※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

第16話「…割り切れよ、じゃないと、死ぬぜ?」

シンはテーブルに座っていた。
その視線の先にはキッチンにあるオーブンでクッキーが焼き上がるのを待ち焦がれている妹の姿がある。
チーンという音がして、妹がオーブンを開けると香ばしい匂いが漂って来た。
「お兄ちゃん、クッキー焼けたよ」

そう言ってマユは小皿に取ったクッキーを持って来る。
「はい、お兄ちゃん、あーんして」
「え、ちょっと恥ずかしいよ、マユ」
「気にしない気にしない、はいあーん」
「あーん」

目を瞑ったシンの口に巨大なクッキーが押し付けられる。
「マユ~、お兄ちゃんそんな食べられないぞ~」

幸せな気分だ。父がいて、母がいて、そして妹がいる…
こんな日々が毎日続いてくれればいいのに…

「おい、シン起きろ」
「ん~もうちょっと寝かせてくれよマユ」
「いいから起きろ、おいシン!」

ん?あれ、マユ声が変わってないか?

「おい、シン、朝だ、メシ行くぞ」

え、メシ?

シンが目を覚ますと自分の口に枕を突っ込んでいるハイネがいた。
でもどうして自分の枕元にハイネがいるんだろうか。
寝ぼけた頭では状況がよく判断できないが、分かっていることは、あれは夢だったということだ。
「おはようございまふ隊長・・・」
「やっと目ぇ覚ましたな、もう朝だ、ヴェステンフルス隊でメシに行くぞ。さっさと仕度しやがれ」
「え、でもまだ食堂は…」
「いいから早くしろ。まだ次行くところがあるんだ」

シンとレイは昨日付けでアークエンジェル配属となったハイネの下、ヴェステンフルス小隊として編成されることになった。
もっとも編成したのはタリアであったが、誰も異議を唱える者はいなかった。
いや、正確には誰も唱えることはできなかったのであるが。
食事会が終了した5秒後に編成を告げたタリアの目は座っていたとかいなかったとか。

「よし、仕度したな、じゃあレイの部屋に行くぞ」
「え!?あいつの部屋っすか?」
「そうだ、あいつみたいなタイプの寝起きはきっと面白い」
「……寝起きドッキリすか」
「オフコース!」

こうしてハイネとシンはレイが宿泊している部屋へ向かったのだが、
角を曲がった先でちょうど部屋から出てくるレイの姿を見つけてしまう。
どうやらもう既に起きてきてしまっているようであった。
「レイ、おは」

ハイネは、レイの方におはようの挨拶をしようとしたシンの口を手で塞ぎ、
口の前で人差し指を立てて、シッ!という仕草をして小さな声でシンに囁いた。

「おい、今あっちに行くな」
「え、なんでっすか?」
「あの先からルナマリアが来てる」
「ルナが来るとまずいんですか?」
「見てみろ、あの阿修羅のような顔を。ああいった顔をしてる時の女にだけは近づいちゃだめだ。
 理由は分からんが、ありゃ朝から相当ご立腹だ」

シンが角からそっと顔を出してルナマリアの表情を伺う。
その目は釣りあがり、ルナマリアの象徴ともいうべきアホ毛が天をただまっすぐに衝いている。
そしてまるでその体からはどす黒いオーラが滾滾と湧き上がってきているような感じを受ける。
アカデミーの頃からの付き合いであるシンとしては、今のルナマリアが危険なことがよくわかる。

「やばいっすよ、あれ!早くレイを助けないと」
「・・・・・・ダメだ、もう間に合わない。俺達はあいつの分まで生きてやんないとならないんだ」
「でもレイは仲間じゃないですか!」
「…割り切れよ、じゃないと、死ぬぜ?」

結局2人は静かに敬礼をすると、非常階段を使ってこっそりと下へ降りていったのであった。
レイは今日の1日が間違いなく不吉な1日になるであろうと確信していた。
朝、部屋を出た途端に夜叉のような顔をしたルナマリアに捕まった。

聞いてもいないのに不機嫌の原因を延々と話してくる。
ルナマリアは、朝食を一緒に食べようとアスランを誘おうと部屋にいったのであるが、
その部屋から出てきたのはスケスケの服を着たピンク色の物体であった。
そして勝ち誇ったように朝食は自分が一緒に食べに行くから気遣い無用といい、バタンと扉を閉めたのだという。

(カンベンしてくれ…)

レイの心からの願いであった。
なおも続くルナマリアによるラクス・クライン批判。
ルナマリアに捕まってもうどれくらい時間が経っただろうか…
空腹のため思考が鈍く、何かを考えてもグルグル何かが回るだけで、時間はただ過ぎていく。

レイ自身、ルナマリアが怒りを向けているのが、デュランダルが用意した偽者であることを知っている。

偽者なんだからわざわざアスランに抱かれる必要なんてないだろうに余計なことを…
そもそもこんなことになったのも本物が戦後にドロンしたからじゃないか。
そういえば本物がプラントに反旗を翻したのはフリーダム強奪がきっかけだったな。
しかもあのキラ・ヤマトに、だ…それだけでなくその罪をラウに着せおって…
おのれラクス・クライン、キラ・ヤマト…
いや、今はそれは置いておこう。今、大事なのはこの場をいかに切り抜けるか、だ。
考えろ、レイ。何かいいアイディアがあるはずだ、考えろ、考えるんだ…
そしてレイはいいアイディアを思いつく。

「ルナマリア、こんな言葉を聞いたことはあるか?」
「何よ!!!」
「世の中には略奪愛という言葉がある」
「でもそれってよくないんじゃ…」
「そう、人の道に背いているのかもしれない。
 だが、人としての道に背いて人の目を忍んで育む愛こそ、情熱的なものだ。
 背徳感と愛されているという充実感はその愛を激しく燃え上がらせる。わかったらここで腐ってないで行動に移せ」

我ながらよくもこう心にもないことをいけしゃあしゃあと言えたものだ。
レイはそう思いながらスタスタとその場を去っていった。
早々と食事を終えたシンとハイネは、泊まっていたホテルから脱出するようにアークエンジェルへ向かった。
「おうシンにハイネじゃん、随分と早いな」
格納庫にはGXの調整を行なっているガロードが既にいた。

「おはよう、ガロード。お前こそどうしたんだ、こんな早くから」
「GXの調整をな。最近少し調子が悪い気がしたんで、キッドと点検してんだよ」
「朝から精が出るな、ガロード。さすがあのフリーダムに黒星をつけただけはある」
「そんなたいしたこっちゃねーよ。あんたの活躍もウィッツから聞いたぜ、ハイネ」
「ハハハ、炎のMS乗りにお褒め頂けるとは光栄だぜ。じゃあ今から模擬戦に付き合ってくれないか」
「別にいいけどレイはどうしたんだ?ヴェステンフルス隊のフォーメーションをチェックしなくていいのか?」

一瞬、シンとハイネの表情が曇るのだが、ハイネがなんとかそれをごまかしてガロードに答える。
「ああ、多分すぐには来ないと思うぜ。俺もグフを実戦形式で試してみたいしな」
「じゃあよろしく頼むぜ、黄昏のMS乗りさん!」

その日は、地球各地のザフト基地で慰問コンサートを行なっていた
「ラクス・クライン」こと、ミーア・キャンベルがディオキア基地のシャトルでプラントへ戻る日であった。

時計が正午過ぎを指した頃、予定よりも早くマネージャーに連れられてディオキア基地にラクス・クラインが到着した。
基地ではそのファンであるザフト軍人や基地関係者がサインを求めて押し寄せ、軽いパニック状態になっていた。

「まったく凄い人だかりだな、あれの何がいいのかサッパリわからん」
「プラントじゃ歌姫だったらしいからな。お前だって目の前に元芸能人いれば飛びつくだろ」
「しっかし、あの映像見てどうして偽者だと判らんのかねぇ、顔は似てるが胸が完全に別人だろ」
「バカ!声がデカイ!たぶんあれだ、あー成長期に入ったと想定してるんだ、きっと」

人込みから遠く離れたところで、基地にいる女性をウオッチングしている2人の男が半ばあきれたような声で呟いている。
アーノルド・ノイマンとダリダ・ローラハ・チャンドラ2世である。
彼らは、今、ザフトの基地を慰問して回っているラクス・クラインが偽者だと知っている数少ない人間である。
本物が今、どこにいるかは全く知らないが、キラ・ヤマト達といるであろうことは容易に想像できる。
ゆえに、彼らはこれから起きる出来事を全く予想できなかった。
「でもあのサイン、相当高値で売れるらしいぞ。確か整備班のヨウラン・ヴィーノが言ってるのを聞いた」
「お前それを早く言え!今からサイン貰いに行くぞ!」
そう言ってチャンドラがどこからかサイン色紙2枚を取り出した。
「お前、それをどこから出した?」
「…気にするな、レイの奴もそう言ってた」

「はいはーい、皆さん押さないで~な。ラクス・クラインは逃げも隠れもしまへんで~」
怪しげな関西弁と軽妙なノリの男が、サインと握手を求める人々に対応している。
その様子はとても楽しそうなもので、仕事をしている風にはあまり見えない。
そしてその脇で「ラクス・クライン」は驚異的な速度で次々と色紙にサインを書いていく。
彼女の様子もまた、とても楽しそうなものであった。
それを見ている人々には、彼女が群がってサインを求める自分達に嫌な顔1つ見せることなく
ファンの要望に応じる心優しいプラントの歌姫に見えていた。

そして、彼らの番がやって来た。
「ほなお待たせ、あなたのお名前なんでっか?色紙にあなたのお名前も書きまっせ?」
「アーノルド・ノイマンにダリダ・ローラハ・チャンドラ2世です」
「ノイマンにダリダ…チャンドラ?」
マネージャーの男の声が止まる。
同時に、ノイマンとチャンドラも一瞬、凍りつき…

「「「あ!!!!」」」

3人の声がハモった。
それを見た「ラクス・クライン」の表情も少し変わる。

「「アンドリュー・バルトフェルド!!それに本物のピンク!!」」
2人が思わず叫んでしまった人物の名を聞いて、周囲に驚きととまどいの空気が生まれた。
先日、オーブ襲撃犯として全世界に指名手配されている男の名前は今、世界中で有名である。
そう、今、ここにいるのは、正に本物の「ラクス・クライン」と砂漠の虎、アンドリュー・バルトフェルドだったのである。

周りの空気の変化を察したバルトフェルドは瞬時に懐から閃光弾を取り出し、地面に叩き付ける。
次の瞬間、一面を凄まじい光が覆いつくし、バルトフェルド達はシャトルの乗り場へ走り出す。
基地内では何が起こったのかがさっぱりわからず、大混乱に陥っていた。
そして予め乗っ取る手はずを整えておいたシャトルに乗り込んだバルトフェルドは、シャトルを発進させた。

事前に話を通してあったクライン派の内通者の手によって、シャトル強奪犯への対応するための命令伝達が大幅に遅れたものの、
シャトルを撃墜するべく、基地からバビやディンの大軍が飛び立っていった
宇宙へ逃げるように飛んでゆくシャトルに、追撃のMS隊からビームが放たれるが、
それをバルトフェルドは機体を左右させることで辛うじて回避する。
しかし、鈍重なシャトルがいつまでも攻撃を避け続けることはできない。
シャトルが迫り来る大量のミサイルに捕らえられた、と思われた瞬間、そのミサイルは、
横から放たれた攻撃によってすべて撃ち落された。

現れたのは、「かつて」世界最強のMSの異名を取った、自由の名を持つ機体、フリーダムであった。

「キラか!助かったぞ!」
「無事ですかバルトフェルドさん!?僕が喰い止めますから早く!」
「了解した、あとは僕に任せておけ!」
「ラクスをお願いします!」
そう言うと、フリーダムは基地から上がってきた追撃部隊への攻撃を始めた。

その頃、シン、ガロード、ハイネ、そして遅れて合流したレイは模擬戦を行なった結果を検討していた。
「レイ、お前のいい点は正確な動きと戦場全体の状況の把握能力の高さだ。
 能力で言うと指揮官に向いているな。ただ、動きがやや慎重過ぎる感がある。
 場合によっては、もう一歩踏み込んでみることが必要なことがあることを覚えておけ」
「了解です」
「次にシン。お前はレイとは逆に、猪突猛進過ぎる。戦場ではもう少し冷静になれ。勢いに任せるだけじゃMS乗りとして2流だ。
 ただ、お前の反応速度と操縦技術、機転を利かせた戦術はかなりイケてるぜ。そこら辺はガロードと少し似ている感じがしたな。
 あとはお前のもっとも特徴的なところは近接戦闘の力強さだ」
「俺は?」
「お前は2人と比べると、やはり実戦慣れしてるな。全体的なものをいえば、俺より上だろう。
 まあ世界最強と言われたフリーダムを退けた実力はさすがだよ。
 お前ら3人は相性がいいぜ。これからもお前らで模擬戦をやれば全員、凄腕になれることは保障してやる」

ハイネが3人の特徴として考えたのは、
状況把握力のレイ、近接戦と機転のシン、状況対応能力のガロード、といったものである。
データをまとめていると、ハイネの下に基地へ至急帰還するべしとの命令が届く。
「おい、お前ら、急いで基地に戻るぞ、武器のモードを実戦用にしておけ」
ハイネはそう言って機体を基地の方へ向け発進させる。
3人がそれを追って発進するが、何が起こっているのかがわからず戸惑っていた。
「ヴェステンフルス隊長、どうなされました?」
「ハイネと呼べといったろ。フリーダムだ、ディオキアにフリーダムが現れた。それを迎撃しろとさ」
「フリーダムが!?」

シンの脳裏に、オーブでの悲劇の日の光景が蘇る。
「シン、熱くなりすぎるなよ、お前の話は聞いてる。俺達もフォローはしてやるから安心しろ、なあガロード?」
頭に血が上ったシンを諌めるようにハイネがシンに通信を入れる。
「おお、任しておけ!」
かつて自分もフリーデンになじめずに単独行動で自分だけでなく仲間も危機に陥れてしまったことを
思い出しながら返事をするガロードだが、少しGXで対応しきれるかが不安ではあった。

こうして、シン・アスカとキラ・ヤマトの2回目の戦いが始まることになったのである。
|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|