GBA逆転裁判発売前 プロデューサー稲葉氏インタビュー

GBA逆転裁判発売前 プロデューサー稲葉氏インタビュー

 

Web archive/2001年09月28日
消えつつあるネット上の貴重な資料を公開。


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http://web.archive.org/web/20011019172123/http://www.capcom.co.jp/cmm/nm/10928c/

 

カプコンを支える様々な人物にスポットを当て、
その人の考え方や人間性をインタビュー形式でお送りする『カプコン人間模様』。
今回の犠牲者(?)はバイオハザードでおなじみの第四開発に所属する
プロデューサー、稲葉敦志。
おそらく、読者のみなさんのほとんどはこの人物をご存知ないと思う。
プログラマーとして入社した後、いくつかの作品を経てプロデューサーとなった彼は
物作りへの情熱、考え方など、本当にプロ意識を持った職人である。

インタビュアー:大介、マエ



稲:俺って、話しかけにくいと思う?ビジュアルというか、雰囲気というか、気さくに。

マエ:…ちょっと怖かった。

大:うーん、ちょっと怖いかもしれないですね。

稲:うーん、昨日、東京で電車に乗ってたんだけど、ちょっと疲れてて、脚開きーの、腰で座りーのって感じで。

マエ:うわぁ

稲:で、知らないおじさんに肩叩かれて。

大:勇気あるな。

稲:てっきり注意されるかと思ってたんだけど。でも、注意されたらムカつくなぁ…。

大:うふふふふ。それがヤバいんですって。

一同:ははは。

稲:でも、そのおじさんは「お兄さん、腰悪くするよ。」って。

大:ははは。そっちの注意かい。

稲:で、俺も「あ、そうスよね。」って、座りなおして。でも、よくよく考えてみたら「俺ってうまく操られてるのかな!?」と。

一同:ははは。

稲:で、俺もそんなん言われたの初めてで、その話をウチの諏訪部…って知ってる?

マエ:?

稲:ウチの部の新しいアシスタント。その娘にこの話したら
「稲葉さんって、話しかけにくそうなのに、よくそんなこと言えますよね!?」って。

一同:あははは。

稲:それ、どういう意味やねん、と

大:うふふふ。

稲:「ちょっとヤンキー入ってるじゃないですか。」「やかましい!」みたいな。

大:はははは。でも、ちょっとだけヤン入ってるかも(笑)

マエ:うん。

稲:「うん。」って。君タチ、ちょっと失礼やで、インタビュアーとして(笑)
…質問状読んだんだけど、特に考えてきてないんだけど。

大:結構スよ。雑談とかがメインのコーナーですから。

稲:あと、素朴な疑問なんだけど…メルマガなのに、なんで写真撮るの?

マエ:WEBで…

稲:あ、そうなん?俺、全然気抜いてた。

一同:はははは。

大:メルマガはダイジェストで抜粋してあるんですけど、WEBの方はノーカットで。
よっぽどヤバい部分以外は除いて行けるとこまで。

稲:そうなんや。俺、花柄のシャツ着て来ようかと思っちゃったよ。

大:アリですよ、アリ。でも稲葉さんって、結構服とかにお金かけてますよね?

稲:そんなことないよ。言ったことなかったかもしれんけど、そんなにかけてない。
かけてるように見えてるんかな?

マエ:上手なんですね。

稲:ブランドとか気にしないしね。パンツ一枚2万とか3万とか、そんなん嫌。
つーか買えない。それより自分で店回っておもしろいモンを探す。

マエ:ふんふん。

稲:これでもアメリカとかで普通に売ってるワークシャツなんだけど1900円とかやし。
これにワッペン付いてる奴を昔キムタクがCMで着てた。エセキムタクモデル。

大:知ってます、知ってます。

稲:前にこのパンツいくらか聞いてたやん?

大:えぇ、えぇ。それ、シルエット格好良いですよね。

稲:これだって5800円。

大:良いなぁ、それ。

稲:アウトレットで偶然見つけた試作品だから。

大:クラブとか着て行ったらヒーローですよ。

稲:ホンマか!?でもね、そのセリフにお前の願望とか見えちゃうね。
「クラブでヒーローに→クラブでモテたい。」っていう考え。

マエ:それは重要ですね。

大:重要、重要。

稲:でもクラブは出会いも多いし。

大:でも、僕はクラブに出会いを求めてないですよ。音楽ですよ、音楽。

稲:出会いの方が、楽しいんちゃうん(笑)

マエ:前回の岡本さんと一緒だ。

一同:あはは。

大:出会い系クラブ。

マエ:出会い系(笑)

稲:女の娘(コ)と遊ぶって言っても、一緒に楽しい時間過ごせればいいや、っていう程度じゃないと失敗するしね。いかに牙隠すか、という。


大:過去に関わったタイトルとか書いてますけど、あんまり関係無い話でも全然OKですよ。

稲:そうなん?嘘はあかん?

大:なるべく少なく(笑)

稲:そういえば、今してるリングは『5thアニバーサリー』(※1)の。

大:おぉ。結構、銀モノしてますよね。

稲:別に数持ってないからね。指太いし。

大:なんか、スポーツやってはったんですか?

稲:いや、何も。あ、強いて言えばドラム。ドラマーですよ。

大:ゲーセンで。

稲:違うっちゅーねん。で、日本で売ってるリングって、合わないのが多くてこれもサイズ23とかだし。
考えられへんよね、女性からみたら。

マエ:でも私も太い方だから…

大:平気で16とか買ってるじゃないですか。ヤサ男どもは(笑)

稲:そうそうそう。で、自分ができるリングが欲しいなぁ、と。で、最初は自分のサイズに合わせて制作してたんだけど、当然「デカい。」って言われて泣く泣く19とかにしたよ。
そもそも『5thアニバーサリー』ってファンアイテムの一環じゃない。なのに、最初は『バイオ5周年記念皿』とか言ってたしね。皿やで、皿。

大&マエ:えーーーーっ!

大:結婚式とかで配るような奴ですよね。

稲:そうそう。後はシステム手帳とか。

大:マジかいっ!!ある意味バイオノートだけど。

一同:あははは。

稲:って感じで、最初はごっつ面白くないプロジェクトやってん。これはどうなん?っていう。でも、まぁ俺には関係ないし、いいやって感じだったんだけど。次の『5thアニバーサリー』の会議の時、なぜか俺が三上さんと一緒にその場にいて、で、その時横にいた担当のクリエイティブの人と意気投合しちゃった。
リングとかあったら良いスね、って感じで。で、会議終わったら三上さんに肩叩かれて「頼むな。」って。

一同:あははは。

稲:しまった…言うんじゃなかった。「お皿で。」とか言ってればよかった(笑)

一同:あははははは。

大:でも、ウチのグッズって格好悪かったじゃないですか。最近は変わってきたみたいだけど。

僕は「着たい。」とか「欲しい。」とか思わなかったんですよ。

稲:お、爆弾発言。

大:キャラとか使うのは良いんだけど、そのままじゃないですか。本当は、みんな着たいと思うんですけど、胸に大きくゲームキャラのイラストが描いてあるTシャツはさすがに着れないじゃないですか。あれ着て街は歩けない。

稲:まぁ、ね。デザイン的に昇華して欲しいのは結構あるよね。で、『逆転裁判』ではキチンと作ろう、と思ってたんだけど、ちょっと挫折気味。
でも、須藤さんところの『ワンピースマンション』はうまいことやってるよね。あのTシャツはカッコイイ。

注釈) 1:5thアニバーサリー…
2001年の3月22日で『バイオハザード』は5周年という節目を迎えた。その記念に作られた限定モノ。アタッシュケースにソフトやグッズがたくさん入った豪華なものになった。


大:稲葉さんのこれまでの経緯なんかを。

稲:いきなりインタビューらしくなったね。ヘタクソだけど。

大:まだ2回目なんですよー。まだまだ練習スね。

稲:どこから話そう?俺がカプコン入ったのって…まさにピッタリ3年前。
見た目偉そうで態度デカいから勤続年数多そうに見えるらしいけど。

一同:あははは。

大:以前は、僕の好きなアイレムにいたって聞いたんですけど。

稲:そうそう。アイレムは最初にいたメーカー。いいよね、アイレム。モロ関西のノリ。
そこでは『R-TYPE』の最後の方とか作ってたね。手伝いで。

大:LEOとかですか?

稲:そうそう。あとはアーケードの『ボンバーマン』とか。アイレムの時はすごく楽しかったね。
後はSNK。ちょうどゴタゴタの最中だったから、裏の事情とか詳しいよ。

大:マジすか!

稲:ヤバすぎて詳しくは言えないんだけど。SNKは3年くらいいたかな。ゲーム2本作った。で、2本目のマスターアップの次の日からカプコン。

大:え、空白期間とか無いんですか!?

稲:ないない。全然休んでなかったね。まぁ、どこでも落ち着かなかったけど、カプコンではちょっとだけ落ち着いてきた気がする。

大:うんうん、良いことですね。でもスゴイですね。休みなし。

稲:カプコンには、ファミ通の広告見て応募した。



大:あぁ、『BIOHAZARDNEXTPROJECT』のアレですね。出してましたね、広告。(※2)で、三上さんが面接して…

稲:いや、実は違う。俺、元々プログラマーだから面接とかは違う人だったの。入社するまで三上さんとは全然絡んでない。

大:そうだったんだ。

稲:で、プログラマーとして第四(開発)のいくつかタイトルに関わろうとして…でも、1本も完成までやってないんだけどね。そのうち、制作進行とかプロジェクト全体を見るようになった。で、やがてプロデューサーみたいなことするようになった、と。

大:なるほど。

稲:で、最初のタイトルが『ベロニカ完全版』。でも、ゲーム性とかの中身は完成してたわけだから、見るのは広告とか宣伝とか周りの色んなプロモーションが中心だった。『ウェスカーレポート』(※3)とか『5thアニバーサリー』とか。

大:発表会とかもやってたし、相当忙しかったんじゃないですか?

稲:うん。まぁ、楽しかったし、勉強になったし、やりがいもあったから全然OK。で、その後にスゴイ量のタイトル見ることになった。

大:近いところでは『逆転裁判』とか。

稲:そうそう。『グランボ』とかも含めたGBAタイトルがドドっと。でもGBAが連続で3本重なってるのはツライね。全部発売日近いし。

(携帯が鳴って席を離れる稲葉)

稲:ゴメンゴメン。インタビュー中に。

大:いえ、全然良いスよ。本当はこんな感じで部屋取って硬い雰囲気でインタビューするのは嫌なんですよね。ビール片手にイエーイ!みたいなノリでやりたいんですけどね。

稲:それじゃ。『ウェスカーレポート』やん(笑)

大:あははは。

稲:でも、あれって、すごいお金かかってるよ。

大:やっぱり。場所は有名な所って聞いてたんですけど、そんなに?

稲:うん。XX万ぐらい。

大&マエ:え、そんなに!?

稲:うん。見積もり取る時に、場所代が△△万、カクテル一人1・2杯としても○○万以内で収まる。とか考えてたのに、いざ現場に行くと、みんなで「お、ヘネシーやん。」みたいな。

一同:はははは。

稲:気づいたらXX万。真っ青になったね。2度と出来ないだろうね。

注釈) 2:ファミ通の広告…
『バイオハザードネクストプロジェクト』と題された広告。「おまえが、つくれ。」というショッキングなコピーは印象深い。


注釈) 3:ウェスカーレポート…
『バイオハザード』5周年の一環として制作されたスペシャルディスク。過去の『バイオハザード』シリーズの流れを仇敵ウェスカーが自分の視点で解説する『ウェスカーレポート』、後で触れる『開発者インタビュー』などのコンテンツが収録されていた。


稲:『逆転裁判』はね…って、話持っていこうよ。インタビュアー。

大:あははは。すいません、経験不足で。

稲:そういえば、お前って女口説くのヘタそうだよね。ムードとか作るの苦手そう。常に直球勝負。

大:あ、それはちょっとあるかも。

稲:まぁ、攻め方は人それぞれだからね。

大:…で、『逆転裁判』は。

稲:やっぱり強引やね…。

一同:ははははは。

大:っていうか、最初に「裁判モノにしよう!」って決めたのは誰なんですか?

稲:ディレクターの巧君。でも、もともと本人は『探偵モノ』って言ってて。
巧君ってさぁ、『ディノ』と『ディノ2』のディレクターなんだけど、この企画(『逆転裁判』)6年くらいあたためてたのね、ずっと。でも他の仕事が忙しくてやるヒマ無くて。

大&マエ:うんうん。

稲:その間、この企画ってずっと引き出しの中にしまってたんだよ。だから、三上さんが、ぼちぼちやらせてあげないと…って言うと語弊があるけどね。
『ディノ』は『ディノ』で面白い仕事だったと思うんだけど、やっぱり6年も暖めてるんだから、やらせてあげようよ、と。

マエ:うん。

稲:で、その『探偵モノ』の企画書見せてよ、と。三上さんと一緒に行ったのね。で、見たら「探偵じゃなく、裁判やないかい!」、「主人公、弁護士やん!!」と。

一同:はははは。

大:話変わってるやん!

稲:でも、よくよく見てたら、これはこれで面白いなぁ、と。法廷での駆け引きとかって、ゲームでは今まで無かったじゃない?

大:ええ。

稲:で、いざスタートしたんだけど、最初はシナリオで揉めちゃってねぇ。法廷シーンはこのまま煮詰めていけば良いとして、じゃ、それを面白く見せるストーリーはどう組み立てようか、と。

大&マエ:うん。

稲:最初に見たストーリーがすごく難解なもので、ゲームとしては掴みが無いのね。
ミステリーの読み物やったらOKやけど、ゲームの場合ちょっとね、って感じで。

大:売るのはどうか、と。

稲:ディレクターの仕事は自分の感性で良い提案、良い作品を作ることじゃない。で、プロデューサーは、作品をより多くの人に受け入れてもらうために良い提案をすること。
だから、プロデューサーはその大義名分のためにのみゲームに口を出せると思ってるのね。これは、三上さんの教えなんやけどね。

大:なるほど。で、やりなおすことに。

稲:で、巧君が再度手を加えて面白いものになったんだけど…

マエ:だけど…?

稲:キャラクターがイケてなかった。これは駄目だと思った。

大:そんなに。

稲:悪いけど、キャラだけはイチから全部やりなおしてね。って感じ。
最初の設定原画とか、見たことある?

大:ないです。

稲:ちょっと見せてあげるよ。

(電話で原画を持ってきてもらう)

稲:お話も絵も最初は難航したけど、一度殻を破ると、後は順調に流れ出した。うん。
で、面白いゲームが出来ました。自信を持ってオススメできる。でも『裁判のゲーム』って大抵の人は『難しそう』って印象受けそうじゃない。

大:そうですね。僕も最初に触るまでは、すごい抵抗ありましたし。

稲:そうだと思うよ。ゲームやってる社員でさえそんな感じ。じゃ、普通の人ならなおさらやろ、と。だからWEBで体験版公開して、という風になったわけ。

大:あれは良いですよね。

稲:今でアクセス数が1万超えたぐらいなんだけど、アンケートの結果はすごく良いよ。
「分かりやすい」とか「もっと先までやらせろ!」とか。「やるまでは分からなかったけど、やったら面白い」って意見がほとんどでね。

大:あと、タイトルのインパクト。漢字4文字のタイトルって、なかなか無いじゃないですか。
『半熟英雄』ぐらい(笑)

(原画到着)

稲:おぉ、おぉ、ご苦労。

大&マエ:うわ。

稲:どうよ、この「売れなさそー」な感じ。

一同:あははは。

稲:絵のタッチはカプコンっぽいよね。

大:でも、この人は千尋さんっぽい。

稲:似てるけど、配役は今とまったく違ってる。敵方なんだよね。

マエ:なんでこんなに違うキャラだったんですか?

稲:『裁判』っていう大人向けの題材じゃない。で、子供には難しいかと思ってたんだけど、やっぱりアドバンス持ってるのは子供達だから、子供にもある程度分かりやすいものにしたいよね、と言ってたら、それを意識しすぎてこうなったんじゃないかな。分かりやすい敵と師匠みたいな。
でも、しっくりこなかったので、もういいや、大人向けでもいいや、と思ってからだいぶ変わったね。

大:なるほど、割り切りが功を奏した、と。

稲:うん。意見の中にも「大人向けのソフトがなかったけど、これは楽しめそうです。」と。
これは嬉しかったね。

大:(原画を見て)でも、これで裁判モノって言っても誰も信じないよね。

稲:しかもタイトルが『サバイバン(仮)』(笑)これが嫌でね。途中で何度も巧君に「そろそろタイトル決めようか~。」「いや、『サバイバン』で。」「う~ん、駄目。」

一同:あははは。

稲:で、100コ、200コぐらいリストアップして、最終的に『逆転裁判』に。漢字って新しいよね、って意見が多くて。まぁ、子供向けじゃないから良っか~。と。

大:箱も黒ですしね。

稲:そうそう。ロゴデザイン決まった段階で「あ、これは黒がイケる!」って確信があったのね。

大:黒って珍しいですよね。

稲:そうそう。箱押ししてるしね。今回のこだわりの一つ。やっぱり何か一つでもこだわってる部分を入れたい。当たり前のルーチンワークするのが大嫌い。『5thアニバーサー』の時もそうだったし。紙のサンプルを見にわざわざ東京行ったりとか。『ベロニカ完全版』の取説の紙も、ちゃんとマット加工してキッチリ仕上げたかったんだけど、ブ厚すぎて箱に入らないので、泣く泣く諦めた。チクショウ…

一同:あははは。


稲:『逆転』は、俺自身の作業量的には、ちょっと楽だったかも。そりゃ最初は辛かったけど。作る方はほとんど巧君に任せてたし。で、ゲームが完成して「お疲れさまでした~」の後からが大変。要は『売る』ってことに関してね。限られたプロモーション予算と時間でのやりくりがシンドイね。でも、その方が逆に面白い意見とかバンバン出て楽しいよ。パタパタフラッパー(※4)って、まさにそれ。あれは広告プロモーション担当の女性スタッフの持ち込みアイデアなんやけど。

マエ:あれ、ずっとパタパタさせて遊んでました。

大:仕事せい!(笑)

稲:あははは。逆転裁判の会議中とかでも、俺、ずっとパタパタやってたからね。
そんな新しいアイデアとか拾ってくるのも俺の仕事やと思ってる。で、そのアイデアをゲームソフトのカラーに統一するのも俺の仕事だし。でも、はたから見れば何もやってないように見えるんだろうな…。

大:で、怖いから誰も何も言えない、と。

一同:あははは。

稲:そんなこたぁないよ。結構言われてるし、イジメられてるよ。

稲:でも、こんな感じのって本読むのは好きだけど、ゲーム作るのはできないから、巧君はすごいと思う。
すごいストーリーテラーだと思うよ。

大:裁判ものって、無いですもんねぇ。

稲:でも、俺の場合、アクションゲームよりもこんな感じで考えるゲームの方が性に合ってるから良いかもね。家でやるゲームも、シミュレーションとかRPGとか、じっくり考えるものが多い。

大:そうなんですか。

注釈) 4:パタパタフラッパー…
『逆転裁判』の販促グッズの一つ。店頭用のチラシ。折り紙のように紙を折っていくと次々と別の情報が見れる。折ると「パタパタ」と小気味良い。


稲:趣味もインドアだし。

大:へぇ。

マエ:引きこもり系

稲:そうそう。(笑)

大:どんな?

稲:俺って、会社から離れたらデジタル要素を極力排除したいの。1、0の世界には触れたくない。もともとプログラマーなんだけどね。家に帰ってインターネットだなんて、とんでもない。

大:意外ですね。

稲:テレビとかステレオはしょうがないけどね。

大:うん。

稲:今って、生活において、結構何でも思いのままに出来る世の中じゃない。ジュース飲みたいと思えば自販機があるし、携帯でどこでも話せるし。

大:うんうん。

稲:でも、なんて言うのかな、自分の思いのままにならないものが好き。陶芸とか。アナログでオッサンくさいけど。

マエ:ろくろ回すんですか?

稲:まわすまわす。

マエ:すごい!

稲:思い通りにいかない事のワビサビ、みたいな…。

大:陶芸って微妙ですよね。アウトドアなインドア(笑)
でもやってみたいですね。お皿とか焼いてみたい。

稲:田舎とか自然とか好きなんだけど、スポーツとかは好きじゃない。

大:スゴイね。会社ではバリバリのデジタル、家ではバリバリのアナログ。

稲:反動なのかもね。

大:まさか、釜とかは無いですよね。

稲:ないない。でも欲しいと思ってるんよ。

マエ:あははは。

稲:東急ハンズとかで売ってるやん。自宅用の釜。20万ぐらいするんだけど。
「うわぁ、欲しいな…」って。

大&マエ:欲しいんや(笑)

稲:陶芸良いよ。特に勧めるつもりはないけど、焼くロケーションとか含めて楽しい。梅田にも陶芸できる場所あんねんけど、梅田では陶芸してる気分に絶対ならない。やっぱ、山の方とか窯元(かまもと)がいっぱいあるとこに行かないとね。

大:俺もやってみたいな。

稲:最近見たんだけど、俺の尊敬してる業界人が趣味に「たき火を眺めること」って書いてて。疲れた時とかにボーっと眺めてると癒されるらしいんだけど、この人とは通じるところがあるかも、と思った(笑)
陶芸って、別にそれで金が貰えるわけでもないやん。別に有益ではないかもしれない。
だけど、俺はそこにエンターテインメントを感じてるんだよね。エンターテインメントの本質って、俺は『無駄で必要の無いもの』と思ってるから。確かに、無駄と遊びを無くしたものって、本当にシンプルで潔いものだと思う。だけど、全然つまらないじゃない。F1のマシンみたいにハンドルに全然遊びがなくて、すごくシビアな感じ。それはそれで大切なんだろうけど、そんな人生はつまらないよね。
それよりも、例えば、シャンパングラスが底から気泡が出るように作られてるのは遊び心だよね。こうだったらちょっと楽しいな、っていうところでしょ。

大:うんうん。

稲:そういう遊びのエッセンスをユーザーのみんなに提供できたら良いな、と思うね。ゲームは「触れるメディア」じゃない。テレビだと見ながらご飯食べれるし、電話もできる。だけどゲームの場合、触って楽しむものでもあるから、そのために自分の貴重な時間を止めないといけない。だから、それなりに価値のあるものを作らなきゃいけないんだと思ってる。

大&マエ:うんうん。

稲:しかも、時間だけじゃなく金まで取って。だから、すごく罪な仕事なんだけど、そこまで人を虜にしている物を作ってるってのはすごい快感だよね。だから、実際は人間の本質的な商売だと思う。この業界。

大&マエ:そうですね。

稲:ってこと、考えたことある?

大:ないですね。全く。

一同:あはははは。

大:確かに、衣・食・住のどれにも属さないものじゃないですか。でも、あったら嬉しい。

稲:欲求にも入ってないよね。風俗とかって、性欲に基づいた産業だから分かるんだけど、ゲームはねぇ。なんだ、こりゃ?みたいな。だから罪深いよね。でも後ろめたくはない。

大:趣味が陶芸って珍しいですよね。第四の人って、映画とかごっつ見てるイメージが(笑)

稲:うん。映画は好きでよく見るし、好きな監督もいるけど、「趣味」と言えるほどではない。
趣味にしてる人って、単館モノとか平気で見に行くじゃない。そこまではないね。

マエ:音楽は?

稲:音楽も同じ。好きだし、聞くけど趣味ではない。やる方が好き。ドラムやってたし。
みんなでワーっとやるのじゃなく、一人で黙々とやることが好きなのかも。

大:でも、誰しもそうなんじゃないですか?
映画もゲームも全部そうじゃないですか。ステキなひとときを邪魔されたくないし。

稲:女の娘(コ)と遊びに行く時は別。

一同:あははは。

稲:でも、一人で音楽聞きながら本読んでる時が一番幸せ。

マエ:よく読むんですか?

稲:うん。すごく読む。クレジットカードの支払いは本代が一番多いね。

大:カードで買うんですか?

稲:うん。ハードカバーを買うことが多いし。あれって意外に高いやん。レジに持っていって「あ、お金が無い。」って事が多くて。

大:では最後に「『逆転裁判』気になるな、でも面白いの?」と思ってる人にメッセージを。

マエ:あははは。具体的だ。

稲:若干大人向けかもしれませんが、内容はすごく楽しいものになっていると思います。WEBで体験版も出来ますので、機会があればそちらもやってみてください。製品版もボリューム、内容ともに自信のある出来になっていますので、ご期待下さい。

大&マエ:ありがとうございました。


インタビューを終えて…

稲葉さんは「罪深い。」と連呼していた。
確かに、ゲームなんて無くても生活になんの支障もない。
だけど、そこに時間と金を割いてまで価値を見出してくれているユーザーがいるってことは、
本当に素晴らしく、決して罪ではないと信じている。
インタビュー後、改めて『逆転裁判』をプレイして、激しくそれを感じた。


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最終更新:2012年06月18日 19:51
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