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深淵の冷熱

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匿名ユーザー

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雲1つない快晴の空から降り注ぐ眩い陽光が、遥か彼方まで続く真っ青な海を照らし出している。
そんな優しげなそよ風に揺れる海面の数メートル下で、全身を黄緑色の鱗で覆った1匹の雄龍と、キラキラと水中に差し込む陽光を反射する紫色の雌海竜が戯れるようにして泳いでいた。
彼らはほんの数日前、大陸棚の水底にその口を開ける海中洞窟で出会った新たな番い。
水を掻き尾を靡かせて泳ぐ龍と大きな胸ビレを巧みに操ってその身を躍らせる海竜は、種族こそ違えど互いに深い理解と愛情を交わし合った仲だった。

初めて海竜と過ごした幻想的な一夜から3日後、ワシはすでに日課となりつつある妻との狩りにでかけていた。
ワシがかつて住んでいた湖とは違い、この海には実にたくさんの獲物となる魚達が住んでいる。
だがこの数日間妻とともに過ごして学んだことは、海で魚を狩ることがいかに難しく、そしてワシがいかに井の中の蛙だったかということだった。
何しろ、このワシではただの1匹も魚を捕まえることができぬのだ。
元々は水中に住んでいただけにワシも魚を獲ることにかけては自信があったものの、海の魚達は速い潮流に逆らって長距離を泳ぐことが多いせいか非常によく鍛えられていた。
振り翳される爪や牙をヒラリヒラリとかわしながら、群れを成す魚達が表情1つ変えることなくワシのすぐそばを悠々と泳ぎ回っている。
「ウヌッ・・・待て、このっ・・・ええい、ちょこまかとすばしっこい奴め・・・」
挙句の果てには周囲をグルグルと泳ぎ回って散々ワシを弄んだ末に、まるでつまらぬ奴だとばかりに大勢の魚達が手の届かぬ遠くへと泳ぎ去っていく。
「お、おのれぇぇ・・・」
「フフフフ・・・お前は相変わらず狩りが下手なのだな」
「うぐ・・・ま、まだ海の魚達に慣れておらぬのだからしかたなかろうが・・・」
そんなワシの苦しい言い訳を聞いて、彼女の顔に悪戯っぽい笑みが広がる。

「それなら、私が狩りの仕方を教えてやる。よく見ていろ」
彼女はそう言うと、先程ワシが取り逃がした1匹の魚を追いかけ始めた。
そしてその長い体を上手く使って獲物の退路を断ちながら、彼女が一瞬の隙を突いて一気に魚に食らいつく。
バクッ
「おおっ!」
その手際のよさに、ワシは思わず感嘆の声を漏らしていた。
「フフ・・・どうだ、お前もやってみるがいい」
捕えた獲物をゴクリと丸呑みにしながら、彼女がワシのそばを泳いでいた別の魚へと得意気な視線を向ける。
「ウヌヌ・・・よし、見ておれよ」
雄として、狩りの腕だけは妻に譲るわけにはいかぬ。
ワシは胸の内でそう呟いて自らを奮い立たせると、呑気にワシの目の前を通り過ぎていく1匹の魚に襲いかかった。
突如として自分に向けられた殺気を読み取ったのか、大きな魚眼に驚きの色が浮かぶ。
だが力強い尾ヒレを躍動させてその場から逃げようとする魚の前を揺らめかせた長い尾の先で遮ってやると、逃げ場を失ってパニックに陥った憐れな獲物がワシの手の届く所をフラフラと逃げ惑った。
「ふんぬっ!」
思わずそう声を上げてしまう程に力みながら、まるでこれまで虚仮にされた怒りを全て叩きつけるかのように魚に向かって思い切り腕を振り下ろす。
バシッ
そして海中に響いた小気味よい手応えとともに、ワシは初めての収穫となる海の魚をその手で掴み取っていた。

「グ、グフフ・・・どうだ!見ておっ・・・」
だが大きな達成感とともに妻に向かって獲った魚を見せつけようと振り返った刹那、パクッという音と軽い衝撃を残して手にしていた魚の姿が消える。
何時の間にか背後から近づいてきていた妻が、やっとの思いで手に入れたワシの獲物を掠め取っていったのだ。
「な、何をする、それはワシの獲物だぞ!待て、待たぬか!」
予想だにしていなかった不意打ちに慌てて不届きな海竜の後を追いかけながらそう叫んだものの、肝心の妻の方はというとワシが怒った様子を楽しむようにチラチラとこちらを振り向きながら逃げていく。

もう少し・・・もう少し・・・
徐々に詰まっていく海竜との差をじっと睨みつけながら手を伸ばして見るが、その度に紫色の滑らかな体がグンと加速する。
このままでは、いくら追いかけてもまるで妻を捕まえられる気がしない。
そして10分ほど妻を追いかけ続けてようやく遊ばれていたことに気が付くと、ワシは追うのを諦めて疲れ切った体を冷たい水中に漂わせた。
そんな悔しさと疲労で全身を上下させながら呼吸しているワシを面白げに見つめながら、妻がワシの目の前で口に咥えていた魚をゴクリと飲み込む。
「フフ・・・この程度で諦めるとは、情けない奴だな」
そう言いながら躍るように身をくねらせる妻を眺めながら、ワシはふっと自虐的な溜息をついた。


さすがは海竜というべきか、殊に水の中となれば、何をやっても彼女には全く勝てる気がせぬ・・・
だが満足げに勝ち誇った顔を桃色に上気させながら泳ぐ彼女の美しさに見とれて、ワシは胸の内に燻っていた怒りの炎が一息に吹き消されてしまったのを感じていた。

その日の夜、ワシはいつものように妻の腹下に組み敷かれながら一方的な愛の抱擁を受けていた。
肉棒ほどではないにしろ多少は敏感な四肢の付け根を、ぬめりを帯びた胸ビレと真っ赤な舌先が擦り上げていく。
ヌリュッ・・・チュルッ・・・
「うく・・・う、うぅ・・・今日もそなたは相変わらず・・・執拗にワシを焦らすのだな・・・」
「フフフフ・・・お前と会う以前、私の唯一の楽しみは快感に悶える雄の顔を見ることだけだったからな・・・」
「それで今度は、獲物を横取りされて狼狽える雄の顔が見たくなったというわけか・・・むぬ・・・」
図星を突かれたのか、妻がそんなワシを黙らせるように口を重ねてくる。
そしてワシの舌を自らの細長い舌で絡め取ったかと思うと、今度はぎゅうっと遠慮なく締め上げてきた。
「うぬぬ・・・むぅ・・・」
長い長い口付けと終始ワシの体を撫で回し続けている胸ビレの愛撫が、これまで何の刺激も与えられていなかった肉棒へと活力を注ぎ込み始める。
チュパッ
「ふぅ・・・ふぅ・・・」
「フフフ・・・さて・・・そろそろお前も待ち切れぬのだろう?」
クチュッという、既に聞き慣れてしまった妻の発する最も卑猥な水音。
ねっとりと濃厚な愛液を溢れさせる海竜の膣が、無力な獲物と化した肉棒を飲み込もうと大きな口を開けている。
「フ、フン・・・悔しいがその通りだ・・・さあ・・・早くしてくれぬか・・・」
その答えに満足したのか、妻は早くもうっとりとした恍惚の表情を浮かべながら張り詰めたワシのモノを蜜の滴る秘肉の奥深くへと埋めていった。

ズズ・・・ズズズッ・・・
「おお・・・」
焦らしに焦らし抜かれて熱く滾っていた肉棒が、心地よい摩擦とともに彼女の中へと入っていく。
だがいつも以上にじわじわと雄を追い詰める前戯に没頭し過ぎて妻の方も待ち切れなくなっていたのか、ワシはまだ肉棒を完全には咥え込まれていないうちからきつい歓迎を受けることとなった。
ギュッ・・・グギュッ
唐突に力の入った圧搾をまともに食らい、肉棒を押し潰されるような苦痛にも似た鋭い快感が背筋を駆け抜ける。
「くあっ・・・も、もう少し優しくしてくれ・・・」
「このくらい大したことはないだろう?初めて私と会った時の威勢は一体どこへ行ったのだ」
そう言うと、妻は相変わらずワシのモノをきつく締め上げたまま体を左右へと揺さ振った。
ズッ・・・グリュ・・・ズブッ・・・
その艶かしい動きのお陰で、今度は肉棒の先端が肉襞にしゃぶられる快感と彼女の最奥を突き上げた感触が同時に味わわされる。

「うああっ・・・お、おのれ・・・このワシがいつまでも下手に出ているとはおも・・・はぁぅっ・・・」
「フフフ・・・何だ、よく聞こえぬぞ?もう1度言ってみるがいい」
ほんの少し膣を震わせるだけでワシの反論を封じられることに満足したのか、妻が妖艶な笑みとともに聞き返してくる。
だが少しでも妻に逆らおうとすれば、また黙らされてしまうだろうことは火を見るより明らかだった。
「く、くぅぅ・・・」
「フフ・・・それ、虚勢を張る暇があるのならそろそろ出さぬか」
グシュッ・・・ヌチュ・・・グチュッ・・・
「ぐむ!?む、むぐぅぅ~~~~!」
今まで断続的に戦慄いていただけの膣が妻の言葉とともに突然牙を剥き、限界まで精を溜め込んで膨れ上がったワシの肉棒をこれでもかとばかりに蹂躙する。
それと同時に上げかけた嬌声が熱い口づけで封じられ、ワシは彼女の強靭な胸ビレで押さえつけられた両手を痙攣させながら屈服の精を放っていた。
ビュビュッ・・・ビュルル~・・・
グチュッズチュッゴシュッグリュッ
「ん~!ん~~~!」
絡ませた口越しにワシの顔を覗き込む妻の眼を見つめながら、ワシは射精してもなお止むことのない執拗な責めに唸り声を上げながら動かせぬ体を必死で捩っていた。

「ぐ・・・は・・・あぅ・・・」
例によって最後の1滴まで白濁の雫を搾り取られた頃、ようやく妻がワシの口を解放する。
そしてやや不満そうに鼻息をつくと、ワシの耳元へとその細長い舌を這わせ始めた。
「フン・・・今日も落ちぬか。やはりお前のその精神力だけは、これまで見てきたどんな雄竜よりも強いらしい」
「め、雌の責め如きにいちいち気を失っておったら・・・命がいくつあっても足りぬのでな・・・」
その後に"特にそなたのような雌には"と付け加えようとして、寸での所で思い留まる。
流石に、今日はもう疲れた。
これ以上妻を逆撫でして無用な体力を使うよりも、このまま彼女とともに眠った方がよいだろう。
「さあ、今日はもう眠るとしよう・・・たまには、ワシに休みをくれてもよかろう?」
「そうだな・・・それなら、明日はよい所へ連れて行ってやろう。私の、お気に入りの場所だ」
そう言って、彼女がワシの口にそっと口づけする。
それに応えるようにようやく離してもらった両手で彼女の体を抱き締めると、ワシは待ちに待った24時間振りの休息に身を委ねていた。

翌朝、ワシは妻とともに沖合いへ向けてゆっくりと泳いでいた。
今日は、妻がワシをどこかへと連れていってくれるらしい。
何度行き先を聞いてみてもはっきりしたことは教えてもらえなかったが、淀みなく泳ぎ続ける彼女の様子を見れば割と足繁く通っている所だろうことが窺える。
時折朝食代わりに小魚を獲りながら30分程泳ぎ続けると、やがてすぐ下に見えていた海底が急に絶壁を迎えたかのように深く落ち込んでいた。
「何だこれは・・・?」
「フフ・・・これが、本来の海の深さというものなのだ。お前の住んでいた湖などとは比較にならぬだろう?」
「う、うむ・・・それにしても、まるで底が見えぬとは・・・」
だが自然の壮大さの一端を垣間見てたじろいだワシを眺めながら、妻がその底知れぬ闇の中へと潜り始めた。
「なっ・・・ま、まさかここへ潜るのか?」
「どうした・・・怖気づいたのか?フフフ・・・」
クルリと体を仰向けにしてワシの方へと顔を向けながらも、ヒラヒラと水を掻く大きな胸ビレが彼女の体を深い深い深淵へと誘っていく。
「うむむ・・・わ、わかった・・・付き合えばよいのだろう?」
ワシはまたしても妻に遅れを取ったものの、ゴクリと唾を飲み込むと妻を追って暗い海中へと潜っていった。

かつてワシが住んでいたあの山の湖は、どう見積もっても精々100メートル程度の深さしかなかったはずだった。
だがここはいくら潜ってみても微かに濁った水と薄れゆく日光のせいで、一体どの位の水深があるのかなど皆目見当もつかない。
大陸棚の崖に沿って降りていくうちに日の光も段々と弱々しくなり、今ではワシの少し下を泳いでいる妻の後姿を微かに感じられる程度にまで辺りが暗くなっている。
「む・・・?」
2、300メートル程も潜った頃だろうか、ワシは突然辺りの水温が一気に冷たくなったのを鱗越しに感じていた。
それと同時に海水の透明度が増し、口に含んだ海水もより塩辛くなっている。
まるで見えない境界があるかのように、ほんの数メートル上とワシが今いる場所では急激に環境が変化していた。
「むぅ・・・まるでこの世の果てを見ているかのようだ・・・」
初めて足を踏み入れた深海の水圧は多少苦しい程度にしか感じぬものの、どんどんと際限なく暗くなっていく辺りの様子には流石のワシも不安を隠し切れなかった。

だがハッと我に返って下を見つめると、赤毛を靡かせた妻の尾の先が暗闇の中へと消えかけている。
「ま、待ってくれ!」
慌てて彼女を追い始めたワシの姿を見て、彼女が手のかかる弟を見つめるような視線をこちらへと向けた。
「フフフフ・・・どうだ、今まで見たこともない景色だろう?」
そう言いながら、上も下もほとんど薄暗い闇に覆い尽くされた空間で彼女が胸ビレを広げる。
「確かにそうだが・・・ここがそなたの言っていたお気に入りの場所なのか?」
ようやく妻に追いついてそう尋ねると、彼女がゆっくりと首を振った。
「それはまだもう少し先だ。きっとお前も気に入ることだろう。それに・・・私の目的も果たせるしな・・・」
まだここから更に深く潜るのか・・・
意味ありげな笑みを浮かべながら再び潜り始めた彼女を追いながら、ワシは胸の内に大きな不安と小さな期待を同居させていた。

もう、どれくらい先の見えぬ闇の中を潜ってきたのだろうか・・・
他の生物達に比べれば幾分かは鋭いはずの知覚も、辺りを覆い尽くした冷水と暗闇に麻痺してしまっている。
だがほとんど妻と並ぶようにして潜り続けているうちに、今度は水温が突然高くなったような気がした。
「フフ・・・そろそろ着く頃だ」
「あれほど冷たかった水が突然温かくなったが・・・一体どこに着くというのだ?」
「いいから、あれを見てみろ」
そう言いながら妻が見つめている先に、ワシもつられるように視線を向けてみる。
そこには、サラサラと舞い上がる泥と岩で覆われた深海底が広がっていた。
小さな地を這う生物達が輪を描くように無数に辺りを練り歩いていて、その中心に筒型の岩のようなものが突き出している。
そしてその天然の岩筒から、美しい青色に輝く熱水がモウモウと煙のように噴き出していた。
「なんと・・・」
さらによく目を凝らしてみると、どうやら熱水を噴き出す岩場はそこかしこに点在しているらしい。
勢いよく噴き出している不思議な熱水は青の他にも透明なものから真っ黒なものまで、実に色とりどりの煙となって海底の水温を著しく上昇させている。
「不思議な光景だろう・・・?私はこの、自然の作り出した神秘的な景色が好きなのだ」
「ああ・・・これは確かにそなたの言う通り、神秘的の一言に尽きるな・・・」

海底からまるで噴水のように勢いよく噴出している熱水は、地下を巡るマグマに含まれた水分が深海の高水圧によって摂氏100度から300度近い高温を保ったまま沸騰せずに海中へと流出しているものである。
熱水の主成分には実に多様な硫化化合物が含まれており、それが海中に噴き出した瞬間激しい科学反応を起こして様々な色素を持った物質を作り出すのだ。
大抵は透明か白、黄、黒といった目立たない色になることが多いが、稀に美しい青色になることもあるという。

ワシはしばらくの間その別世界にも思える温かい海底を泳ぎ回ると、じっとワシを見つめていた妻のもとへと戻っていった。
「気に入ったか?」
「ああ・・・心地よい温水に撫でられて、溜まった疲れがまるで洗い流されていくかのようだ」
ここへ来る途中ではあれ程先の見えぬ不安に苛まれていたというのに、ワシは今、ここへ連れてきてくれたことを妻に感謝していた。
「フフフ・・・それはよかった・・・では、そろそろ始めるとしよう」
「始める・・・?一体何をしようというのだ?」
「何をだと?子作りに決まっているだろう。私はその為に、わざわざお前をここへ連れてきたのだからな」
そう言いながら、妻が逃げられぬようにか自らの体をワシの尾にクルリと巻き付ける。

「子作りだと?そ、それは構わぬが・・・ここでする必要があるのか?」
「そう・・・ここでなければならぬ。海竜は深海の高い水圧と温かい水の中でしか、子を孕むことができぬのだ」
その言葉を聞いて、ワシは自分の顔に驚きの表情が浮かんだのを感じていた。
龍であるワシにとっては俄かには信じ難い話だが、これまでにも多くの雄を"食って"きたというのに彼女が全く子を産んでいないのは、そういう理由があったからなのだろう。
「なるほど・・・ワシはまたしても、そなたにまんまと謀られたというわけだな」
「わかってくれ・・・私の責めに耐えられる雄でなければ、ここで私とまぐわうことなどできぬのだ・・・」
確かに誰の目にも触れず、誰の手も届かぬこの深淵で気を失ってしまえば、恐らくそれはもう死を意味している。
妻にしてみても住み処で気を失った雄を海に放り出すことくらいはできるのだろうが、ここから大陸棚の上まで気絶した雄を運ぶことは流石にできないのだろう。

つまり・・・これは彼女の精一杯の気遣いなのだ。
本当のところは子供が欲しくて欲しくて仕方がなかったのだろうが、その為に父親となる夫の命を危険に曝すことは彼女にはどうしてもできなかったのに違いない。
だからこそ、彼女は住み処に迷い込んだ雄を試すようなことをしていたのだろう。
半ば強引にワシの体を絡めとって泥に覆われた海底に横たわってはいるものの、妻は妻なりに夫であるワシの身を案じてくれている。
彼女のその複雑な心境を隅々まで理解すると、ワシはシワを寄せていた顔を綻ばせた。
「いいとも・・・ワシもそなたを愛した身だ。これがそなたの願いだというなら、遠慮など一握りも要らぬ」
「フフ・・・お前の言葉に目頭が熱くなったのは、これで2度目だぞ・・・」
彼女はそう言うと、その胸ビレでワシを抱き締めながら興奮にそそり立った肉棒を熱く蕩けた膣へと飲み込んだ。

グブ・・・グ・・・ブ・・・
「う、うぬ・・・く・・・」
水中でゆっくりと口を開けた彼女の秘裂に肉棒が飲み込まれると、桃色がかった愛液が膣からジワリと溢れ出して辺りを漂った。
これまでに何度も住み処で行ったそれとは違う、新たな命を創るための妻とのまぐわり。
その興奮による火照りのせいなのか、それとも暗い海底を覆い尽くした温水のせいなのかはわからなかったが、まるで全身が燃えているかのように熱い。
更には全身をギシギシと締め付けるような強烈な水圧が、快楽に弛緩したワシの体に襲いかかってくる。
「・・・大丈夫か・・・?」
うっとりと目を閉じたままでもワシに起こった異変は感じ取れたらしく、妻が耳元でそう囁いた。
「う、うむ・・・泳いでいる時はそうでもなかったが・・・気を抜くと押し潰されそうだ・・・」
「私の見込んだ夫だ。信じているぞ・・・」
睦言のように微かな妻の声が耳に届いた瞬間、彼女の膣が少しずつワシのモノを締め付け始める。
決して激しくはないが濃厚なその快楽に、ワシは声を押し殺して喘いでいた。

「く・・・ぅぅ・・・・・・はぁっ・・・」
次々と押し寄せてくる耐え難い快感を捻じ伏せるべく妻の体をきつく抱き締めると、ワシの肉棒を捕えていた彼女の体が上下に波打ち始める。
淫靡な水音を立てることなく強制的な抽送が繰り返され、ワシは否応無しに快楽の坩堝へと沈められていった。
「あ・・・あぐぐ・・・かは・・・・」
一体、何という心地よさなのだ・・・地上でまぐわった時とはまるで・・・まるで何もかもが違っている。
生命を宿そうとする彼女の本能がそうさせているのか、それともこの温かい海水に昂ぶった体温がワシの五感を鋭敏にしているのか、ワシはねっとりと絡みつく彼女の肉襞にどうしても抗うことができなかった。
グジュッ・・・ギュグッ・・・
「うあああっ・・・た、耐えられ・・・ぬ・・・」
サラサラと舞い上がる細かな砂埃の中で、ワシは想像を超えた快楽に身を捩っていた。
だが妻の方も、ワシから子種を搾り取るまではどうしても離してくれそうにない。
この闇の中でも判るほどに妻の顔は紅色に紅潮していて、理性などはとうの昔に膨れ上がった性欲の陰へと埋もれてしまっているらしかった。

「があ・・・ぐ・・・ぐあぁ」
今更離してくれなどとも言えず、ワシはただひたすらに体内を巡る白濁の奔流を待ち侘びていた。
だがいつもなら半ば無理矢理に近い形で精を搾られるというのに、今回に限っては何時まで経ってもとどめの一押しがやってくる気配がない。
「早く・・・終わらせてくれ・・・い、意識が・・・遠くなっていくようだ・・・」
「ま、まだだ・・・より強い子孫を残すには、もっともっと濃厚な精が必要なのだ・・・」
自身も絶頂の予感に震えているのか、彼女は必死でワシの体をその胸ビレで抱き締めていた。
やがて、緩やかに上下動を繰り返していた体の動きが不意に止まる。
肉棒の先端がほんの少しだけ膣の中に咥えられ、愛液に塗れた雄の大部分が海水中に曝されていた。

「ど、どうしたのだ?」
「まだ・・・燃え足りぬのだ・・・辛いだろうが、もう少し我慢してくれ・・・」
その直後、膣の両側から生えていた彼女の小さな尾ヒレ・・・
ワシの肉棒よりもほんの少し長い程度の薄い襞が、限界を間近に迎えたワシの怒張を左右からそっと撫で上げた。
「ぬわあっ!」
それはかつて味わったことのない、究極的とも言える甘美な刺激。
力強く扱くでもなく、荒々しく擦り上げるでもなく、ただただ切ない、それでいて後を引くような極上の快感だった。
「こ、これ・・・は・・・うああっ・・・」
ヒラヒラとまるで羽毛の束で弄ぶかのように、彼女の尾ヒレが到底御し難い刺激を次々と肉棒へ流し込んでくる。
その筆舌に尽くし難い苛烈な責めに、ワシは大きく目を見開いてはピクピクと全身を痙攣させていた。

「そ、そろそろ・・・いくぞ・・・」
朦朧とした頭の中に彼女の声が微かに聞こえ、ワシは危うく手放しかけた意識の切れ端を何とか引き戻していた。
声を出そうとしてみても、擦れた息とともに小さな泡がコポコポと闇の空に昇っていくばかり。
返事をする代わりに彼女の暖かい体を摩って続きを促すと、生殺しの責め苦を受けていた肉棒が再び熱い生命の苗床へと吸い込まれていった。
ズリュゥッ・・・グリュッ・・・
「・・・が・・・っ・・・・・・!」
限界まで膨れ上がった雄が根元まで飲み込まれた次の瞬間、ワシは今度こそ本当にとどめとなる激しい圧搾を味わわされた。
耐える暇や余力などあるはずもなく、これでもかとばかりに溜め込まれていた濃厚な精が一瞬にして爆発する。
そして彼女の膣では受け止め切れなかった大量の白濁が結合部から飛び出し、白い雲となって辺りを浮遊した。
ビュク・・・ビュルッビュルルルッ・・・
「ぁ・・・ぅぁっ・・・」
だめだ・・・と、とても意識など保って・・・は・・・

だがいよいよ意識が深海の底よりも深い暗闇に消えかけたその時、唐突に口内に侵入してきた妻の舌がそれを押し留めた。
塩辛い海水と興奮に沸騰した唾液が交じり合い、ワシの崩れかけた気力の堤防を急速に塗り固めていく。
"耐えるのだ・・・今この一瞬を奮わずして、お前は一体何のための雄か・・・!"
それは、妻の声だったのだろうか・・・それとも、霞んだ意識にワシの雄としての本能が囁きかけたのだろうか?
ワシは見開かれたまま生気の抜けていた眼に光を取り戻すと、ガバッと妻の体を抱き締めた。
ドクンドクンという脈動とともに震える彼女の膣に、新たな命が宿った実感がある。
「フ・・・フフフ・・・流石は、私の夫だな・・・」
「よく言うわ・・・弱みにつけ込んで意識の薄れゆくワシを無理矢理焚きつけおってからに」
それを聞いた妻は思わず口づけを解いてワシから顔を離すと、ばつが悪そうに俯いた。

「そ、そうだな・・・いくら我が子を作るためとはいえ、私はお前を随分と苦しい目に遭わせてしまった・・・」
妻は、ワシに嫌われることを恐れているのだろうか?
自らの顔を隠すというよりは寧ろワシの顔を正視できないといった様子で、妻が小刻みに震えている。
「酷い妻だな・・・私は・・・」
「何を馬鹿なことを・・・言ったはずだ、ワシはそなたの気丈で素直な性格が気に入ったのだと」
そう言いながら俯いていた妻の顔をこちらへ向けると、ワシは努めて穏やかな声で彼女に囁いた。
「女々しい態度はそなたには似合わぬぞ。さあ・・・光の下へ戻るとしよう」
「フン・・・私は相変わらず、お前の殺し文句にだけは逆らえぬな・・・」
ワシはしばらくの間その場で体を休めると、妻とともに住み処へ戻るべく暗い海の底から浮上していった。

ようやく大陸棚の崖の切れ端が視界に入ってきた頃、波に揺れる海面は夕焼けに照らされて様々な色を万華鏡のように煌かせていた。
朱と、茶と、橙と、群青と、そして少々の闇。
えもいわれぬ美しい光景だった・・・深海の底で目にした色とりどりに煙る熱い噴水も、この眼前に広がる無邪気な水彩画も、自然が作り出したものに醜い物などありはしない。
そしてワシの背後をしっとりと泳いでいる妻の内には、自然の主である神が創りし無形の命が宿っているのだ。
ワシは波風のあまり立たぬ湖では到底目にすることのなかったその芸術作品から無理矢理に目を引き離すと、終始無言だった妻の方へと視線を振り向けた。
まだ小さな疼きしか感じないはずの下腹を慈しむように、彼女がその大きな胸ビレを添えている。

「どうかしたのか?」
「この子の・・・名を考えていたのだ」
「名か・・・そう言えば、ともに暮らし始めて数日が経つというのに、ワシはまだそなたの名を知らなかったな」
その言葉に些か驚いたのか、妻がまだ微かに紅みの残った顔をワシへと向ける。
「私の名は・・・ナギという。他の仲間達から名付けられたのだ。風のない日の静かな海を、そう呼ぶらしい」
「ナギ、か・・・グフフフ・・・仲間の前では、さぞかし上手く本性を隠しておったのだろうな」
「なっ・・・それはどういう意味だ!?」
だが冗談に慌てる妻の顔ににやけていると、今度は落ち着きを取り戻した彼女の返しの一言がワシに突き刺さる。
「で、では、お前の名は一体何だというのだ?」
「ワシは・・・生来名など持ってはおらぬのだ。かつて、とある小僧におじちゃんと呼ばれたことはあったがな」
「おじちゃんとは、直接は血の繋がらぬ近親の年配者を呼ぶ時に使うものだろう?」

近親・・・そう言われれば確かに、あの小僧はワシに対してある種の特別な感情でも持っていたのかも知れぬな。
今となっては確かめる術もないことだが・・・
「よくわからぬ。他に、誰かに呼びかけられたことなどないのでな。そなたも、ワシのことは好きに呼ぶがいい」
「それなら・・・アンクルという名はどうだ?その昔、小船に乗った子供が老人に呼びかけていた人間の言葉だ」
「フン・・・そなたもあの小僧も、揃いも揃ってワシを年寄り扱いか。だが・・・アンクル・・・悪くない名だ」
800年以上の歳月を経てようやく良い妻を持ったというのに、ワシの心の奥底を揺らし続けていた小さな虚無感。
その何とも不快だったざわめきが、まるで潮が引くかのように遥か遠くへと消えていく。
ワシは初めてあの小僧に会うずっと前から、孤独に憂えていたわけではなかったのだ。
ただ誰かに呼ばれるための名・・・その己の存在を裏付ける確固たる礎を持たぬが故にあんな小さな湖で傲慢な主を気取っておったのだと思うと、妻の前だというのに思わず赤面してしまう。

「どうかしたのか?」
今度は逆に妻から問い返され、ワシは慌ててその場を取り繕った。
「な、何でもない。さあ・・・そなたは一足先に住み処へ戻って休んでおれ。獲物は、ワシが獲っていこう」
「フフ・・・おかしな奴だな・・・それなら、お言葉に甘えさせてもらうぞ」
そう言ってヒラリと身を翻すと、ナギが久し振りに見たような気のする暗い海中洞窟へと入っていく。
ワシはその後姿を見つめながら、安堵と、そして一撮みの幸福を噛み締めた吐息を漏らした。
コポリという音を立てて、小さな気泡が藍色を深めた水面で弾ける。
ワシと、ナギの子供か・・・さぞ小生意気な小娘や、雌にもロクに逆らえぬ気弱な小僧が産まれることだろう。
まるであの山間の洞窟に残してきた、若い竜の番いのように。
「グフフ・・・さて・・・妻と、ゆくゆくは我が子の糧になる魚どもを探しに行くとするか・・・」
ワシは自らに言い聞かせるようにそう呟くと、遠くを泳いでいる憐れな魚群に向かって身を躍らせていた。



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