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第19話「私は勝者でありたいのですよ」 そこは暗い一室であった。その部屋では長い黒髪の男が高級そうな椅子に深く腰掛けている。 そしてその正面には紫色の髪をした、これまた長身の男がいる。 「わざわざまたお呼びだてして申し訳ありません、ユウナ代表代行」 「いえ、大体の用件は把握しておりますので気にしてませんよ、デュランダル議長」 「お気遣い頂き申し訳ない」 「でも随分と大胆に動きましたね、お国元のクライン派は蜂の巣を突付いたような騒ぎになっているのではありませんか?」 「はっはっは、こう見えても、私も『クライン派』なのですがね」 「ふふふ、これは失礼致しました。つまり手は打ってあるということですか。  しかし、よくもまあここまでホコリが出てきたものですね。  オーブへの不法入国及び不法滞在、アスハ代表拉致実行の指示に、ディオキア基地襲撃とシャトル強奪、 最新軍事技術漏洩教唆、MS等不法所持に兵器の横流し…これ、一体どこのマフィアのボスなんです?」 「これがプラントで救国の歌姫だなどと言われている人間の一面の姿ですよ。  彼女は強く、人を魅了する力を持ち、己の考えに極めて忠実だ。故に自身の行動の意味するところを考えない。  いや考えようとしないのでしょうな。何かのためそれはやむを得ないのだとそこで思考を停止している」 デュランダルは手元のワイングラスを口に運び、一気に飲み干すと、数枚の書類をユウナに手渡す。 ユウナはそれを見て、静かに微笑みながら、足を組み直す。 2人のその目は何か、秘密の計画をわくわくしながら企む少年のような目であると同時に、幾重にも重なった陰謀が籠っていた。 「そして、これが今回あなたの持ち出した古く、そして新たなカードであり、クライン派への牽制というわけですね。  フリーダム強奪及びエターナル強奪の真犯人であることの公表とラウ・ル・クルーゼの罪責の再審請求ですか…」 「ええ、幸い証拠を入手するのに苦労はしませんでしたよ。  ユニウスセブン落下未遂の実行犯がザラ派軍人の残党という噂が立っている現在、  ザラ派の連中はクライン派の評判を何としても失墜させたがっていましたからね。  簡単に彼女がキラ・ヤマトにフリーダムを与える瞬間をバッチリと記録している映像を渡してくれましたよ。  それに彼女は、エターナルを強奪したときにはわざわざ大きく自分の名前を名乗っていますから。  アイリーンはよほどなす術がなかったのでしょうな、真実の隠蔽を行なうにはあまりに拙い。  ですがこの際、使えるまともな手段を使わずにおけるほど、クライン派の闇は浅いものではない。  アイリーンには悪いが、『真実』を公表させてもらうことにしました」 「ザラ派を上手く自分の側に取り込むと同時に、クライン派の内部分裂を狙い、ご自分の支持基盤を固めておく、ということですか」 「何しろ彼女の信者がどれくらいいるのかは全くわかりませんからね。  昔から言うでしょう、敵の敵は味方だ、と」 「…連合の圧政に苦しむ地域を解放し、いずれはロゴスを滅ぼし、混乱する経済のセーフティネットとしてデスティニープランを導入し、その上でラクス・クライン一派の影響力を極力排除する…貴方は本物のヒーローにでもなるおつもりですか?」 「ヒーロー…とは少し違いますな。私は勝者でありたいのですよ、それも常にね」 「勝者ですか…」 「ええ、誰もがなしえなかったナチュラルとコーディネーターの融和。  これらが全て成し遂げられたとき、私の名前は人類の歴史に大きく刻まれる。  多くの人々がそれを望みながら、成し遂げられなかったことを成し遂げた英雄、私は、望みながら成し遂げられなかった人間達に勝利したことになるのですよ」 デュランダルの野望は大きいものであった。 だが、今の彼の出発点は、愛した女との間に自分の遺伝子を残せなかったという敗北から始まっている。 彼は自分の遺伝子に敗れたのである。 故に彼は自分の名を残す途を歩むことにしたのだった。 根本のところでは、愛した女に、いつまでも自分の存在を認識させたい、というものがあったのだが、それだけにとどまらず、デュランダルは歴史に戦いを挑んだのである。 その挑戦にはデュランダルが仕込んだいくつもの策略があったが、彼の真意をユウナが理解するのはこのずっと後である。 「…それではこの書類はどういうことなのですかな?」 「それですか…私が勝者になるための仕込み、とでも言っておきましょう。ところで聞きましたかな、アスランのことを」 「それなりには知っていますよ。正直失望は隠しえませんがね。まあ万が一があればいい方だとは思ってましたが」 「そんな風に言ってはアスランが可哀想ですよ、ユウナ代表代行。  彼は凄まじい戦闘能力を持っているのです、これを利用しない手はない。  それに、彼は、キラ・ヤマトやラクス・クラインに極めて忠実だ。  彼は、ただいるだけで、その言動によって周囲に、キラ・ヤマト達の滑稽さを認識させてくれる。  理想的な反面教師とでもいうところでしょうな。  今のところはザフトに大きく仇なす気配はないので、処分保留にして、そのままにしておりますがね」 「議長の方こそアスランに失礼ですよ、彼は単にキラ・ヤマト達に根本的なものを捕らわれているだけだ。  彼の気持ち自体は純粋で強いものですよ、それこそラクス・クラインに劣らぬほどに」 アスランの取った行動についての情報を入手したときのユウナは、やっぱりか、という諦めの気持ちと裏切られたという残念な気持ち、これで胸を張ってアスランを非難できるという安堵に似た気持ち、という3つの気持ちを覚えた。 とはいえ、デュランダルが動いた以上、ユウナ自身はいつまでもアスランに構っていることはできない。 プラントで動き辛くなったクライン派が何かを仕掛けてくる可能性があるし、 国内世論の動向に対して今まで以上に注意深くならなければならない。 ユウナにとってのクライン派…いやラクス・クラインとの戦いが始まったのである。 一方、シンも新たな戦いのための準備を始めていた。 テロリストとして全世界に指名手配されているとはいえ、タリアもさすがにその場で殺害しようとしたことを放っておくことはできなかったからである。 結局、減俸処分という形でお茶を濁す形になったシンであったが、タリアの雷の直撃を受けて艦長室を後にして向かった先はガロードの所であった。 「ガロード、頼みがある。俺に特訓をしてくれないか」 「…フリーダムのことか?」 「ああ、オーブそしてディオキア、お前はフリーダムと互角以上に戦った。それに比べて、俺はこのザマだ。  こんなんじゃ家族の仇も討てやしない…力が欲しいんだ、あいつを…キラ・ヤマトを倒せる力が…」 本音を言えば、ガロードは、フリーダムが絡むと人格が途端に極端に攻撃的になるシンをこれ以上、攻撃的にすべきではないと思っていた。 だが、それと同時にガロードには痛いほどシンの気持ちがわかったのである。 ガロードが、強く力を求めた―カリス・ノーティラスに完膚なきまでに破れ、ティファを攫われた―ときの気持ちとほとんど一緒だったからである。 言わば、シンは守るべきものを失ったガロード自身であった。 力を欲した時、ジャミルやキッド等フリーデンの仲間達の助けを借りた特訓の末にカリスを倒すことができたガロードには、シンの頼みを断ることはできなかった。 それに、力が使い方次第であることを誰よりも身に染みて理解しているのもガロードである。 結局、ガロードはカトックから教えられたことを、シンにも伝えることができれば問題はないと判断した。 「条件がある。…約束してくれ、世界を滅ぼしちまうようなことにお前の力を使わない、って」 「世界…でもそんな抽象的なこと言われても…」 シンだって、自分達の世界をガロード達がいた世界のように滅ぼしてはならないことはわかっていた。 しかし、その実感を持つことができない。 世界を滅ぼさないため、と言っても何がどうなったら滅ぶかは具体的にイメージすることはできなかった。 「別にそんなに難しく考えなくてもいいさ。  前に言ったけど、怒りや憎しみって人間なら誰だって持つもんだから、誰も憎むな、だなんていわねえ。  始めにお前が力を欲しがったときみたく、お前の力を罪のない人達が苦しむようになることに使ったり、フリーダムを見たときみたいにただ凶暴になって力を振り回したりしなきゃいいんだ。  お前が力を使って、どうなるかってのを考えてから力を使えばいい。  もちろん、お前が暴走しそうになったら俺が全力で止めてやるけどな」 「…わかったよ。お手柔らかに頼むぜ」 「ああ、サテライトキャノンを背中にぶちかましてでも止めてやるから安心しろ」 「え………それは…」 「じゃあディバイダーのビームにしておくぜ」 「…バルカンくらいじゃだめ?」 「却下」 苦笑いしながらであるが、2人には堅い握手がされていた。 出航したアークエンジェルの中では相変わらず、シンとアスランとの間の険悪な空気が流れていた。 元々、ミネルバから移ってきた人間が多いアークエンジェルの中では、アスランがシンに発砲したという情報は衝撃的なものだった。 アスランがフェイスという特権を持った人間だからこそ、さしたる嫌がらせを受けることはなかったものの、以降、アークエンジェルの中を歩くアスランは、周囲からの冷たい視線に晒され続けていた。 だが、そんな噂は恋する乙女の耳に右から入っても、左から出て行くのみであった。 「レイ、ちょっといい?」 食堂で3人分の弁当を受け取ったばかりのレイの所にルナマリアが現れる。 「どうしたルナマリア。ザラ小隊のミーティングは終わったのか?」 「ええ、さっき終わったとこ。それよりあんた達最近、シミュレーターに籠って何してんの?」 「特訓だ、フリーダムを倒すための、な。俺達3人での訓練の継続はハイネの意思でもある。  それよりお前はアスランと一緒にいてやれ。あいつは今、アークエンジェルでは1人だ。  誰か傍にいた方がいい、お前のためにもな。そしてあいつが何かしようとしたら俺に知らせてくれ。  アスランが今度変な真似をしたらフェイスとはいえタダでは済むまい。誰かが止めなくてはならない」 確かにシン、レイそしてガロードはアークエンジェルが出航してから毎日のように、フリーダム打倒のための戦闘訓練を行なっていた。 だが、それはフリーダムのデータ研究にとどまらず、レイの提言により、アスランのセイバーやヤキンでのアスランのジャスティスの動きも研究対象に含まれていた。 レイはアスランを完全に疑っているのだ。 レイにしてみれば、アスランは、「フェイス」つまり信頼とは全く正反対の存在であった。 故に、レイとしてはルナマリアをアスランのウォッチャー、つまり監視者をさせようとしたのである。 もっとも、その意図に全くルナマリアは気付いていなかったが。 何度か襲撃してきた連合の艦隊をシン達は特訓の成果を発揮しながら退け、アークエンジェルはロドニアに辿り着く。 そして、この地で、シンは辛い現実に直面することになるのを彼はまだ知らない。 つづく 次回「辛いな、1人は」

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