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第15話「救世主」 ウィッツに案内されたのは光が燦々と差し込む広いバルコニーであった。 そこには豪華な料理が並べられており、彼らを招待した人間の力の強さを象徴しているようであった。 そしてそこにはレイ、タリア、アスラン、ルナマリアの他に、黒髪で長身の男がいた。 「ユウナ代表代行お待ちしておりました」 「ご招待いただきありがとうございます、デュランダル議長」 デュランダルが差し出した手をユウナが握り返す。 先ほどまで化かしあいをしていた2人であり、 それを知っていたタリアは内心で黒タヌキと青タヌキの化かしあい第2ラウンドかと思ったくらいである。 まあユウナにしてもデュランダルにしてもタヌキというよりは2人ともキツネと呼んだほうがそれっぽい気がしなくもなかったが。 こうして楽しむ食事とはかけ離れた食事会が始まった。 「インド洋沖の海戦、マハムールのローエングリンゲートでの君達の活躍は私のところにも聞こえてきているよ。  その中でもシン・アスカ、そしてガロード・ラン君の活躍は特にね」 デュランダルが横目でシンとガロードを見る。 「シン、君のことは覚えているよ?」 そこにいたシン、アスラン、レイ、ルナマリアは、シンがミネルバに乗っていたカガリに、突っかかった時のことを思い出す。 そしてシンが赤面しながら気まずそうな顔をする。 「そう堅くならないでもいいよ、シン。  今言った2つの戦闘の他にも、オーブで手負いとはいえあのフリーダムと互角に戦った君の実力を私は高く買っているんだ。  これからも君の活躍に期待させてもらうよ」 「あ、ありがとうございます!」 「そしてダブルエックスというオーブの秘密兵器でユニウスセブン落下の危機から世界を救い、  さらにオーブに突如として現れたフリーダムを撃退した凄腕のパイロット、ガロード・ラン。  ミネルバが戦線を離脱したのは痛かったが、君が我々に手を貸してくれたおかげで  連合の圧制から多くの人達を救うことができた。心から礼を言わせて欲しい」 「いやいや、なんつっても困ってる人たちを放っとく訳にゃいかねーからな。  何かあったら報酬さえもらえりゃ炎のMS乗りがズバッとお悩みを解決するぜ」 「はっはっは、それは頼もしい。それならばこれからも君の活躍を期待してるよ。  活躍されすぎてザフトの予算がオーバーしないといいんだけどね」 ガロードのデュランダルを見た感想は、初めて会ったときのユウナにフロスト兄弟の狡猾さを加えたような人物のようだ、というものであった。 つまりは油断がならない相手であるということである。 とはいえ、一国家のトップとあろう人間なのであれば、それくらいの能力がなければ勤まらないのであろうが。 それからしばらく他愛のない話が続いた後、デュランダルの目が突如として光る。 それにガロード、ユウナ、アスランが気付く。彼らは何かが始まるという警報が自分達の中で鳴っているのを感じていた。 「ガロード、君の目には、私達の世界はどう映っている?」 いきなり核心の1つを突いてくるガロードの中ではさらに大きな音で警報が鳴っている。 だが、そこにユウナがフォローをいれた。 「安心してくれガロード、議長はご存知だ。思ったことを話せばいい」 今、現場で緊迫した空気が流れており、その原因が何なのかがサッパリわからず、ポカンとしている人間が数人いるが、 それを完全に無視してガロードが静かに口を開いた。 「連合の連中がやってることはさっきも言ったように、見過ごすことはできねえ。  でも俺が思う限りでは、いつまでもナチュラルだ、コーディネーターだとか言ってたら、いつか取り返しのつかないことに  なっちまうんじゃねえかって気がしてならねえ」 「なるほど、滅んだ世界を知ってる人間ならではの含蓄のある言葉だね。  私も今の君と同じようなことを考えている。おそらくそちらにいるユウナ代表代行も同じだろう。  だが、この世界もなかなかどうして複雑でね。それを望まない人間もいる」 「議長?」 突然の言葉にタリアが顔をしかめる。 「シン、ガロード、君達が使っているMS、いやそれだけじゃない。ライフルやミサイル、MS、これらは一体幾ら位だと思うかね?  きっとそれは日常的ではない価格であることはわかるだろう。  MSを始めとする兵器、それだけじゃない。生活用品や医療用品、破壊の後に訪れる再生のためのビジネス。  戦争が起きて破壊が起きれば起きるほど、世の中では金が動く。  世界には戦争を裏で操り、ビジネスとして戦争を扱っている人間がいる。  彼らはあのブルーコスモスの母体、そして最大の支援者であり、かつてはそちらにいらっしゃるユウナ代表の  セイラン家もそのメンバーであったことすらある、世界経済を裏で牛耳ってきた軍需産業等のトップが集まった組織であり、名をロゴスという。  この戦争、いやナチュラルとコーディネーターという垣根を払い、罪なき人々が苦しむことなき世界にするためには彼らをなんとかしなければならない、私はそう思っている」 「「「ロゴス…」」」 シンやガロード、アスランにとってはいささかスケールが大きい話であり、自身の想像力が追いつけずにいた。 「せっかくの食事会なのに重苦しい話をしてしまってすまないね。軍人である君達は確かに上からの命令従わなくてはならない。  だが、軍人が何のために戦うかといえば、それは軍人でない人達が平和に暮らせる世界を作るためだ。  君達が戦っているうちに、何のために戦うのか迷い、苦しむことがあるかもしれない。  だから、この戦いの先に何があるか、そのために何をすべきなのか、に関する私の気持ちを  君達を信頼したからこそ、話したのだよ」 考えることは各々違っていた。 ここでこのようなことを言った真意を掴みかねている者、 あまり深刻に考えていない者、とりあえずしばらくは手を貸しても大丈夫であろうと考える者、 デュランダルの示した考え方に強く心打たれた者など様々であった。 シンにとってデュランダルが示したものは強く共感できるものであった。 彼が力を欲した理由は、自分の力がないために味わった、理不尽な暴力で大切なものを失ったときの悔しさを2度と味わいたくない、平和に暮らしている人たちは守られるべきであり、守らなくてはならないというものである。 今のシンには、デュランダルの示したロゴスこそが人々を苦しめる、人々にとって憎むべき存在である、という構図ができつつあった。 大きな話をした後ゆえに少し面々に疲れの色が見えてきたことを察したデュランダルは、 おもむろに近くの電話を取り誰かを呼ぶ。 「議長、どうなされました?」 「いや、君に頼まれていた補充人員を待機させていたのを忘れていてね。  ちょうどいい機会だから君達に紹介しようと思ったんだよ」 「本当ですか、それは?」 タリアが少し怪しみながら尋ねた。 表立ってこそいないものの、シンとアスランの対立に頭を悩ませていたタリアは、確かに本国にMS隊の隊長となりうる人材の配備を願い出ていたのだが、こんなに早くその要請が受け入れられることに驚いていた。 部屋をノックする音が聞こえて、入るようにデュランダルが言うと、 オレンジの髪の、赤服を着た男が入ってくる。 その襟にはアスランやウィッツ同様、信頼を示すフェイスの紋章があった。 「このたび、アークエンジェルに配属になりましたハイネ・ヴェステンフルスです」 「彼は非常に優秀なパイロットでね。新型MSグフのパイロットとして、アークエンジェルに合流してもらうことになった。  以後、アークエンジェルではアスランのザラ隊とハイネのヴェステンフルス隊の2個小隊制でやってもらうことになったのでよろしく頼むよ」 その後、食事会で気さくに話すハイネと接したガロード達は、親睦を深めるべく話を続けていたが、 そこでユウナがアスランをさりげなく連れ出した。 「久しぶりだね、アスラン。まさかプラントにいったままザフトに復帰するとは思ってなかったよ」 「・・・・・・・・それは大変申し訳なく思っています…」 「まぁ僕としてはひとまずカガリが戻ってきてくれればそれでいいんだけど、君は誰の味方をするんだい?」 「どういうことですか?」 「議長から聞いたよ。何かあったら自分すら止めてくれと言われてフェイスになったそうじゃないか。  なら君は最終的にどの陣営につくのかと思ってね。  君も知っての通り、オーブは連合との同盟締結を拒み、その理念を守る道を選んだ。  にも関わらず、君のお友達はカガリをオーブに返す気配すらない。  僕が君達に嫌われていることくらいはわかっているが、一体何を考えているんだか…」 「それは私にも…」 「1つ君に教えよう。君がプラントへ出発した後、『彼ら』は所属不明のMSに襲われたようだ。  それ以降、彼らはカガリを拉致した後、完全に消息を絶っている。  もちろん、僕の仕業ではないが、犯人は全員死亡、乗っていたMSも自爆してしまったせいか身元などは完全に分からずじまい。  一応これを君に言っておかないと、君が彼らに接触できても、僕を怪しむように口車に乗せられかねないから、こんな話をしている訳だが」 「口車って…あなたこそキラ達を色眼鏡で見すぎではありませんか?」 ユウナのやや挑発的な台詞にアスランも熱くなってくる。 互いに言い過ぎになりつつあることは自覚していたが、事が事であるため、中々引き際が見えて来ない。 アスランは仲間を侮辱されたように感じているし、 ユウナは、自分の言動が己の立場を鑑みた言動ではなく、少なくともこれでは政治家失格とも思えてしまっているが、相互に譲れないところであるために衝突が起こってしまう。 「そりゃあいきなり自分の婚約者を、条約違反のMSと連合に返すはずの戦艦を持ち出して連れ去った連中を中立的視点で見るのは難しいよ」 「きっと彼らだってオーブのことを思ってのことです!彼らは純粋だ。だからこそオーブのためを思って…」 「彼らが純粋かどうかは僕は知らないよ。話したこともない人間だからね。  ただ、仮にキラ・ヤマト達がオーブのことを思っていたとしても、目的が全ての手段を正当化するなどということはありえない。  彼らのやったことは犯罪だ。挙句、市街地付近で暴れ回って街は大混乱だよ。  偶然にも死者がでなかったからいいようなものの、僕には彼らは自分達さえよければ周りはどうでもいい無責任な人間にしか見えないね」 「ならあなたはキラ達がどうすればいいと言うんですか!?」 「それはこっちが聞きたいよ。今のオーブを見ていまだにカガリを返さないのはどうしてだい?  僕が気に食わないのは結構だが、これ以上僕にどうしろと言うんだ?せめてカガリの身柄を解放してもいいんじゃないのかい?  ・・・・・・・・・・すまない、熱くなりすぎた」 「・・・・・・いえ、私も言い過ぎました」 少し冷静になって2人は自分を振り返る。 そして、互いに今、目の前にいる相手を責めても何らの解決にはならないことを己の中で確認する。 「以前、君に言ったね、オーブかカガリ、どちらかは、と」 「・・・はい」 「君の機体、セイバーというらしいね。救世主、救い主…なるほど今の君にはピッタリなのかもしれない。  君はオーブのために彼らからカガリを救い出すのか、それとも僕という性悪な婚約者からお姫様を助け出す救い主なのか、  それとも、そのいずれでもないのか…君は一体どれだい?」 「今の俺はザフトのアスラン・ザラです・・・」 「僕には君がそれを通すことができるとは思えない。  酷な言い方かもしれないが、君がザフトに戻ったのは成り行きに流されたとしか思えない。  いつかきっと君はさっき言ったどちらかの救世主になる。  僕の方でもカガリを救出するために手は打っている。  でも君は彼らの仲間だ。僕より早くカガリを救出する可能性は高い。  君が選択をするチャンスが欲しいのなら、僕より先にカガリを助けてくれ」 ユウナは苦しんでいた。 ユウナとしても、オーブを自分の手で栄えさせたいという野望はある。 彼はオーブが欲しかった。 しかし、オーブの代表は、自分の婚約者であるカガリなのだ。 無理にでもカガリと結婚してしまえばオーブもカガリも自分の手にすることはできる。 だがそれでは国は治まらない、いやユウナの力では治まらないことを彼はわかっていた。 国民はカガリ・ユラ・アスハが大好きなのである。 だからユウナはどちらかを欲したのである。 アスランも同じように苦しんでいた。 プラントへ出発する直前にユウナから示された条件。 にもかかわらず、アスランはそれを事実上反故にしてザフトに戻ったのである。 本来であれば、カガリの傍にいることを望める筋合ではない。 だが、そのチャンスが今、目の前に示されている。 他方で、彼にとってかけがえのない仲間達は世界のお尋ね者となっている。 アスランとしては彼らも救いたかった。 しかし、アスランが望むものも、両方を手にすることは極めて難しいものであり、それをわかっているから彼は苦しんでいる。 こうして様々な人間の、様々な思いが駆け巡った食事会は終わった。 だが、直後に、世界には、彼らの苦しみを嘲笑うかのような出来事が続くことを彼らはまだ知らない。

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