや、昨日の時点で結界内でバリアジェケットを装着していないことから察するに、
力に目覚めたのは昨日の夜か、今朝のジュエルシードの封印の時かもしれない。
それにキラ自身ジュエルシードの事をよくわかってないみたいだったし。
だが、目覚めた以上はこれからこっちの世界にも深く関わることになるだろう。
そうすれば、次に会った時には今日よりずっと強くなっているかもしれない。
今日の戦闘では自分自身もほぼ無傷で勝てたが、この次はこうはいかないだろう。
だが、俺は負けるわけにはいかない。
プレシアとの約束を、フェイトの邪魔は誰にもさせない。
その為にも、俺はもっと強くならないといけない。
「・・・・・・お、れ・・・は」
戦闘の疲れが出たのか、昨日一睡もしていないことも重なり、
段々と意識が遠のき、アスランは目を瞑る。
そして意識は深い闇へと落ちていく。

翌朝。
「それじゃ、結界を張るね」
「お願い」
ユーノの足元に魔方陣が展開する。
そして広がる空間。目に見えない空間だが、魔力の素質を持つ者は感じることの出来る空間。
その空間はある程度の広さまで広がると、膨張を停止する。
「レイジングハート」
『Yes、My Master』
「ストライク」
『OK、Mastar』
「「セッート、アーップ!!」」
言葉と共に輝く赤き宝玉と白き結晶。
その輝きがそれぞれの主を包み込み、光がはじけると、それぞれのバリアジャケットが装着される。
「それじゃ今日からキラさんも特訓に参加するんだけど、その前にストライクの事を教えてもらいたいんだ」
「ストライクの事を?」
「はい。僕は多少魔法の知識はあってもそのデバイス、『ストライク』を良く知らないので・・・」
「あ、私も知りたい!」
なのはがユーノの言葉に便乗する。
「ストライクに関しての知識は契約の時に全て頭に流れ込んできたから説明くらいなら出来るけど・・・」
「昨日、赤いジャケットと緑のジャケットがありましたよね。それの説明をお願いしてもらっていいですか?」
「そうだね。それじゃ、ストライク、エールジャケット!」
『OK、Change、エールジャケット』
上半身が輝き、白い服の上から赤いジャケットのような服が発現する。
「えと、これが『エールジャケット』。主に高速移動や空での戦いに向いている、かな」
「一番最初に着てた服だよね」
「うん」
「装備はこのライフルと、盾と、」
右手のライフルを腰にマウントし、肩の白い筒を引き抜き、筒の先から桜色の魔力がサーベル状に発現する。
「このサーベルが二本かな」
同じ筒が左肩にも装着しているのを指で指摘する。
「次は・・・ストライク、ランチャージャケット!」
『OK、Change、ランチャージャケット』
赤いジャケットが光り、緑色のジャケットへと変化する。
そして左の肩から見える大きな大砲のようなものはキラの足元近くまで伸びていた。
「武器は二つ、一つは」
カシャッと右肩のショルダーガードの部分の正面パネルが開き、
バシュッ!!といくつかの魔力弾が発射される。
何もない空へと向かっていく弾は、結界内でかき消されてしまう。
「この拡散型のタイプと、」
左手を上げ、左背面にある大砲を正面へと向け、両手で支える。
「この長距離型バスター『アグニ』の二つだね」
「これも昨日着てた服だよね」
「うん、地面に落とされた時、何とか封印を阻止しようとしてこのジャケットに換装したんだ」

昨日の回想:キラ視点
アスランの蹴りが腹部に入る。
みぞおちを狙ってくるあたり、さすがはアスランといった所だろう。
言葉にならないくらい痛い。
だけど痛いよりも食らった反動で地面に落ちていって激突したら、不味いことになりかねない。
何とか体勢を立て直そうとするが、落下するスピードの方が早い。
直撃は避けたい。そう思ってシールドを掲げようとしたら
「キラさんっ!!」
誰かが僕の名前を呼ぶ。
そして地面と激突すると思ったその瞬間。
僕と地面の間に魔法の壁のようなものが発生し、それが衝撃を和らげてくれた。
それのおかげで地面に安全に着地できた。
「ありがと・・・」
助けてくれた誰かにお礼を言おうとし、先程名前を呼んだ発生元へと首を向け言葉を発しようとしたが、
途中で止まってしまった。
普通なら、視線の先には誰かがいる。
そう思ったのだが、そこには誰もいなかった。
否。正確には、人間の"カタチ"をした者はいなかった。
代わりにそこにいたのは一匹の小動物。
巡る思考、そして一つの結論が弾き出される。
「大丈夫ですか!?」
脳内で弾き出した答えを否定しようとした瞬間に、目の前の小動物は堂々と言葉を発した。
そう、キラの答えは間違ってはいなかった。

助けてくれたのは目の前のフェレット、『ユーノ』であるという事。

自分に今話しかけているのは、高町家のペットの、『ユーノ』であるという事実。

「キラさん?」
再び話しかけれてようやく目の前の現実を理解し、受け止める。
「えと・・・君が助けてくれたの?」
自分的に何をフェレットに話しかけているのかと思うのだが、実際目の前のフェレットは自分に話しかけているのだ。
「あ、はい。衝撃を和らげる為に、浮遊の魔法陣を使ったんです」
そしてその言葉で追加される項目。

自分を助けてくれた『ユーノ』が魔法を使えるという真実。

普通だったらあまりの事についていけないんだろうが、
実際自分自身が今魔法を使っているのだから何ともいえない現状である。
「えと・・・助けてくれて、ありがとう」
「あ、いえ。僕にはコレぐらいしか出来ませんから・・・」
上空に響く、魔力のぶつかる音。
それに反応して見上げる二人。
見るとアスランの銃撃をバリアで防御し、防戦一方のなのは。
そして首を少し動かして見ると、金髪の女の子がジュエルシードの前にいた。
女の子は持っている黒い斧を掲げる。

「まさか、封印を!」
ユーノが驚きながら声を出す。
封印とは先程なのはちゃんがしようとしていたことだろう。(アスランに邪魔されたけど)
「封印されたら、もう手が出せない!」
「えっ!?」
なら何とか封印を阻止しないと。
だが、ここからじゃ距離が遠すぎてライフルが届かない。
もっと遠くまで飛ばせる長距離砲か何か・・・
『マスター』
不意に響く機械的な声。
『ランチャージャケットを使用してください』
ランチャージャケット・・・・・・そうか!!
「うん、そうだね!ストライク!ランチャージャケット!!」
『OK、Change、ランチャージャケット』
それまで着ていた赤いジャケットが緑色へと変化する。
「これなら・・・っ」
左手に背後の大型のバスター『アグニ』を上空に構える。
「あそこまでいける?」
視線の先には、金髪の女の子。
『No Problem』
「よし・・・」
狙いを定め・・・威嚇するように・・・・・・。
「ストライク!」
『アグニ、バースト』
そして、一発の閃光が空へと駆け上る。

「でも結局ジュエルシードは奪われちゃったね・・・」
昨日の失敗を悔やむキラ。
「でも、今度はそうならないように頑張ろう!」
それを励ますなのは。
「それで、ストライクの換装はその二つですか?」
「いや、もう一つあるんだ」
「もう一つ?」
なのはの記憶にあるのは赤いエールと緑のランチャーのみなのだが、まだあるという。
「うん、ストライク!ソードジャケット!!」
『OK、Change、ソードジャケット』
先程と同じようにジャケットが輝き、変化していく。
そして光が消えて、現れたのは水色に近い、青のジャケットだった。
左手には小型のシールドと左肩に角のようなものがあり、
先程と違って今度は右肩にジャケットと同じ色の大剣が背負われていた。
「このソードジャケットは接近戦用かな。武装は」
左手を上げて、肩の角を持ち、引き抜く。
引き抜かれた角の先から短めの魔力刃が形成される。
「このブーメラン『マイダスメッサー』と」
左手を前に出し、空へと固定する。
バシュッ!!という音と共にシールドから灰色のクローのようなものが発射される。
「ロケットアンカー『パンツァーアイゼン』」
そしてある程度の長さまで行くと、左手のシールドへと収納される。
「そして・・・」
右手を上げ、肩の背面に装着してある大剣を持ち、前に振り下ろす。
振り下ろされた剣の刃の部分に赤い魔力刃が発現する。
「これが、『シュベルトゲベール』この三つかな」
「『エール』、『ソード』、『ランチャー』・・・・・・」
ユーノは驚きの色を隠せないでいた。
レイジングハートも通常のデバイスと違ってハイスペックなデバイスであることには変わりないのだが、
それでもやはり中・長距離型のデバイスで、接近戦には不向きである。
だが、このデバイス『ストライク』はそれぞれのジャケットでそれぞれの状況下での対応を可能にした、
まさしくオールレンジタイプのオールラウンダー型デバイスなのだ。
「とりあえずこの三つ、かな」
「ふぇ~」
なのはもストライクの詳細を知って驚きの表情を浮かべていた。
「・・・ストライクの事はわかりました。とりあえずそれぞれのジャケットの長所を伸ばすようにしていきましょう」

こうして、キラの特訓が始まった。

それからの日々は、
朝はなのはとユーノとの魔法の特訓。
昼は翠屋での仕事。
夜はなのはとユーノとジュエルシード探し&特訓。
というハードな生活を送っていた。
だが、それでもキラは挫けることなく全てをこなしていた。

そして一週間後。
「温泉・・・ですか?」
翠屋の閉店作業をしていたキラは、いきなり士郎から告げられる。
「ああ、明日は他のみんなにまかせてみんなで温泉に行こうかと思っているんだが・・・キラ君はどうする?」
「僕ですか?」
「ああ、キラ君も一緒にどうかと思ってね」
「いや、でもそんな・・・これ以上迷惑をかける訳には・・・」
ただでさえ、どこの誰かも知れない自分を助けてくれて、食事や寝床、仕事までくれている。
それだけでキラは十分に恩義を感じていた。
それに温泉というのは行った事は無いが、そこそこのお金がかかるはずだ。
「金銭面に関しては気にしないでくれ。第一、君にはうちで働いてもらっているんだ」
「・・・それでも、僕はやっぱり遠慮しておきます」
「・・・そうか、わかった。君がそこまで言うなら強制はしないよ」
「すみません・・・」
士郎の気持ちは、嬉しかった。
こんな自分を家族のように接してくれる高町家の人たちの思いは、とても嬉しかった。
だから、これ以上迷惑をかけたくはなかった。
いつか恩返しをする為にも、自分がここで甘えるわけにはいかない。
そう思い、キラは行く事を遠慮した。
「それじゃ、キラ君」
「はい」
「留守の間、翠屋をお願いするよ」
「・・・わかりました」

翌日、高町家+αのみんなを見送るキラ。
「キラ君、本当に一緒に行かないの?」
「うん・・・ごめんね。その代わりなのはちゃん達はゆっくりと楽しんできて」
「でも・・・」
(こっちでジュエルシードが出たら僕がどうにかするから)
念話で伝えるキラ。
(うん、わかった・・・でも無理しないでね)
(何かあったらすぐに連絡下さい)
ユーノも念話に加わってくる。
(うん、大丈夫。だからゆっくり楽しんできておいで)
ニコッと微笑むキラ。
「いってらっしゃい」
「行って来ます!」
「キュッ」
全員が車に乗り込み、それが見えなくなるまで見送る。
「・・・よし、今日も頑張ろう」
そしてキラは高町家を後にして翠屋へと向かう。

「温泉?」
「そう。あんたも一緒にどうだい?」
「・・・いや、遠慮しておくよ。行くなら二人で行って来るといい」
「どうしてですか?」
フェイトが疑問をぶつける。
「もしこっちでジュエルシードが出現したら、みんな温泉に行ってるとすぐに対処できなくなるだろう。
 この間だってうまくあの子の封印を邪魔できたからよかったものの・・・」
そういい、アスランは椅子から立ち上がる。
「だから、こっちでジュエルシードが出現したら俺が封印しておくから。二人はゆっくりしてくるといい。」
ポンとフェイトの頭に手を置き、なでなでする。
「な?」
「・・・はい」

「ありがとうございました~」
本日最後の客が帰っていく。
なんとか大きな失敗もなく、一日を過ごせた事に心をほっとさせるキラ。
「それじゃキラ君、後はお願いしていいかな?」
「あ、はい。お疲れ様でした~」
士郎から翠屋の鍵を預かっているキラは自動的に最後まで残ることになる。
とはいっても、ほとんど残務処理とかは他の店員さん達がやってくれるので、
自分がすることと言えば、清掃と戸締りと金庫の確認ぐらいである。
そして従業員が全て帰り、自分のみになる。
「これで掃除完了っと・・・後は売り上げを金庫に閉まって・・・」
コンコン。
「ん?」
不意にノックされるドア。
もうすでに閉店時間は過ぎているというのに、一体誰が・・・?
おそるおそるドアに近づくと、そこに一人の人影が見えた。
とりあえずもう閉店なので、しかたないから今日はお引取り願うとしようと思い、ドアを開けた。
そしてドアを開けると、そこにいたのは一人の少年。
年は自分と同じかちょっと低いくらいの青年だろうか。
「すみません、もう閉店時間なので明日また来店して頂けないでしょうか?」
「そう、ですか・・・ああ、すみません。最後にここのケーキをもう一度食べたかったんですが・・・」
「最後?」
少年のその一言が気になって聞き返すキラ。
「ああいや、実は僕、明日にはこの国から離れることになったんです。それで次に帰ってくるのがいつかもわからないので、
 離れる前にもう一度食べたかったなと思ったんですが・・・無理言ってすみませんでした」
少年の気持ちを感じ取ったキラは、「ちょっと待っててください」と言って中へと入っていく。
そして厨房の冷蔵庫の中を確認し、戻ってくる。
「ここじゃなんですから、どうぞ中へ」
突然のキラの申し出に驚く少年。
「えっ?でも・・・」
「大丈夫です、もう僕しかいないので」
「いいんですか?」
「はい」
キラはきっと高町家の人たちならこうするだろうなと思い、青年を中へと招き入れる。

アスランは夜の街を歩いていた。
その理由は、夕食を作ろうとして冷蔵庫に何かないものかと思って空けてみるとほとんど何もなかったので、
食料を買いに行く事にした。幸い、お金に関してはいくつかの手持ちはあるんで困る事はない。
歩いて5分程進むと、コンビニエンスストアが見えてくる。
「ここでいいか」
ドアの前に立つと自動でドアが開き、中へと入っていく。
即座に目に付いたのは、ポツンとおいてある最後の鮭おにぎり。
それを手に取ろうと手を伸ばしたら、
コツン。
横から出てきた見知らぬもう一つの手に当たった。
視線は自動的にその手の主の顔へと行く。見ると、自分と同じくらいの少年であった。
「あ、ごめん」
「あ、いやこっちこそ」
パッと手を離す両者。そしてその場に残る一つの鮭おにぎり。
「・・・やっぱりあんたもそれを?」
「・・・そういう君もか?」
訪れる沈黙。
気まずい空気が辺りを支配する。

「「ど、どうぞ」」

二人の声が見事にハモった。そしてさらに深まる沈黙。
すると、ウィーンと自動ドアが開き入ってくる人物。
カツカツと二人の前に立ち、おにぎりを手に取る。
「「あ」」
そしてレジへと行き、会計を済ませてスタスタと出て行った。
「「・・・・・・・・・」」
唖然としたまま二人はそこに立ち尽くしていた。

「どうぞ」
コトとテーブルの上に置かれるケーキと紅茶。
「ありがとうございます」
中へ少年を招いたキラはカウンターへと案内し、ご注文のケーキを出してくる。
「えと、この紅茶は・・・?」
頼んでいないはずの紅茶が出てきて、聞き返す青年。
「その紅茶とセットが一番人気なんですよ、あ、お代は気にしないで下さい」
「すみません・・・ありがとうございます」
カチャと紅茶の入ったティーカップを持ち、口をつける少年。
「おいしい・・・!」
「本当だったらもっとうまく淹れられたらいいんですけど・・・」
「いや、これでも十分おいしいですよ」
「そういってもらえてありがとうございます」
紅茶の淹れ方とかは一通り教えてもらってはいた。
そして少年はケーキへと手を伸ばし、小さく分けて口へと運ぶ。
「・・・やっぱり、ここのケーキはおいしい」
とても穏やかな顔でとても嬉しそうに食する少年を見て、キラはよかったと思った。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「はい?」
「いつここのケーキを?」
「えと・・・つい半年ほど前だったんですけど、実は僕、記憶喪失なんです」
「え?」
「半年程前に、僕この町の公園で倒れてたらしいんです。しかもボロボロの状態で」
キラは思わず言葉に詰まった。
まるで自分がついこの間置かれていた状況と瓜二つなのだから。
「その時僕を助けてくれたのが孤児院の院長さんで、僕を拾ってくれたんです。
 そして半年程お世話になって、そしてひょんなことから僕がピアノを弾くと、
 「君には才能がある」といって僕を知り合いのピアノの先生の所へ留学して頂けることになったんです」
「・・・・・・」
「拾ってもらった後、怪我が治ったお祝いにと、ここに連れて来て貰ったんです。
 ここのケーキがとてもおいしいんだ。といって僕にケーキを食べさせてくれたんです」
「そうだったんですか・・・」
「はい。それで、留学が明日に出発なので、最後にここのケーキをもう一度だけ食べたいと思ってきたのですが、
 あなたに会えてよかったです。本当にありがとうございます」
少年はそういって深々と頭を下げる。
「あ、いや、そんな・・・」
「そういえば、あなたはここの店長さんですか?」
「あ、いや僕は違うんです。ここの店長さん達が家族で旅行に行ってて、代理で任されたんです。」
「そうだったんですか」
「はい。あの・・・ちなみに記憶の方はまだ・・・?」
「・・・はい」
少年が頷き、俯く。
「何も覚えていないんですか?」
「はっきりと覚えているのは、自分の名前だけで、後は・・・うっすらとですが、ある人の事なら」
「ある人?」
「はい」

アスランは結局食料を買い損ねてしまい、仕方なくコンビニを立ち去ろうとしたら、
先程手がぶつかった少年が話しかけてきた。
「さっきは悪かったな。俺のせいであんたのおにぎりが持ってかれちまってさ」
「気にするな。それにあれは俺のと決まっていないしな。そっちこそすまなかったな。俺のせいで」
「あ、それもそうか。・・・まぁ、お互い様ってことで。それはそうと、あんたこれからどうするんだ?」
食料を買いそびれ、また違う店を探すしかないと思っていたので、それを口にする。
「だったらさっきの侘びもかねて飲み物くらいは奢るぜ」
断る理由も特にないので、ご馳走になるアスラン。
公園のベンチに二人で腰を落ち着け、飲み物を啜っている。
「しかし、よかったのか?」
「何が?」
「コレを奢ってくれたことだ」
そういって手に握っている缶を揺らす。
「ああ、それくらい気にするな」
そういって屈託のない笑顔で返す青年。
「そうか、わかった」
せっかくの少年の好意を無駄にはできないと思い、素直に受け取っておくアスラン。
「・・・・・・似てる」
ふと少年が漏らした言葉に?な表情で見るアスラン。
「ああ、いや気にしないでくれ。俺の知り合いだと思う奴に似てるって思っただけだから」
「だと、思う?」
その部分がとても文章的におかしかったことが気になり、聞き返す。
「・・・実は俺、記憶喪失なんだ」
「えっ?」
「数ヶ月前、この街で俺ひどい怪我してた所を助けられたんだけど・・・それ以前の記憶が全然無いんだ」
「・・・・・・」
「今は孤児院に世話になってるんだけどさ、あんまし迷惑かけたくなくて・・・どっかに働こうかと思ってるんだ。
 でも、俺まだ16歳だからさ、ほとんどどこも雇ってくれなくて・・・」
自分と同じ年の人間なのに、その少年の気持ちがよくわかったアスラン。
自分も同じように、誰かを護りたくてザフトに入ったから。
「・・・えらいな、君は」
自分の事を言っているわけではないのだが、素直な感想を口にした。
「んなことねーって・・・それで覚えてるのが、自分の名前と・・・友達・・・だと思う奴の事。
 記憶が曖昧だからよく覚えてないんだけどさ、そいつは・・・いつも笑ってて、人から頼まれた事を断れない、断らない奴で、
 誰かの為に、いつも頑張ってる奴でさ・・・俺、そいつと一緒に遊んだり、勉強したりした記憶が断片的に残っているんだ」
「・・・・・・」
少年の話を聞いて、アスランは思い出していた。
そういえば、あいつもそうだったな・・・と、今この夜空のどこかにいるはずの元親友の事を・・・。
「変だよな、でも俺、そいつの名前すら思い出せないんだぜ・・・」

「・・・いつか思い出すさ」

「えっ?」
「それは君の大事な思い出で、その人は君にとって大事な友達なんだと俺は思う。だから、消えないんだ。
 断片的でも残っているなら、そこから何かを思い出す可能性はゼロじゃない」
「・・・・・・」

「だから、諦めるな」

少年はアスランの言葉を受けて、何かを考えるように目を瞑る。そして目を空けて、夜空を見上げる。
「・・・そうだな」
「すまない・・・確証もないのに、曖昧なことばかり言って」
「おいおい、そこであんたが謝ったらダメだろ~」
バシバシと笑いながらアスランの背中を叩く少年。
ちょうど飲み物を飲んでいる時に食らったので、ゴホゴホと咳き込むアスラン。
「あ、悪い、ちょい力入れすぎたか?」
「・・・気にするな。痛くはないから」
「そっか」

「真面目なんですけど、どこか抜けていて、しっかりしているようで、実は優柔不断な所もあって、でも優しい人でした」
「・・・・・・」
「僕、いつも迷惑ばかりかけていた記憶があるんです」
少年の言葉に思い出すのは、自分の親友、アスラン・ザラの事。
キラも幼少の頃はよくアスランに助けてもらったことを思い出す。
「でも僕、その人の名前も覚えてないんです・・・」
そういって俯く少年。
「でも、その人の事を覚えてるってことはその人に会えたらもしかしたら記憶が戻るかもしれませんよ?」
「・・・そうですね・・・でも、それは少し・・・怖いんです」
「怖い?」
少年の言葉に疑問を浮かべるキラ。
「記憶が無くなる前の自分がどんな人だったのか・・・どこで何をしていたのか・・・
 それを思い出すと、今の僕が消えてしまうんじゃないかって・・・そう思ってしまうんです」
見ると、少年の手がかすかにだが震えていた。
記憶の無い不安。それを抱えたことのないキラには少年の痛みがわからない。だけど、
「・・・その人と一緒にいる時の君はどんな風なんですか?」
「え?・・・それは・・・・・・」
考え、記憶を探る少年。
「僕は・・・その人と・・・」
そして導き出される答え。

「笑っています・・・」

少年の瞳から自然と涙がこぼれていた。
「・・・だったら、記憶が戻っても」

「きっと、笑い会えることができると思います」

「・・・・・・そう、ですね」
ポケットからハンカチを出して涙をぬぐう少年。
見ると、少年の手の震えはいつの間にか止まっていた。

「さてと、それじゃ俺はそろそろ帰るとするわ」
少年がベンチから立ち上がり、ん~。と背筋を伸ばす。
「あんたはどうする?」
「・・・俺も今日は帰るとするよ」
食料を買う事はできなかったが、この少年と過ごせた時間は悪くなかった。
「そうかい」
「すまなかったな、それとごちそうさま」
「どういたしまして」
ヒュッと空き缶をカゴへと投げるアスラン。それは弧を描くように真っ直ぐカゴの中心へと入っていく。
「うまいな」
「偶然だ」
「・・・あんたにも、大事な友達っているのかい?」
「・・・ああ」
「だったら、大切にしろよ」
「・・・そう、だな」
今はこの世界でも敵どおしな親友。
「何だよ、歯切れが悪いな。ケンカでもしてんのか?」
「・・・まあ、そんなところだ」
「ふぅん、ま、いいんじゃないの?『ケンカするほど仲がいい』って言うし」
「・・・それとはまた少し違う気もするが」
「ケンカできるってことは、そいつと本音で、本気でぶつかれるってことだろ?お互い譲れないものもあるだろうしさ。でも」
「?」
「あんたが友達の事を大事だって思ってんなら、仲直りだって簡単だと思う」
「・・・・・・」
「仲直りするキッカケがあれば、意外と簡単だと思うぜ」
「・・・・・・」
「だから、あんたも頑張れ」
ポンと肩を叩く少年。
「あ、そうだ」
「?」
「最後に、あんたの名前、教えてくれない?」

「・・・俺はアスラン、アスラン・ザラだ」

「俺はトール、トール・ケーニヒ」

「そっか、覚えたぜアスラン。じゃ、またな」
「ああ、またな。トール」
そしてトールは明かりの無い道の向こうへと消えていった。
(・・・仲直りか・・・)
アスランの心は、揺れていた。
(・・・そうだ、俺は別にキラを殺したいわけじゃない・・・)
ベンチから立ち上がるアスラン。上を見上げる。
(だが、お前が俺の邪魔をするのなら・・・俺はお前を止めてみせる・・・)

そして本日最後のお客の食事が済むと、お会計を済まし、キラも翠屋を後にした。
途中までの道を一緒に歩く二人。
「・・・僕、この国に必ず戻ってきます。そしたら、また翠屋に来ようと思います」
「今度はマスター達もきっと喜んでくれると思います」
「はい・・・今日は本当にありがとうございました」
深くお礼する少年。
「僕にも・・・君の記憶の中の人とよく似ている人がいるんです」
「そうなんですか?」
「はい、でも・・・今ちょっと仲違いしちゃってて・・・なんとか話をしたいと思っているんですけど・・・」
「諦めなければ、いつか必ず伝わりますよ」
「え?」
「だって、あなたがその人の事を大事な友達だと思っているのであれば、その人に伝わるまで、
 何度でもぶつかり合うぐらい本気じゃないと、相手には伝わらない」
「・・・・・・」
「中途半端な気持ちじゃなくて、全力で向き合える。それが友達だと思います」
「・・・うん、そうだね。僕もそう思う」
「だから、本気でぶつかってください」
中途半端ではなく、全力で自分の気持ちをぶつける・・・。
今までの自分に足りなかったのは、アスランと本気でぶつかり合うっていう覚悟と気持ちだったのだろうか?
(・・・今度は、全力でぶつかろう。僕の本気で)

そして別れの時。
「あ、僕こっちなんで・・・」
「そうなんですか・・・」
「最後に」
「?」
「名前を、教えて頂けますか?」
「・・・僕の、ですか?」
「はい」
それは、この世界でキラのたった一つの、唯一の意味を持つ言葉。

「僕はキラ、キラ・ヤマトです」

そして、記憶のない少年のたった一つの、唯一覚えている記憶。

「僕はニコル、ニコル・アマルフィです」

そしてどちらからかともなく、手を握り合い、握手する。
「また、どこかで」
「お会い、できるといいですね」
そしてお互いの手を離し、
「それじゃ、さよなら」
「さよなら」

お互い振り返ることもなく、それぞれの道を歩いていく。

いつか、二人の道が交差することを、願って・・・・・・。
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