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第14話「立派なタヌキだな」 アークエンジェルは、ガルナハン、ローエングリンゲートを落として地中海を進み、ディオキアの基地に到着していた。 ディオキアの街では世界各国を慰問コンサートのために回っていたラクス・クラインのコンサートが行なわれており、 アークエンジェルのザフト軍人の面々の多くも、嬉々としてそれを見に走っていく。 他方で、驚きの表情を浮かべている者もいた。 アスランである。 今現在プラントの歌姫として活動しているのが、本物のラクス・クラインではなく、デュランダルが用意した偽者である。 そのことを知っているアスランは、熱狂的な勢いで支持を受けているミーア・キャンベルを見て複雑な心境であった。 おそらく、本物は今、カガリを誘拐してキラ・ヤマトと共に姿をくらましている。 その行方は未だに判明しないし、オーブは連合との同盟締結を白紙撤回して、その理念を維持している。 彼らは今、一体何を考えて、何をしているのだろう。 少なくともユウナの提案を蹴ってザフトに復帰した自分が心配する筋合ではないとわかっているのだが、 どうしても、彼らの行く末も含めて、気にならざるを得なかった。 そんなアスランの気持ちも露知らず、その後姿を見ているルナマリアの近くを、シン、ガロード、ティファと歩いていたレイが通りかかる。 「婚約者と言っても恋愛は自由だ。目の前のチャンスを掴もうとするかどうかはお前次第だ」 レイはボソっと言い残してルナマリアの近くを通り過ぎると、ルナマリアは案の定、アスランの方へ走っていった。 レイ本人としてはアカデミーからの付き合いであるルナマリアのせめてもの応援という意味合いもあったが、 それだけではなく、両者を緊密にさせて、ルナマリアをアスランに鍛えなおさせることによって、 アークエンジェルの戦力のアップを図るという意図があった。 だが、レイの配慮は後日、二重の意味で裏目に出てしまうことになってしまうことになることを、 現在は誰もが知る由もなかったのである。 ガロードは、シンと雑談しながら歩いていると、その目に見慣れた艦の姿があった。 するとその時、後ろから聞きなれた声に呼び止められた。 「おう、ガロード、久しぶりだな」 「ウィッツじゃねーか、一体なんでここにいるんだ?しかもその服…」 「おお、今はプラントの議長さんに雇われててな。その依頼でオーブの代表代行さんの護衛をしてここに来たんだ」 「オーブの、ってじゃあユウナさんが来てんのか?」 「ああ。今はデュランダルのオッサンと会議の最中だがな。  それが終わったらお前らを連れて来いと言われてるぜ。豪華なメシおごってくれるらしい」 すると、仮にもフェイスの勲章を付けた男とタメ口で話しているこのやりとりに 少し目を丸くしていたシンとレイが、ガロードに尋ねる。 「ガロード、お前、本国のフェイスに知り合いいたのかよ」 「お、おう、ちょっと前に知り合ってな」 ガロードは事情を知らないレイの方を見ながら答えに少し窮する。 気まずそうな顔をしているガロードを見たウィッツはシンの方を見て手を差し出す。 「特務隊フェイス所属のウィッツ・スーだ。よろしくな」 「あ、アークエンジェル所属シン・アスカです」 「同じく、レイ・ザ・バレルです」 「ガロードの奴が世話になってるな。バカな奴だけど面倒見てやってくれな」 「いえ、そんなことは・・・」 「ええ、我々の方こそガロードに助けられることが多いです。  彼の奇抜な戦闘スタイルや咄嗟の機転は我々も学ぶところが多々あります」 「そうか、そりゃよかった。お、ティファも一緒か。元気だったか?」 「はい。ウィッツさんも・・・」 ティファに声を掛けるウィッツの姿はシンの頭の中に流れた、とある映像を蘇らせる。 インド洋沖の戦闘の後、ティファが見せたガロード達の世界。 シンはその中に、青いMSに乗るウィッツの姿があったことを思い出す。 (そうか、この人も…) その頃、ディオキアの街のとあるホテルの一室でユウナ・ロマ・セイランと、ギルバート・デュランダルの会合が行なわれていた。 「このようなところにお呼びだてして申し訳ない。プラント議長、ギルバート・デュランダルです」 「オーブ代表代行、ユウナ・ロマ・セイランです」 「このたびは大変でしたな、代表代行」 「いえ、こちらの対処が不十分で我が国に潜伏していたテロリストがミネルバに大きな打撃を与えてしまいました。  この件に関しては大変申し訳なく思っております」 「ラクス・クラインの件、ありがとうございました。まさかオーブに潜伏していたとは…」 「こちらとしては早々にオーブから立ち去って欲しかったのですが、あのような形で国外に出たことは不幸中の幸いでしたよ。  しかし、まさかプラントが影武者を使うとは…いくら彼女の影響力が大きいとはいえいささか驚きました」 「悲しいことに彼女の言葉は私などよりもはるかに強い影響力を持っている。  連合に核攻撃を仕掛けられて、連合への反感、武力行使を求める風潮を押さえるためにはやむを得ませんでした。  何せ、ヤキンの後、彼女は忽然と姿を消してしまったのですからね。我々も大変でしたよ」 「では、我が国の代表を拉致したテロリストの一味の主犯格の1人に本物のラクス・クラインがいることの発表はまだ待った方がよろしいですかな?」 「ひと段落すればこちらから発表するつもりではあります」 「そうですか、わが国としてはとにかく代表の身の安否が気になりますが、  彼らは一体なにを考えているんだか…」 ユウナとデュランダル、2人とも、ラクス・クラインが目障りであることは共通している。 何せ、2人とも、自国の中にいる熱心な信奉者がいつ自分達の地位をおびやかすかわかったものではないだけでなく、その本人も含め、その信奉者達は一体何をしでかしてくれるか予想もつかないのである。 ユウナの脳裏には、式典にアークエンジェルを引き連れて襲撃してきたフリーダム、デュランダルの脳裏には、そのフリーダム強奪の手引きをしただけでなく、当時の最新鋭艦エターナルをも強奪したことが蘇る。 「ところで代表代行。申し遅れてしまい悪いのですが、  そちらのダブルエックスのおかげでユニウスセブンの落下を防ぐことができました。  私も手を打ったのですが間に合いませんで、助かりましたよ。  ですが、あのダブルエックス、率直に申し上げるとオーブが開発したものではありますまい」 「・・・・・・・ガロード達、フリーデンの仲間であるウィッツ氏に私宛の親書を託したことから薄々感ずいてはいましたが、やはり議長も、『あの世界』のことをご存知のようですね」 「易々と信じられるものではありませんがね。ですが彼らの機体は明らかに我々の世界のものとは色々なことが明らかに違う。  現におそらくこの世界で今、最強であろうフリーダムはダブルエックスに破れた。  しかも彼らはナチュラルだ。我々人類にはまだ新しい可能性があるのでしょうな」 「えぇ、彼らは強い。MSの操縦などだけではなく、メンタリティ等も遥かに我らより強いでしょう」 「逆にそのような強さがなければ生きていけなかったのでしょうな、彼らの世界では。  我らはいつまでも地球・プラントで争いをしているわけにはいかない。  ですが、連合にはいまだにブルーコスモスの影響が強く残っており、それを後ろで操る『彼ら』は健在だ」 「まさか『彼ら』の排除も考えていると?」 「安易に排除はできないでしょう。何せ軍需産業複合体、つまりは世界各国の経済に多大な影響力を持っている。  それを何も考えなしに排除したのでは地球圏の経済は大混乱に陥ってしまう」 「では何か手があると?」 「ええ、彼らロゴスを排除した後、混乱するであろう経済、溢れるであろう失業者達、それにより世界が被るであろうさらなる混乱。それを防ぐための私の奥の手がこれです。 名をデスティニープランといいます」 デュランダルが分厚い資料を取り出し、ユウナに手渡す。 それに目を通すユウナは少し顔をしかめながらも、その資料を読み進める。 「まさかこのようなことは可能だとお思いですか、議長?」 「私はそのつもりですが?」 「着眼点はとても面白いものですな。遺伝子レベルでの職業斡旋、とでもいうべきものなのでしょうが、 率直に申し上げればなかなか問題点も多い。これが、斡旋された職業への就職強制であれば話にならない」 「もちろん、それくらいは理系の人間である私にも分かりますよ。  人権団体が騒ぎ立てるどころの話ではないでしょう。各国の憲法問題にも発展しかねない。  他の国に強制したのでは余計な火種をプラントと地球の間に蒔くことになってしまう可能性すらあるし、導入を強制してもおそらく多くの国で憲法改正を要するため、導入自体が否定されかねませんしな。  制度の実効性を期待するには、矛盾するような言い方ですが、各国が任意に決めるしかない。  そもそも、あくまで私が提案する『政策』の1つである以上、議会やプラント全体で話し合って否定されることもありえます。 それに・・・」 「それに、何ですか?」 「異世界から来た彼らを見る限り、遺伝子が人間の全てを決することには断じてならないことは私も重々承知の上です。  プラントに現れたウィッツ君達がいなければプラントは今頃、核の炎に焼かれていたかもしれませんしね」 「まあそこまで卑屈に成るほど悪い政策でもありませんよ。  そういえば議長、先日、月に連合が秘密兵器を建設中だという話を聞いたのですがご存知ですかな?」 ユウナは父、ウナトから連合がプラント殲滅のため、「鎮魂歌」という名の兵器を開発中であることを聞いていた。 ここでその情報をデュランダルにもたらしたのは、デュランダルが言った、ロゴスを排除するというトンでもない決意を知らせてきたことへの礼と恩を売るためであった。 オーブとしてはロゴス排除による混乱を防ぐことも大事であるが、 ユウナは、ロゴス排除後、あまりプラントが勝ちすぎてしまうことでその影響力が地球に必要以上に及ぶことを懸念していた。 現在のように連合が強すぎても、プラントが強くなりすぎても、中立国のオーブとしては面白いことではない。 地球とプラントの力がほどほどの均衡を保つことでこそ、中立国の価値は高まってくるし、上手く立ち回ることで双方への影響力を強くすることができるのである。 「月に秘密兵器、ですか。それは聞き捨てなりませんな」 他方で、デュランダルとしても実際にはその情報を入手していたわけではあったが、連合の圧制が行なわれている地方の解放を大義名分として軍を進めるプラントとしてはダブルエックスというトンでもない切り札を持つオーブを相手にすることは避けなくてはならない。 デュランダルがユウナと実際に話してみて感じたことであった。 故に今はオーブの好意を受けておくことが望ましく、友好的関係を継続することをデュランダルは選んだ。 「それではこちらの方でも情報を集めておきましょう。なにせ、今はオーブから『貸して』頂いたアークエンジェルとガロード・ランが大活躍をしてくれておりまして、少しばかり余裕ができましたので。  インド洋、そしてマハムールのローエングリンゲート、さすが伝説の不沈艦、大天使アークエンジェル。  始めにあの艦が現れたときにはあっさりと動きを止められてしまったようなのですが、一体どんなメンツを集めたのですかな?」 「ふふふ、それは企業秘密ということにしておいていただけますか?」 「なるほど、クルーもオーブの秘密兵器ですか。まあいいでしょう。  本日は有意義な話ができました。デスティニープランの感想も聞けましたし。…それではまた」 「立派なタヌキだな」 デュランダルは部屋を後にして誰にも聞こえないように呟いた。 デュランダルがその部屋の扉を叩く音が聞こえる。 「ウィッツ・スーです。入ります」 扉が開き、ウィッツに連れられたガロード達が部屋に入ってくる。 「やあガロード、活躍しているようだね。それにティファも元気そうで何よりだ」 「ユウナさん、久しぶりだな。ウィッツとフリーデンのみんなと来たって聞いてビックリしたぜ」 「ああ、彼に護衛してもらってフリーデンに乗ってきたんだよ。デュランダル議長に呼ばれてね」 ウィッツがデュランダルから預かった親書の中身。それはディオキアで会談を行ないたく、そこまでの足労を願う、というものであった。 そして、ディオキアへの道中の護衛も兼ねてウィッツを派遣したのであった。 「後ろにいるザフトレッドの2人が今、アークエンジェルに乗ってる君の仲間かい?」 「ああ、シンっていうんだ」 「オーブ代表代行、ユウナ・ロマ・セイランだ、式典の折は護衛と、フリーダムの撃退への協力に感謝するよ」 ユウナの差し出した手に訝しい顔をしながらシンが手を渋々差し出す。 「シン・アスカです」 そしてシンの名前を聞いたユウナは何かを思い出す。 「シン・アスカ君…君か、ミネルバにアスハ代表代行が乗っていたとき、彼女に、さすが奇麗事は、と言ったのは」 「・・・・・・そうですが、それが何か?」 「シン!」 レイがシンを止めようと声を張る。だがユウナはそれを気にしないでくれという素振りをして話を続ける。 「いや、君を責めているわけじゃないんだ。正直、僕も彼女の奇麗事には辟易していたからね。  ウズミ様も理念を唱えるのは結構だが、そのせいで国を焼いてしまったのでは本末転倒も甚だしい。  それでも戦後に僕らが必死になってオーブを立て直したのに、かつての彼女はまた理念に縛られて連合との同盟締結を、理念に反する、ウズミ様の死が無駄になる、と拒んでいた」 シンにとっては少し毒気を抜かれた感じであった。 目の前にいるオーブの現最高責任者ともいうべき男の見解は自分の考えていたことに近かったのである。 少しでも奇麗事を言おうものなら、数倍の罵詈雑言を叩きつけようと思っていたのに肩透かしを食らってしまったようだ。 「ガロード、彼には話したのかい?君のことを」 「お、おう」 「アスカ君は、あの式典の時、オーブが連合との同盟締結を発表するつもりだった、と思っているだろう?  でも違うんだよ。あの時に、同盟締結白紙撤回をオーブは発表するつもりだった。  ガロード達の話を聞いて、彼らの力、ダブルエックスの力を借りることで毅然としてオーブの理念を守っていくことを決意していた。少なくとも今の彼女には理念という妄想が取り憑いてはいない。  君の事はこちらも調べさせてもらったよ。当時のことを許してくれとは言えないが、これからのオーブを憎まないでくれないかな」 「・・・・・・・・・」 シンに即答することはできなかった。 ガロードの話、ということをユウナが言っていた以上、ユウナもカガリも、 ガロード達の崩壊した世界のことを知っているということである。 その上で、ダブルエックスという力を以ってオーブの理念を守っていくという 奇麗事ではない、それなりの現実的なヴィジョンに基づいた方針をオーブは採ることにした。 しかもフリーダムが襲撃してきたとき、カガリが乗ったフリーダムごと自分は撃とうとしてしまった。 正直、ユウナの言うことが本当であれば、あの場面でフリーダムを撃てなかったことは幸いだったのかもしれないと思える。 そして、今まで、シンが憎んできたオーブと今のオーブはかなり違う。 有していたイメージが大きく変わってしまい、自分の考え方の転換を余儀なくされていた。 「イメージは変わりましたよ。少なくともあんたは奇麗事を言うつもりはないみたいだし、あんたの話が正しければアスハも、今はあんたと同じなら奇麗事を言わないだろうしね」 「そうか、でも今はそれで十分だよ」 ユウナはそう言うと、席を立ち上がる。 「今からデュランダル議長と食事会があるんだ。君達も招かれているから着いてきてくれるかい?」 「お、待ってました、メシの時間」 「ガロード、あまり議長の前で失礼のないように頼むよ」 その場で少し笑いが起きながら、ユウナとウィッツに案内されてガロードとシンは デュランダルが待っているという部屋に向かって歩き出した。

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