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都道府県対抗機動兵器決選外伝 青い空、蒼い海

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青い空、蒼い海
~アライド領内旧ニューギニア海域~

ピコーン、ピコーンというソナー音、スクリューが作る泡。
この時代の公用語でshinouと印された白い船体が、
まだ蒼さを保った深度の海中をゆっくり航行してゆく。
前時代の航空母艦。その地位を受け継いだ潜水空母。
護衛艦すら持たない単独航行。
それはこの艦がアライドという軍属でありながら戦争とは全く趣を異にする任を与えられていることを意味していた。

白い巨大空母が「遊泳」する静の世界、海中。
その上では全く正反対である動の世界が繰り広がれていた。
「くたばれ虫野郎!」
アライドの制式機動戦闘機、TRF-15クーガーが海面すれすれの背面飛行で上空目掛け射撃する。
光速で放たれるレールガンの弾道に巨大な「蜂」がグロテスクな破裂音と共に体液を散らし爆ぜる。
「まだだ!そっちに行ったぞ!」
残る3匹の蜂に他の各機も応戦する。
M3マシンガンの銃声と、蜂が発するドスの効いた低い振動音が交錯する。
と、後退しながら応戦する編隊から孤立した機に一匹の蜂が接近した。
「しま・・・」
孤立機のコックピット、そのコックピットではおおよそその場所に似つかわしくない少女が正面上の蜂に照準を合わせていた。
「ロックオン。正面上。」
斉射される左腕部に据え付けられた接近戦用バルカン。

「どうして、何で死なないのよ・・・?」

彼女が張った弾幕は、確かに蜂の巨大なゴーグルのような眼に命中した。
しかし被弾した蜂の複眼は無数のスペアに機能を変換することで全く衰えないままの速度で、少女が駆るクーガーに6本の鉄骨のような足で組み付いた。
「ああああああああああああ!!!!」
衝撃に大きく体を背もたれに打ち付けむせる少女。
「フェルミィ!!」
猫のようなレドーム状の耳を生やしたクーガー。
その頭を蜂の顎がガッツリと咥え、一思いにバリバリと噛み砕く。
カメラパーツを太陽光に反射させながらクーガーの頭が粉々に砕け散る。
コックピット内の光は消え、その閉鎖された空間はコンソールが発する赤青緑の微弱な光が点滅する。
「フェルミィ!!」
「何これ、嘘!?」
メインモニターが潰され暗転したコックピット。
フェルミィと呼ばれた少女は恐怖のあまりレバーをガチャガチャに動かしながら叫ぶ。
蜂の発する耳鳴りのような鳴き声が彼女を冷静沈着な彼女をの正気をかき乱す。
「嫌、嫌あああああああああああ!!!!!」
その視力を失いしゃにむに暴れるクーガーに組み付いたまま、蜂は上体を器用に回転させながら敵の「急所」をまさぐる。
そのぷっくり膨らんだ尻の先端からは濡れそぼった蜂の巨大な針、鋼鉄すら貫通する蜂最大の武器が度々剥き出しになった。
蜂は羽根をはためかせ獲物を捕えたまま、焦らすように乱雑に揺り動かしながら弄ぶ。
コックピットを探しているのだ。
「いやああああああああああああああ!!!!」
ヒステリックに泣き叫ぶフェルミィの、美しいサテンブロンドの髪がもみくちゃになる。
ミサイル、マシンガン、バルカン。
搭載されたありとあらゆる兵器が、体に取りついた蜂を振り放そうと放たれる。
が、その弾は、どれも自機にぴったりと組みついた蜂には当たらず、見当違いな晴天目掛けて虚しく斉射されるのみであった。
「待ってろ今助けてやる!!」
巨大蜂にから逃れようとしゃにむに暴れる僚機の姿と、通信越しに聞こえる正気を失ったフェルミィの悲鳴。
その断末魔とも言える執拗な絶叫に耐え切れなくなった一機が交戦中であるにもかかわらず加速する。
「トリガー7、後に付かれてるぞ!!」
「わかってます!!引き離してフェルミィも助ける!!」
「カイト!!」
隊長機の怒声に呼応するかのようにブースターの青い炎を全開に追撃をかける三番機。
「間に合えええええ!!!!」
Gの衝撃に操縦桿を握り締め歯を食いしばるパイロットの少年。
ロックオンと同時に放たれたニードルミサイルがフェルミィに取りついた蜂に撃ち込まれた。
比較的装甲の薄い蜂の尾部に槍状の弾頭を撃ち込まれても尚、全く動じない昆虫特有の強靭な生命力。
だが、しかし・・・
「「マーク! 二次ロック完了。バースト!」
彼の人差し指で再び引かれたミサイルのトリガー。
その瞬間蜂の尾部はブチャブチャという破裂音を撒き散らして体液を撒き散らしながら内部から爆散した。
残った上半身がフェルミィから離れ海面に墜ちていく。
「ふぅ・・・間に合った・・・」
至近距離で爆散して蜂の体液まみれになったクーガーを保護したカイトは、海面に没した蜂を見届けるとため息混じりに呟いた。

「よくやったカイト」
カイトを追っていた最後の蜂を撃墜した隊長機がカイト機の横に静止した。
「ありがとうございます。」
フェルミィ機を抱き抱えながらカイトのクーガーは頭(こうべ)をあげた。
「だがしかし、もうそんな無茶はやめろ。その戦い方がいつか君を殺す。いいな?」
「はい!」
ハキハキと返事をする新米パイロットに一抹の危うさを覚えながらも、優しく労いの言葉をかける隊長。
その横のモニターにはもう一人の彼の部隊の新人パイロット、フェルミリカ・アンジェ少尉の寝顔も写されていた。
気は失ってはいるが大事にはいたっていないようだ。
「フェルミィが無事だったんだ。まあよしとするさ。」

「アルヴィン隊長!」
一機の機影がしぶきをあげて海上から上がってきた。
この戦闘を蜂が立ち入れない安全な海面下から終始観測し、データ収集を行っていた特殊兵装のTRF-16シルヴァーフォックス、この戦闘機部隊に属する一機であった。
「ナインテール。、ボルヒェルドか。どうした?」
フェルミィ機を回収したアルヴィンは長年信頼を置いてきた副官の慌てた様子にすぐに気付いた。
「深櫻から緊急通信です。ディープ・ハウンズがまた現れたようです。」
「わかった。ジル達に牽制させるよう伝えろ。フェルミィ機収容後我が小隊もすぐに向かうと。」
「了解!」
そして負傷機を抱えた3機のTRF(トリニティ・ロール・ファイター)は海中にダイブした。


「トリガー2から通信よ」
水色のパイロットスーツのジッパーを胸下まで下ろし、気だるげに吸い上げたドリンクのストローを離す。
「舞葉。どうせ、わかってるんだからね。」
ポニーテールに束ねたオレンジ色の髪を、パイロットスーツと同じ水色のヘルメットが覆う。
「ジル・フィッツジェラルド大尉以下、第二小隊は深櫻発艦のち、ディープ・ハウンズの妨害行為から深櫻を守りつつ対象を牽制。ただし」
「発砲は許可できない。でしょ?」
ドリンクを固定具に戻しパイロットスーツのジッパーをあげるジル。
「もう、先に言わないでください!」
ブリッジモニターに映る管制官の少女が不機嫌そうに頬を膨らませる。
「だってこれでもう何回目よ?、はあ・・・」
そう言ってジルがだるそうにコックピット上、横一列に並ぶスイッチレバーを次々に倒す。
と、先程までこの狭いコックピット内に流れていた洋楽が止み、モニター領域が一気に広まり彼女のTRFが起動する。
目の前に広がるのは待機していた深櫻の格納庫。艦載機一機ごとに設けられた小部屋状のハンガー。
「まあいいわ、早く降ろして。」
「了解しました。ハッチ解放します。」
前方の巨大な対水圧扉がゆっくり上下にスライドしていく。
どっと押し寄せた海水がハンガー内に流れ込み、駐機中の彼女の乗機TRF-14ボブキャットを膝下まで浸らせる。
ハンガーに押し寄せる水位は尚も増し、彼女の愛機を水槽のように海水で完全に満たした。
「さて、行きますか。」
踏ん張るようにかすかに力んだボブキャット。
ジルは確かめるようにもう片方のレバーを今一度しっかり握り締め、ゆっくり押し倒すと、
泡を吐きながら愛機がゆっくり歩き出す。
その先の海水に満たされた区画には、対水圧潜水服を着込んだクルーが電光灯を肩の上で振りながら、
他のボブキャットをカタパルトまで誘導している姿が見えた。
その先には光誘導のラインが照らす薄暗い中深度の海中が広がっている。

「つまらない牽制ごっこがまたはじまるのね。」

ジルは下で自機を誘導するクルーに従いカタパルトに歩を進める。
「カタパルト固定完了しました。発艦後は速やかにトリガー9、トリガー6と編隊を形成し指定ポイントまでの急行を願います。」
舞葉の表情はさっきとは打って変わった真剣なものになっていた。
「了解してるわ、トリガー7、ジル・フィッツジェラルド機、発艦します。」
足元から離れた誘導員が据え付けられた手すりにしがみつくと、
ゴポゴポと泡が渦巻きジルのボブキャットが蒼い闇の中へ飛び出していった。
深度100メートルの海中を突き進む三機のTRF(トリニティ・ロール・ファイター)
機動接近戦に長けたボブキャット2機。
その後ろを追従する灰色の一回り小さな機体は軽量支援機TRYF-35ジャガランディである。
「フィッツジェラルド機より2小隊各機。我が隊は編隊を維持しつつ対象へ接近する。」
「了解。」

大変動以後の地上を支配する巨大な甲殻スズメバチ「バリアント」
この南極の地下深くから目覚め瞬く間に生存圏を広げたこの怪物との実戦データの為に編成されたのが、
深櫻所属実験戦闘隊「トリガー隊」なのだが、
ジルを小隊長とする彼ら第二小隊が今接敵しようとしている者は恐るべき殺人蜂ではなかった。
「何で私達があんなハエみたいな奴らの見張りをしなきゃならないのかしら。」
『ディープハウンズ接近、リカオン、6機です』
舞葉から送られてきた鮮明な敵機映像には黒と黄色のTRFが映り込んでいた。
「リカオン?ユニオンの最新鋭機かよ」
ジル機の後を追従するジャガランディのパイロット、エミリオ・カレン少尉が舌打ちする。
「黙っててエミリオ。」
ジルは不機嫌そうに眉をしかめるとオープン回線のスイッチを押し込んだ。
「前方より接近するリカオン各機に告ぐ。本部隊はアライド所属深櫻実験戦闘隊。
本部隊は現在上空でバリアントの調査戦闘中である。ただちに反転し本海域から離脱されたし。」

ある程度距離が迫ったジル達三機と相手のリカオン部隊は互いを正面に捉えたまま孤を描いて遊泳する。
「聞こえてないの!?」
「連中わかっててやってるんですよ。」
苛立ちを隠しきれずに声を荒げるジルとは対照的にユーリは冷静だった。
自然回帰主義を掲げる私設武装勢力「ディープ・ハウンズ」
地上は人類だけのものではない。
行き過ぎた環境汚染が大変動を促し、結果人類は地上を失った。
かつて太古の地球で清浄な繁栄を築いたというバリアント。
そのバリアントによる原初の秩序への回帰を謳う彼らは、海底から地上への人類種の帰還をめざすアライドを敵視し、幾度もの妨害活動を行ってきた。
「繰り返す。ただちに・・・きゃあっ!!」
衝撃に思わず悲鳴をあげるジル。
リカオンは正面に据えたジル機目掛けて何の躊躇いもなく魚雷を撃ち込む。
「大丈夫かジル!!なろうッ!!」
エミリオのジャガランディが振動刀を構えジル機の前に出る。
「撃ってきたのはあちらだ。こちらも応戦できる!!」
超長距離から両者の邂逅を観測していたボルヒェルトが叫んだ。
「その為にナインテールを連れてきたのさ!」
フェルミィを連れ帰ったアルヴィンとカイトのクーガーが上天から現れた。
「隊長!!」
「よくこらえたなジル。」
「ハウンズの愚行、この超長距離からもしっかり記録できました。
これでもう統治評議連に文句は言われない。」
ボルヒェルトが声を弾ませながら言う。

「これで戦力差は5対6、ほぼ五分です。貫樹舞葉管制官!」
ユーリ機も腰にマウントされたニードルガンを手に取る。
舞葉が傍らの管制官に確認をとる。
『ナインテールからの映像受信完了です。各機応戦してください。』

戦略支援実験機ナインテール。
アライドが有するカサンドラ級イージス潜とも遜色ない広域レーダーを搭載するこの電子支援機が、
今まで喉から手が出るほど欲しかった不明瞭な先制攻撃の証拠を押さえることに成功したのだ。
「各機交戦7を許可する!!」
アルヴィンと彼の駆るクーガーの咆哮を皮切りに、深櫻艦載機部隊による苛烈な正当防衛が始まった。


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