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第18話「…そっか、俺、まだオーブが好きだったんだ…」

シンがステラだと思って声を掛けたのは、自分が憎んでいた人間の1人であるカガリ・ユラ・アスハであった。

カガリが、ディオキアの海岸にいる理由は一言で言えば気晴らしである。
キラに拉致されてからは、クライン派が用意した潜伏先を転々としていたのだが、何を言ってもキラ・ヤマトやラクス・クラインらは、聞き入れないか、
逆に彼らに言いくるめられてしまうばかりで、カガリが体調を崩してしまったため、マリューの勧めもあって、街の空気を吸わせようとキラ達が連れてきたのがディオキアの街であったのだ。

「どうした、あんたがここにいるんだ!?」

シンが既に半ギレ状態でカガリに言い放つ。
彼にしてみれば、ステラに会えたと思って舞い上がっていたのに、声を掛けてみればそれが憎っくきカガリであったとなれば、それはいわば天国から地獄にまっ逆さまである。

「それは…」
「それは何だよ!」
「…聞きたいのなら答える。だが、ここはまずい。向こうに人通りの少ないところがあるからそっちに行こう」

カガリにとっては賭けであった。
シンはザフトの軍人だし、上手くすればザフトに保護してもらえるかもしれない。
今のまま、各地を隠れながら移動しているよりは遥かにマシである。
それに、このままここにいても、間もなくキラは戻ってきて、再び各地を転々とするだけであろうことはわかる。
そしてキラがラクスの許可なしにカガリを解放するとはとてもじゃないが思えない。
だからカガリは現状をとにかく打破しようと考えたのである。

他方、シンにしてみれば、未だ驚きのあまり現在自分が直面している状況を把握しきれていなかったが、どうしてカガリがここにいたのかに少し興味があった。
それに、ガロードがカガリを探していることも聞いていたし、ユウナから聞かされた、連合との同盟締結拒否についてカガリがどう考えているのかに少し興味があった。
もっとも、自分に奇麗事がお家芸と罵られた夢想家が今、何を考えているのか、
それだけでも聞いてみたいというのが正直なところかもしれないが。

人気のない岩場まで移動すると、カガリはおもむろに振り向いて口を開いた。

「私をザフトのところに連れて行ってくれ」
「ど、どういうことだよ、そりゃ?」
「私はオーブに戻らなければならない。だが、今のままではいつ戻れるかわからないんだ。
 頼む、オーブは今、とても大事な時なんだ。代表である私が今こんなところにいるわけにはいかない」

シンにとっては衝撃的な台詞であった。
一体、何を言い出すかと思えばザフトのところへ連れて行けというし、少なくともフリーダムの仲間だと聞かされていたカガリから、国に戻るという言葉が出てくるとは思えなかった。

「オーブに戻ってどうするんだよ、アスハ?戻って何をするつもりだ?」
「国をまとめ上げて今後の動向に備える。
 代表不在ではオーブという国の信用もなくなってしまうし、国も混乱してしまう。  そして、オーブの理念を守り通す」
「・・・そうやって国をまた焼くのか?」

シンにとっては半分嫌がらせの質問であった。
ユウナやガロードの話を聞く限りでは、カガリを含め、オーブではダブルエックスという力を以ってそれなりの根拠を持った理念の堅持を図っていくことが決まっているらしいので、この質問にあまり意味がないのはわかっていたからである。

「私の力ではないが、今、オーブにはとても強い力を貸してくれる人達がいる。
 そして彼らはその力をどう使うべきかをとてもよく知っている。
 無責任な言い方かもしれないが、彼らが力を貸してくれる限り、オーブが焼かれることはないさ。
 それにもし、彼らが力を貸してくれなくなったら…国を焼かないような選択をするよ。
 言われたよ、国は私の玩具じゃない、国にはそこに暮らす人達がいる、って。
 もっとも、お前には2枚舌って言われるかもしれないけどな…」
「ダブルエックスか…」
「そうだ」
「ユウナ・ロマの言ってたことは本当だったんだな」

シンにとってはカガリの言葉が嬉しかった。
憎くて憎くて仕方がない相手だし、
自分ではどうして嬉しいという感情を抱いているのかを上手く説明はできなかったが、それでも嬉しかった。
そして、カガリがミネルバに乗り込んできたときとは別人に思えた。
これはひとえにカガリやユウナがガロード達と関わり合いをもったからであるのだが、目の前にいるのは根拠のない奇麗事を国民に押し付けるエゴイストではないのだということはわかった。

(…そっか、俺、まだオーブが好きだったんだ…)

シンは1つのことを理解した。
自分がオーブを憎んでいたのは、ウズミ・ナラ・アスハのエゴで家族が死んだからだ。
だが、ユウナ・ロマや今、目の前にいるカガリは、かつてのオーブの選択を間違っていたと認識した上で、国を焼くことなく理念を守るという選択をしている。
アスハであるカガリを容易く信じることはできないが、1つの可能性が行き着いた結果である崩壊した世界を見せたガロードや、それを知った上で世界をそのように崩壊させまいと決意したユウナ・ロマを信用してもいいのかもしれない、シンにはそう思えたのだった。

「…追いて来いよ、ガロードがこの街に来てる。それにユウナ・ロマ・セイランもな」
「本当か!?頼む、急いでくれ」

そういってシンが基地の方へ歩いていこうとした瞬間であった。

「どこに行ってたんだカガリ!探したじゃないか」

彼の前に、最も憎むべき人物、アスハなど比較にならないほどの憎悪を向けた人物が現れる。

「キラ!?」
「それに君は…慰霊碑の…」
「あんた…それにキラって…そうか、お前がキラ・ヤマトか…ふふふ、ふははははは、はーっはっは!」
「ど、どうしたんだ、シン!?」
「お前がキラ・ヤマト、フリーダムのパイロットだったとは思わなかったぜ…
 どんな面してるのかと思えば、そんな面してやがったとはな」

カガリの思わぬ態度に1つの憎しみが解け始めていたシンであったが、
そのことは今のシンの中ではまったく考慮外のこととなっていた。
カガリに抱いていた憎しみとは異なる、シン・アスカという人間の現在の人格を形成した最大の原因を作った、
自分が世界中で誰よりも憎悪を向けている人物が目の前にいる。
シンは、今、目の前にいる家族の仇に出会えたことにとても感謝していた。
これがハウメアとやらの導きかと思ったくらいである。

笑い狂うシンに警戒感を抱いたキラは、そこからカガリを引き離すべくカガリの下へ近づいてくる。
そして、キラがシンの「間合い」に入り込んだ瞬間、シンはキラに飛びかかった。

シンの放った飛び蹴りに、その驚異的な瞬発力でガードすることで対応したキラであったが、続いて放たれた左ストレートがキラの右頬をかすめる。
キラはとっさにその腕を掴むが、今度はそのままシンがキラの顔面にヘッドバッドを喰らわせる。
続いて右腕が空いているシンのボディブローがまともに入る。
この腹部へのダメージで、シンの腕を掴んだ力が抜けると、咳き込んでいるキラの顔面に左ストレートが綺麗に炸裂し、そのままキラは吹き飛ばされる。
その後もシンは黙ったまま、キラを殴りつけ続ける。
なりゆきで連合の軍人となり戦場に出たため、きちんとした格闘技の訓練を受けたことがないキラに対し、シンはザフトのアカデミーで軍隊格闘技を学び、そのアカデミーの中でも特に優秀とされる者に贈られる赤を着る者である。
いくらキラが大変優れた能力を与えられたコーディネーターであったとしても、
MSの操縦技術では明らかにシンの上を行っていたとしても、訓練なしに訓練を積んだ人間に生身で勝つことはできない。

「や、やめろシン!」

事情を知らないカガリはシンを止めようとするが、当然、シンがそれを聞き入れることはない。

シンの頭の中では、目の前にいるこの人間を殺すことだけしか考えられなかった。
少なくとも、今自分が殴り続けている相手は国際指名手配されている、
賞金まで懸かった生死問わずの犯罪者だ、このまま殺しても大した問題じゃない。
殴れば殴るほど、キラ・ヤマトの顔から血が出てくる。その顔が苦痛に満ちてくる。

「苦しいか!痛いか!キラ・ヤマト!?お前が殺した人達はもっと痛い思いをしたんだぞ?
 父さんは父さんじゃなかったし、母さんは腹から出た血の池にいた。マユの腕はもぎ取れてた!
 わかるか!全部、お前の仕業だ、お前が殺したんだよ!助っ人気取りのお前が!」

シンはなおも殴り続けながら、思い出したくなかった家族の死んだ時の様子を怒鳴りながら語る。
だが、対するキラとしてはそのようなことを覚えているわけもなくどうして自分がこんな目に遭っているのかが当然理解できない。

「な、何なの?それじゃわから…!」
シンは必死に口を開いたキラの首を右腕で力の限り締め付ける。
いつの間にか、シンの瞳からは涙がこぼれ落ち始めていた。
それを見たキラは声にならない声を発するが、それはシンの神経を逆撫でするものでしかない。

「そうだよな、お前にわかるはずがないよな…じゃあ死んでマユ達に謝ってから地獄に落ちろおおおおお!」

シンが、懐に仕込んでいるナイフを取り出して振りかぶる。そしてその刃をキラに突き立てようとしたそのときであった。
銃声が轟き、シンの手からナイフが弾き飛ばされた。
過剰なまでの興奮状態シンはどうしてナイフが弾き飛ばされたか瞬間的には理解できず、カガリはひとまずキラが殺されることがなくなったと思い安堵し、キラはとりあえず助かったことを知る。
そしてシン、カガリ、キラが視線を向けた先には、息を切らせながら、煙を上げる拳銃を握っているアスランがいた。

ハイネを見舞った帰り、街の中でキラと思しき姿を見つけてもしやと思い、人込みを掻き分けて追って来たら、
そこでは正にシンがキラに刃を振り下ろそうとしていたのである。

「大丈夫か!?キラ、カガリ!?」
「アスラン!」
「あ、ありがとうアスラン…」

キラとカガリからは、キラが助かったこと、想い人に久しぶりに出会えた喜びの籠った声が発せられる。
アスランも、自分にとって最悪の事態が生じることは避けられたことが幸いであった。
これがアスランが率直に抱いた感想である。
彼にとっては、キラ・ヤマトやカガリ・ユラ・アスハは無二の親友と世界で最も愛する女という、かけがえのない大切な存在であり、アスランがこのような感想を抱くこと自体はやむを得ないものがあるだろう。
そして、それと同時に、シンへの怒りがアスランの中で燃え上がる。

「お前は何をやってるんだ、シン!?」

だが、対するシンも、ナイフを弾き飛ばされたときは一瞬冷静になったが、
自分の邪魔をしたのがアスランであることを認識すると、さらに別の怒りがこみ上げてきた。
元々、アスランにいい印象は抱いていなかったし、フリーダムに対する態度はシンの怒りを買うのに十分であった。
とはいえ、一応はザフトの軍人であり、形の上では味方だと思っていた。
それが突然、目の前に現れ、家族の仇を守ろうとしたのでは、シンも納得できないどころではすまない。

「それはこっちの台詞だ!一体どういうことだアスラン!」
「それよりもまずキラから離れろ。お前は何をしているのかわかってるのか?」
「オーブの代表を拉致してミネルバを沈めた上、ディオキア基地を襲撃してシャトル強奪を手伝い、ハイネやルナマリアを傷つけ、 俺の家族を殺した、国際指名手配されてる極悪犯罪者を殺そうとしていただけだ!」
「だからと言って今殺す必要はないだろう!」
「確かオーブ政府からはこいつの首に懸賞金が懸かってたよな?
 それにあんたにとやかく言われる筋合はない!」
「じゃあお前はまたそうやって力に溺れてヒーローごっこか!」
「それもこっちの台詞だ!お前が俺に銃口を向けてる理由は、俺がお前の極悪犯罪者のお友達を殺そうとしたからだけだとしか思えないな」

両者の言い分はまったく噛みあうことなくただ対立する。
だが、なおも銃口を向けているアスランにやや気圧される形でシンはキラの下から離れるが、涙の後がまだ残っているその瞳には怒りがなおも宿っている。
キラ、カガリとシンの間に入り、銃口を向けるアスランと、怒りの目をむけるシンのにらみ合いが数分続く。

そしてもう1人のキーマンが現れた。

「おい、アスランもシンも何やってんだよ!」

2人が睨み合う岩場にガロードが現れた。
ガロードは、今朝ティファが書き上げた絵が示す風景の場所を探している最中に、
突然鳴り響いた銃声を聞いて、急いで駆けつけたのである。

「「「ガロード!?」」」
「え、カガリさんもいるのかよ!?」

キラ以外の3人が一斉にガロードに目をやる。
そこにはガロードにとって異常な光景が広がっていた。
なにせ、仲間であるはずのシンとアスランが銃を向けて睨み合い、アスランはなぜかシンに銃口を向け、カガリとどこかで見た覚えのあるような顔の男を守るように立ち塞がっているのである。

ただ、目の前にはカガリがいる。
状況はわからないが、アスランとシンが動けないなら、今動けるのはガロードとカガリだけである。
そうだとすればガロードとしては、自分のすべきことをすべきであると判断した。

「と、とにかくカガリさんは俺と来てくれ、ユウナさんも待ってる…………って訳にはいかないのかな?」

カガリの下へ行こうとしたとき、周囲を取り囲む人間の気配を感じた。
目の前にある異常な状況に、一瞬、平常心を失ってしまったことで、周囲に何人もの気配がすることに気付くのが遅れてしまったのである。

「どうやらそのようね。大丈夫、キラ君、カガリさん?」

岩場の陰から1人の女性が現れる。
豊満な胸と柔らかそうな唇、それでいて、エニル・エルとは異なり、温かみのある目をした女であるとガロードは思った。
アークエンジェルの元艦長、マリュー・ラミアスである。
だが、マリューの後ろには、十数人の男達が全員拳銃を構えてこちらに銃口を向けている。
全員がクライン派のメンバーである。

「ラミアス艦長!どうしてここに?」

その光景に、驚いた表情を浮かべるアスランが口を開く。

「カガリさんの気晴らしになれば、と思ったんだけど、どうやら大変なことになったみたいね」
「…そうですね。でも我々をどうするつもりですか?」
「私達と来てくれるのなら拒まないわ、でもキラ君とカガリさんは連れて行かせてもらうわよ、いいわね、そこのあなたも?」
「よくない、って言っても連れて行くんだろ、美人なお姉さん?」
「ふふ、物分りのいい子で助かるわ」

マリュー達はキラとカガリを確保すると、早々とその場を後にする。
残されたガロードはカガリ救出があと一歩のところで失敗してしまったことを悔やんでいたし、アスランとしては結局、キラ達の真意を聞くことが出来ずじまいであったし、シンに至っては、ガロードが現れてから、一体何がどうしてどうなって、カガリとキラ・ヤマトが撤収したのかがよくわかっていない。
だが、わかっていることは、カガリがユウナの言うとおり、まるで別人のようになっていた、ということ、家族の仇であるキラ・ヤマトを取り逃がしたということ、そしてアスラン・ザラが自分に銃口を向けたということである。

「このことは艦長に報告させてもらいますよ、ザラ隊長」
「勝手にしろ、お前のやったことも報告しておいてやる」

2人は再び睨み合いを始めるが、突然、ガロードがシンの首根っこを掴む。

「とりあえず、シンもアスランも落ち着けよ。いったんアークエンジェルに帰って頭冷やそうぜ?  今ここでいがみあってもどうにもなんねえ」

そう言って、なおもアスランを睨み付けるシンを連れてガロードはその場を後にした。
ガロードとしても2人をこのままにしておく訳にもいかないし、何があったのかを知る必要がある。
また、カガリを奪還する方法をまた考えなくてはならない。
そのためにも今は少しでも冷静になる必要があった。

結局、この一件でシンの憎しみが1つ数を減らしかけたものの、
アークエンジェルの中では新たな火種が生まれることとなってしまった。

デュランダルが、今プラントにいるラクス・クラインが兵の士気を高め、過激な武力行使へ傾きつつあった世論を押さえるための偽者であり、戦後はオーブで非合法の隠居生活を送り、オーブ代表のカガリ拉致を指示し、さらにディオキア基地を襲撃させて、宇宙へ逃亡したのが、本物のラクス・クラインであることを議長声明として発表し、それがアスランにとって新たなアークエンジェルにおける火種となったのはこの時からわずか2日後の、アークエンジェルが出航した日であった。
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