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第6話「僕は卑怯な男かな…」

海辺の孤児院が襲撃される直前、アスランはセイランの屋敷にいた。

デュランダル議長の真意を確かめるため、かつて裏切ったプラントへ行くことを決意したアスランは、
カガリに指輪を渡したあと、空港へ向かうべくヘリに乗り込んだのだが、
そのヘリは、途中で進路を変更し、空港への道から逸れ始め、セイラン家の屋敷に着陸したのである。
「どういうことだ!?ここはセイラン家の屋敷じゃないか」
アスランに緊張が走る。まさかここで謀殺されることはないだろうが、
自分がセイラン家にとって目障りな存在であることはそれなりに自覚している。
「申し訳ございませんが、私は、貴方様をこちらに連れてきてから空港に送るよう指示を受けているだけです」
運転手はそう答えると、アスランは出迎えに来たユウナに手招きされ、屋敷へと入っていった。

「やあアレックス、いやアスランといった方がいいかい?」
ユウナがソファに深く腰掛け、足を組みながら余裕の表情を浮かべている。
「一体、何の御用ですか?」
アスランは機嫌の悪さを隠さずに睨み付ける。しかし、ユウナは態度を変えずにいる。
(こいつ…何を企んでいるんだ?)
アスランの中ではユウナへの不信感が溢れていた。

「君、カガリと一緒になりたいかい?」
「・・・・・・は?」
突然、予想もしなかった質問をされ、頭の中が真っ白になる。
「カガリと一緒になりたいのか、と聞いているんだよ、アスラン・ザラ」
「おっしゃる意味がよくわかりませんが…」
自分とカガリが一緒になる、それは敵わないことだと思っていた。
相手は一国を背負う人間であり、かたや現在の自分は偽造戸籍上の、単なるボディガードに過ぎない。
当然、ユウナの質問も自分への嫌味かあてつけだと思っていた。

「君がもしカガリと結ばれたいのならこちらも手を打ってもいい、と言っているんだよ」
アスランは、突然のユウナの一言に、数十本もの髪の毛が死に絶えるほどの衝撃を受ける。
(いかん!こいつ、なんて負荷を掛けてくる…いや、それよりこれはどういうことだ?)
頭の表面と頭の中が大きく揺れ動いているアスランを余所にユウナが続ける。
「まぁもちろんタダで認めるつもりはないけどね。こちらの出す条件を呑みさえすればいい」
「条件、ですか?」
「そう。条件だ。
 確かに、君に勝るのが身長と毛髪の量だけしかない僕ではカガリを幸せにすることはできない。
 だが、オーブを護っていくことは出来る。
 だからカガリには戸籍上は死んでもらって、別人として生きてもらうことになるが、
 君はカガリの夫、そして、我が国の国民、アレックス・ディノとして、
 君の凄まじいまでの力を、ヤキン・デューエでフリーダムと並び称された程の力を、
 オーブ軍のために奮ってくれればいい。もちろん、能力に応じた待遇はするよ」

「つまり、俺にカガリをくれてやるから、このオーブはよこせ、そういうことですか?」
「飲み込みが早くて助かるね。さすがは優秀なコーディネーターだ。
 なかなか悪い話じゃないだろ、戦場での運命的なボーイミーツガール。
 それを邪魔する女の嫌味な婚約者。
 そして運命に翻弄される二人はやがてすべてを捨てて、結ばれる。
 まるでどこかのドラマのようじゃないか。とてもロマンチックだ。
 いいキャストを使って、ゴールデンタイムのドラマにすれば20%は軽く超えるよ」

「そんな急に言われましても…」
「なら考えておいて欲しいね、君がプラントから戻るまでに。君にとって悪い話じゃないだろ」
「・・・・・」
「あと付け加えておくと、僕の統治するオーブにいるのが嫌ならプラントへの亡命に便宜を図ってもいいよ。
 その代わり、この親書をデュランダル議長に渡してきて欲しい」

ユウナが胸ポケットから手紙を取り出し、アスランの前に置く。

なるほど、カガリと一緒になる、の件は単なる前置きであり、
自分をここに連れてきたのはそのためであったのか。アスランは大体の事情を察する。
「わかりました。確かに、デュランダル議長にお渡し致します。それでは」

アスランが立ち上がり、部屋を出ようとしたとき、ユウナが呼び止めるわけでもなく口を開く。
「それとさっきのは本当だよ、アスラン。君の賢明な答えを期待している」
「!?!?!!?!?!?!?」
アスランがユウナのほうを振り向くと、ソファに腰掛け、向こうを向いたまま手を振っている。
(俺は一体どうすればいいんだ…カガリ…キラ…)

「ふぅ…」
アスランが立ち去った後、ユウナが立ち上がる。
シャツが湿っているのが容易に分かる。事実上の宣戦布告をしたのだ。
もし、アスランが要求を呑めば、自分は全責任を以って、オーブを背負っていかなければならない。
呑まなければ、国民には絶大な支持を誇るカガリを神輿にした上で、自分を認めさせればいい。
確かに、アスランに言ったように勝っているものといえば、身長と政治的手腕、それと毛髪の量くらいのものだ。
だが、特別な力も持たない、ナチュラルの自分であっても、方法によっては特別な力を持つ人間にも
勝利することが出来る。ガロードから学んだことであり、ユウナに最も強い影響を与えたことであった。

どちらにしても容易な道ではないが、やる価値は十分にある。
ここからが正念場だ、ユウナはそう思っていた。
そして、テラスに出ると、いつの間にか闇に包まれた空を見上げながら自嘲気味に呟いた。
「僕は卑怯な男かな…」

部屋の中に戻り、戸棚のウィスキーに手を掛けたとき、机の上の通信機がコールをならす。
「僕だ。どうした?…何、フリーダムが!?それで奴らは…行方がわからない?早く探しだせ!」

かつてアスラン・ザラと共にヤキンでの戦いを生き抜き、今は海辺の孤児院で何をするわけでもなく
静かに暮らしていた、そしてカガリの遺伝子上の弟キラ・ヤマトのいた孤児院が
謎のMS部隊の襲撃を受け、フリーダムが姿を現した。
そのMS部隊を撃退したフリーダムとその一行の姿が消えた。
それを聞いたユウナは焦っていた。
(この大事な時期に…そもそも何故そのMS部隊の存在に誰も気付かない?それほど大きな力が背後で動いたのか?)
このとき、時代が新たなステージに移行したことをまだユウナは認識していなかったのであった。

謎の特殊部隊の襲撃を切り抜けたキラ・ヤマト達は、アスハ家の私有する秘密ドッグにいた。
そして、彼らは今後の対策を検討していた。

「どうしてコーディネーターの特殊部隊が僕達を…」
キラ・ヤマトがうつむきながら口を開く。
「まぁ僕達に恨みを持ってる連中なんて星の数ほどいるからねぇ。候補を挙げていったらキリがない。
 僕も犯人を考えてみたがわからずじまいだ」
顔に大きな傷を持つ男がコーヒーを口にしながらそれに答え、なおも続ける。
「ただ、あのMS、確かあれはアッシュとかいうザフトの新しいMSだ。
 あんなものを持ち込めるということはそんじょそこらのテロリストにはできないだろうな」
そこにキラが口を挟む。
「じゃあプラントが?どうして?」
「話は最後まで聞け。プラントが仮に背後で動いたとしてもここはオーブの中だぞ。
 ザフトの新型のMSを黙って侵入させるほどこの国も馬鹿ではないだろ。
 かといって無理に侵入しようとすれば騒ぎになる。そうだとすれば手引きした人間がいたはずだ。
 それも相当上にいる人間がな。」

「僕達を邪魔に思ってるこの国の人間、って…じゃあカガリの婚約者だっていうセイランが?」
「一々結論を急ぐな、キラ。確かにセイラン家の次期当主、ユウナ・ロマはカガリの婚約者ではある。
 それに、連合との同盟締結を急いでいるのもセイランだ。
 だが、考えてもみろ。狙われたのはラクスだぞ。もし僕がセイランだったらまずはカガリの弟であるお前を狙う。
 自分とカガリにとって邪魔なのはお前だろうからな。
 それにセイランは親連合であってもプラントと親しいという話は聞かない。
 セイランとプランとの繋がりがはっきりしない以上、結局、話の筋が通らないんだよ」

「でも…連合との同盟なんて馬鹿げてる…ウズミ様が命を捨ててまでオーブを守ろうとしたのに…」
「だが、もう連合との同盟は時間の問題だ。僕達はこのままおちおちとこの国にいることはできない」
「今度の戦没者慰霊の式典は、専ら連合との同盟締結と、カガリさんとの結婚の正式発表が目的、
 っていうのが大方の見方ですものね…」
マリュー・ラミアスが口を挟む。
彼らの中で最も―モルゲンレーテの社員として―多く世間の話が耳に入ってくるのは彼女である。
「ならば誰かがカガリさんを止めなくてはなりません。
 手遅れになってしまっては世界は再び憎しみの連鎖を生み出し続けてしまいます」
今まで沈黙していたラクス・クラインが静かに口を開いた。
「そうだよね。僕達がカガリを止めないと世界は大変なことになる。
 それにカガリにはアスランがいるんだ。セイランとの政略結婚だなんて許せるわけないじゃないか」
先ほどまでバルトフェルドの指摘を受けてやや気落ちしていたキラの口調に再び勢いが戻る。

「本当にそれでいいのか、キラ?」
バルトフェルドがキラに問いかける。
「当たり前じゃないですか。僕達がカガリを止めないで一体だれが止めるって言うんです!?」
「そうか、わかった」
静かにバルトフェルドは答えると、他の人間と異なり、やや陰りのある表情を浮かべたが、それに気付く者はいなかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「お断りします」
市街地のやや外れにあるとある建物の中に、青い髪の男とメガネを掛けた男、それにマリュー・ラミアスがいた。
「どうして!?あなた達がいないとアークエンジェルは動かせないわ!
 このままオーブが連合と同盟を結ぶことになったら、ウズミ様が命を捨ててまで守ろうとしたこの国の理念が失われてしまうわ。
 そしてきっと世界は再び地球とプラントの全面戦争に陥ってしまう…」

マリューが熱弁するのを2人の男は黙って聞いていたが、青い髪の男がやがて口を開く。
「艦長。だとしても貴女達がやろうとしていることは立派な犯罪です。
 それにどうしてアークエンジェルがまだこの国にあるんですか?
 確かに私は、一旦はあの艦をこの国まで運びました。
 ですが、あれは本来、連合に返さなくてはならないものでしょう」

「でもこのままでは世界が…」
マリューの反論にメガネの男が口を開く。
「同盟を結ぶか否かはオーブという国が決めることです。
 国の方針は政治家と国民が決めるものではないのですか?」
そして青い髪の男がそれに続けて言う。
「私達は、元は連合の軍人であり、かつての大戦では最終的に、オーブ軍の主力として戦いました。
 ですが、今の私達はこの国の市民の中の1人に過ぎません」

「でも誰かがカガリさんを止めないと…」
はぁ、とため息をつき、メガネの男が反論をする。
「艦長達がどうされようと僕達は止めるつもりはありませんし、これをしかるべきところに知らせるつもりもありません。
 ですが、僕達が再びアークエンジェルに乗る意義がまったく理解できない。
 キラ君たちがこの国を離れたり、アスハ代表を連れ出す必要が仮にあるにしても、
 アークエンジェルやフリーダムを持ち出して、オーブの立場を悪くする必要はないはずです。
 もし、僕やノイマンが艦長達と再びアークエンジェルに乗っていたのであれば、
 それは、我々の意思とはほとんど関係がなく、ただ単に艦長達に都合がいいよう事態が進むように、
 何者かが因果規律を人為的、作為的にいじくりまわした結果だとしか思えませんよ。
 そんなことをできる存在がいるかどうかは別ですけどね。
 まぁノイマンがバレルロールしたいだけ、という可能性もありますが」
ダリダ・ローラハ・チャンドラ2世がノイマンをニヤニヤしながら見ている。

そして、ゴホンと咳払いをしたノイマンが言う。
「艦長、馬鹿な真似はやめてください。
 艦長の人を思いやることができる、人情派ともいうべき部分を我々は決して嫌いではありません。
 ですが、今、艦長達がやろうとしていることは、歳相応に見識があるべき大人であろう
 我々からすれば非常識にも程があると思います」

諦めて帰るマリューを見ながらノイマンとチャンドラがポツリと呟く。
「どうしてあぁなるのかなぁ…」
「仕方ないだろ。艦長だって、あんな形で少佐を失ったら正気を保っていられないさ」
「俺たちどうなるんだろ…」
「どっちにしても式典帰りの客目当てに、俺達は会場付近でタクシー営業してるだろ」
「ま、そりゃそうだわな」

式典の当日の朝、ユウナは、事情を説明した上でガロード達に式典会場での護衛を頼んでいた。
「…そういう訳なんだ、然るべき時までダブルエックスは公開したくなかったが、
 『彼』に対抗できるパイロットが今のオーブにはいなくてね」
「じゃあ撃墜はしねー方がいいよな、カガリさんの弟らしいし」
「それができればその方がいいけどね。最悪、追い払ってくれればいい。
 今、この大事な時期に国をまとめるにはどうしてもカガリの力が必要なんだ。
 …とはいえ、最終的には君達に任せるよ。僕がどうこうできることじゃないしさ」
ユウナの少し投げやりな返事をするが、これに対してジャミルが問いかける。
「ユウナ殿、式典を中止することはできないのですか?」
「それも考えたのですが、何せ発表する事柄が事柄ですので、関係各所への根回しや
 下準備をすでにしてしまっている以上、今日行なわなければこの国の信頼に関わってしまいますから…
 ですから無事にことを進めるために、ミネルバにも会場付近の護衛を頼んだのですよ」

「ではその彼らにオーブが連合との同盟締結を白紙撤回することを伝えればよいのではないですか?
 それさえ伝えればそのフリーダムとやらが式典に現れることもないでしょう」
「はい、それはカガリがやろうとしております。僕が伝えようとするよりは確実なはずです。
 ですが、いかんせん彼らは忽然と姿を消してしまっているのです」

ユウナはフリーデンには真実を伝えることにしている。
隠し事をすれば、彼らの信用を失うばかりか、後ろから撃たれても文句はいえない。
それに、何よりも、過ちを繰り返させない、とするガロード達を信用しているからである。

こうしてガロード・ランとキラ・ヤマト、そしてシン・アスカの3者が再び顔をあわせることとなる式典が始まることになった……

「ったく、なんで俺達ザフトがオーブの行事を護衛してんだ、おい」
式典が行なわれる会場付近の警備をしていたシン・アスカは悪態をついていた。
そんなシンの横で、白いザクに乗った容姿端麗な金髪のパイロット、レイ・ザ・バレルが注意をする。
「任務中だぞ、シン。それにこの任務、何かが臭う」
「どういうことだよ、レイ」
「オーブはこの式典で連合との同盟を締結することを発表する、というのが大筋の意見だ
 それなのに、どうして俺達がこんな会場の近くで護衛ができる?」
「じゃあこれは罠ってことか?」
「いや、そうじゃない。俺たちの機体はザフトの最新鋭のMSだ。
 いくらオーブがダブルエックスを持っているとはいえ、俺達が一発ビームライフルを撃つだけで
 オーブの首脳陣を抹殺できるほどの距離に俺達を配置するとは思えない。
 仮に罠でも、それを知ったミネルバのタンホイザーを撃ち込まれればどうなるかわかるだろう」
「じゃあなんで俺は生身なんだよ」
「大方、特に最新鋭機の中でも重要なインパルスをあまり人目に晒したくないのと、
 お前が俺たちの中ではもっとも白兵戦が強いことを艦長が配慮したのだろう。気にするな」

シンは正直、この護衛依頼はカガリの嫌がらせだと思っていた。
ウズミのやり方を奇麗事だと吐き捨てた自分の目の前で今度は連合との同盟を発表した上で、
結婚の発表をして自分の幸せを見せびらかす、
これがシンの描いた嫌がらせのシナリオであった。

式典が始まり、壇上にカガリが立つ。
その時であった。
警報が響き渡り、彼方から止めに入るムラサメを切り伏せながらフリーダムが会場に現れる。
そして、海中から、かつての大戦で浮沈艦と恐れられた、大天使の名を関する艦が浮上してきた。
「フリーダム!?くそ、こんな早く来るとは!ガロード!」
「合点承知だぜ!」
ユウナはフリーダムが現れるとしたら、式典の最後に予定されている演説の時であると踏んでいたため、
それまではガロード達には式典に参加していてもらうつもりであった。
この誤算が後に最終的にオーブを危機へと陥らせることになることにユウナは知る由もなかった。

一方、ガロードは、護衛の最大の目的はカガリを渡さないことであると考えていた。
ユウナの言葉を受け、ガロードはカガリの手を取って、まずは会場の外へと連れ出すこととした。
「おい、お前、どこに行くんだ!?」
カガリはガロードに手を引かれながら叫ぶ。
そしてガロードもその声の大きさに対抗するかのような大声で答える。
「ダブルエックスのとこまでだ!ちょっと距離があるからしっかりついてきてくれよ!」

その頃、シンは突如現れたフリーダムの姿を確認して、震えていた。
そんなシンに対してレイが声を張り上げる。
「シン!フリーダムだ!お前は早くミネルバに戻ってインパルスを!」
しかし、シンは動かない。レイの言葉は彼の耳には入っていなかった。

「ふふふふふ…ははははは!ようやく見つけたぞ、フリーダム!」
あの日、大切な家族を自分から奪っていった青い翼。自由という名の剣。
ようやくこの手で家族の無念を晴らせるときが来た、その喜びにシンは浸っていた。
「父さん、母さん、マユ…今、仇を討てるよ」

「シン!」
親友の言葉がふと耳に入ってきた。
「わかってる!」
シンは白いザクに向けてそう言うと、ミネルバに走っていった。
その瞳には怒りと憎しみが、灼熱の炎のように燃え上がっていたのだった。
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