それは数十年も前の事…

私は覇権争いに敗退し…

力尽き魔力も枯渇し人の姿を保てなくなり…

ちっぽけな獣の姿となって下界をさ迷っていた頃…

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(こんな下界の隅で朽ちる事になるとは…)

私が堕ちたのは下界…もしくは物質界と呼ばれる場所…

そう…人の群れが行き交う赤い塔が建つ大きな街…

人が住まう石の住処の隅で私は野たれ死ぬのを待っていた…

雨に打たれ魔力による傷で動くこともままならず…

ただ消滅するのを…

そんな時だった…


「もう大丈夫だよ…」


自分が濡れるのも構わず私に傘を差して声をかける人の子…

服が汚れるのも気にせずに私を持っていた布でくるみ…

雨の降る中その華奢な体で獣の姿の私を抱え救ってくれた…

私が悪魔だとも知らずに…


「痛かったでしょうね……」


濡れた体を拭き傷の手当までもしてくれた…

人も捨てたものじゃないと嘗ての疑念を払うかの様に…

私は姿を明かす事が出来ずしばらくはその姿相応の振りをする事にした…


「何て呼べばいいかな?……勝手につける訳には…」


私は彼女に擦り寄り名を付けても良い合図を送った…


「本当の名前は解らないから……ワイズって呼ばせてもらうね…」


悪くない名前だ…

私はもう一度彼女に擦り寄りその名前で良い合図を再度送った…


「ワイズ、よろしくね…」


私は彼女の手の温もりを感じ静かに眠りへと堕ちた…


=続=