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第12話「俺は一体、何をしているんだ…」

ガロードが語った、滅んで荒廃した異世界。
ティファが見せた、その異世界の姿。

当然ながら、シンは、混乱せざるを得なかった。
だが、ティファの見せた異世界の姿はシンに大きな衝撃を与えた。

シン自身、ガロードのMSパイロットとしての能力は買っていたが、
それ以外についてはあまりよく思っていなかった。
これはカガリやアスランの言う事と同じような奇麗事だとしか彼には聞こえていなかったからである。
だが、ティファとガロードの伝えたことは、奇麗事ではなかった。

呆然としているシンの手に添えられたティファの手をそっと引き剥がしてガロードが言う。
「俺だって憎しみを持つなとは言えねえよ、多分。俺がいた世界でも絶対に許せねえやつはいる。
 だけどさ、それだけに捕らわれちまって、傷付けなくてもいい奴まで傷付けちゃなんねぇんじゃないかな」

「そうなのかもな…少し考えさせてくれ…」
シンが呟くように答えてその場を去って行った。

「あいつ、大丈夫かな…」
「まだわかりません。でも、私達がこの世界に来た意味があるとしたら…」
「ああ。俺は世界があんな姿に変わっちまうのは見たくねえ…」

ガロードの話を聞いて、呆然となりながら艦内をシンは歩いていたが、目の前にレイが現れる。
「シン、艦長が呼んでいる。用件はわかっているな?」
「ああ、わかってるよ」

「どうした?お前は隊長に殴られてへこむようなキャラではなかったと思うが?」
「いや、あいつがどうこういう訳じゃないよ。じゃあ、俺行くから」

シンが歩いていくのを見てレイが不思議に思う。
シンらしくない。今までのシンであればアスランへの怒りで半ば暴れまわるような態度を取っていたはずだ。
一体何があったのだろうか?
軍人としての自覚が今回の一件を機に芽生えてくれればいいのではあるが。
「とはいえ、元気がないことには変わりはないか…あいつの好きそうなモノでも探しておいてやるか…」

タリアは上がってきた報告を受けながらげんなりしていた。
まさかカーペンタリアのすぐ傍にこんな基地が建設中であったとは思えなかったし、
シンはまたトラブルを起こすし、アークエンジェルの急な着水のせいで自分の部屋はすっちゃかめっちゃかだし・・・・・・
そこにドアをノックする音が聞こえる。
「空いてるわよ」
タリアのやや気力の抜けた返事が響き渡った。
「シン・アスカ、入ります」

タリアがまず抱いた感想はレイと同じものであった。普段のシンらしくない。
だが、だからと言って何もしないで放置するわけにもいかない。
「どうして呼ばれたか、わかるわね?」
「…はい。連合が建設中の基地で暴れまわったからです」
「少し不正確ね。
 相手が投降の意を表していた訳じゃないから、敵である連合の部隊へ攻撃を加えること自体にはとやかく言わないわ。
 でも、指揮官の立場にある人間の指示に背いたことは軍人としてあるまじき行為よ。
 軍は強大な力を持っているからこそ、強い規律に従わなければならない、アカデミーでも習ったはずよ」
「はい」

「私だって、あなたがアスランのことをあまりよく思ってないことはわかってるわ。
 しかもいきなりやってきた人間の指示に従うのは抵抗があるでしょうけど、あなたは軍人なのよ。
 長い人生、嫌な上司、気持ち悪い上司、自分より無能に思える上司に当たることがないとは言わないわ。
 でも、軍人である以上、望んで軍人になったのならなおさら、規律には従うように。
 わかった?
 わかったなら罰として、今格納庫でやってる散らばった資材の整理を手伝ってきなさい」
「わかりました…」
そう言ってシンは艦長室を後にした。

「あの子、悪い物でも食べたのかしら…」

連合が撤退した地域へ派遣されたカーペンタリアからの部隊の到着を待って
発進したアークエンジェルは、その数日後、マハムール基地へと到着した。
マハムール基地の司令官から、ローエングリンゲート攻略作戦への協力を要請されたタリア、アーサー、アスランの内、アスランはひとまずアークエンジェルへ戻ってきていた。
理由は、現地司令官が彼の名前に反応したことがおそらく理由であったのだろう。
自分がザフトを一度は裏切ったことは事実なのであるから。

アスランが食堂で大盛ワカメそばを啜っていると、後ろのテーブルから喋り声が聞こえてくる。
「ナチュラルとコーディネーターの融和ねえ…実際どうなんだろ」
「とりあえず昔ほど酷くはないけど、今だってどうだか」
「まあな。今だって艦内で俺達を見るクルーの目、冷たいからな」
「いや、それはお前が緊急着水してみんなの部屋を散らかしちまったからだろ」
「おいおい、じゃああんときはどうすりゃよかったってんだよ」
「知るか」

そういえば、この前の戦闘の後、部屋の中が滅茶苦茶になっていたな、とアスランは思い出す。

「1つ言えることは、俺達が立ち寄る先のザフトの基地でご婦人方と気軽にお話できないうちは
 ナチュラルとコーディネーターの融和なんて夢のまた夢だな」
「つまりはナンパじゃないか」

そういえば、ブリッジクルーの何人かはナチュラルだという話を聞いたことを思い出すが、アスランにとってはそれはどうでもいいことであった。

「せっかく世界を旅してるんだ。行く先々で色々な女性とお話したいと願うのは男の義務だろう」
「確かにその点については同意だな」

なんという低俗な話をしているんだ!としかアスランは思えなかった。
カガリは正にナチュラルとコーディネーターが暮らすオーブを治めるため奔走し、それを実現するために日々、努力をしていたというのに!
ヤキンの後、カガリの傍で政治の舞台を見てきたアスランも、ナチュラルとコーディネーターがいかに手を取り合っていくかを考えてはいた。
自分は政治の世界に関与することはできないが、カガリが望む世界を実現するために力を貸すことが出来れば本望であった。
だがそれをこともあろうにナンパとか男の義務とか、そういった軽い言葉で評されたことはアスランにとっては愉快ではない。
腹立たしい、自分やカガリがしてきたことを馬鹿にされているように思えたのだった。

「貴方達は一体何を考えているんだ!?」

アスランは思わずテーブルを叩いてしまった。
そして後ろの席を見るべく振り返ると、アスランにとっては予想もせぬ顔がそこにはあった。

「ん、なんだ、イージスのパイロット君か」
「いやいや、あのときはジャスティスだよ。んで今はMS隊の隊長さん。
 やあ久しぶりだね」
「あ、貴方達は…」
「ああ、無理に名前思い出そうとしなくていいよ。どうせ知らないだろうし。
 アークエンジェルの背景その1だ、お久しぶり」
「じゃあその2だ。ところで何を考えてるってなんのことだい?」

アスランにとっては見覚えはあるけどあまり知らない顔・・・・・・
飄々としているノイマンとチャンドラに対して、アスランは気まずくて仕方がなかった。
「い、いえ・・・それより、どうしてここに?」
「「雇われたから」」
「じ、じゃあ、なんで雇われたんですか?」
「仕事に使ってた車でフリーダムに連れ去られそうになったカガリのお嬢ちゃんを連れて逃げたら、君の大好きなお友達にその車をお釈迦にされて失職したからだけど?」

質問に即答されて、糾弾しようとしていたはずが逆に押されている、そう感じざるを得なかった。

「大好きなって・・・ってことはあなた達はキラと一緒に行かなかったんですか!?でもどうして?」
「お誘いは来たぞ。あのお嬢ちゃんをそのままにして連合と同盟を結ばせたら世界は大変だ~! だからお嬢ちゃんをさらうのに手を貸してくれ、ってね」
「まあ即答で断ったけどな」
「それにガロードの話じゃ、カガリのお嬢ちゃんも連合と同盟を結ぶつもりはゼロだったみたいだしな」
「どうして断ったんですか!?キラやマリューさんはあなた達の仲間でしょう?」
「仲間だからといって犯罪に手を貸す義務はないさ。
 国家元首をMS持ち出して誘拐するなんて、普通の考え方ができる人間なら誰だって犯罪と答える。
 国のあり方を決めるのは最終的には国政に政治的責任を負う政治家だ。身内だからって何しても許されるはずがない」
「君がザフトにいて、君の父が議長だったとき、そのお父さんがする決定を君が間違ってる、って言って君はお父さんを誘拐してたらそれが犯罪にならない、だなんて思わないだろ?まさか」
「それは…」

「それに俺達にも生活がある。言い方は悪いかもしれんが、プラント独立の英雄の1人であるパトリック・ザラの息子として裕福に育ったであろう君には、一国民として生きていくための感覚があるとは思えないから、俺達の言うことは分からないかもしれないが」
「お前が言うなよ。お前なんて名前に2世って付いてるじゃないか」
「いや、俺のは親父がそれっぽく聞こえるからってつけただけだ」
「ハッタリかよ!?」

「やっぱりキラ達のしたことは間違いだったんでしょうか…」
やや置いてきぼりを受けた感のあるアスランが呟いた。

「少なくとも、一般人のMS保持や理由はどうあれ国家元首の誘拐は犯罪以外何物でもない。
 国家元首だって国の金を不法に使い込めば犯罪になりえるんだから、『彼ら』のしたことがロクなことだとは思えないな」
「色々偉そうなことを言ったかもしれんが、君のMSの腕は買ってるからあてにはしてるよ。
 あ、あと裏切りだけは勘弁くれよ?」
「あともし君が『ザラ』の名前で統治者を目指すのなら、これは覚えておいた方がいい。
 市民はたいていがみんな自分勝手な生き物なんだ。だから様々な利益団体とかが存在するし、
 政治なんて清濁併せ呑まないと結局は1人よがりになってしまう。君らよりは年喰ってるから言えることかもしれんがね」
「はあ…」

そう言って2人は食堂を後にした。
だが残されたアスランにとって、親友の行なった行動がほぼ完全否定されたことは重くのしかかった。

そしてアスランは自分の今置かれている状況と親友を想う心の板ばさみになっていたのである。
ユウナ・ロマの提案を事実上足蹴にした今の自分はザフトの一員であり、
プラントのために行動しなくてはならない。
ただ、世界に指名手配され、いつ後ろから刺されてもおかしくはない親友が心配でたまらない。
「俺は一体、何をしているんだ…」

何かを言おうとしたわけでもない。
思わず出てしまった一言である。

だが、この一言は紛れもない、アスランの本心であった。
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